174話:秘密って、教えてもらえないんだ
「あなたたち、帰ってよ!」
そう叫んだけど、特別な意味があったわけじゃない。
……なんだか、悲しくなってきただけだった。
ただ、私に“似ている”っていうだけで?
……そうか。
私を襲ってきてくれるなら、
考えなくて済むから、楽になる――
今は、だけど。
“秘密”をルクミィさんも持っているってわかってる。
“秘密”を、心に持っているから――
ルクミィさんも、悲しい顔をするのかな?
ヴェルシーとしたみたいに、
ルクミィさんとも、“秘密”を共有したいよ。
だから――この子たちを……。
私はただ、この子たちを――
大量の血煙にして、霧散させれば、それでいいはずだった。
クラシェフィトゥが、この瞬間に何億と切り刻む。
その様子を、別に見ている必要なんてなかった。
……でも、見えてしまう。
この悲しさも――切れないのかな?
もっと細かくしちゃえばいいのかも。
細かく、もっと、もっと――
まわりが、明るくなっていく。
私の頭の中は、真っ白になっていく。
「瑠る璃さま、行きますよ。もう、これで平気ですから」
ルクミィさんは、私の腰をしっかりと抱き、
そのまま一緒に――螺旋階段から、飛び降りた。
抱えられたまま、今までいた螺旋階段を見上げる。
それは、思っていたよりも遥かに大きな――巨大な螺旋になっていた。
延々と続くその階段を、私はずっと、
「まっすぐ上へ進めばいい」って、そう思っていた。
でも――
ルクミィさんが来てくれなければ、
私は、あの子たちと一緒に、永遠に歩き続けていたのかもしれない。
今、その螺旋階段は、ゆっくりと崩れ始めていた。
悲しかったことは、ちゃんと覚えてる。
でも――もう、悲しくはなかった。
普段の私に、戻った。
……たぶん。
魔法糸が、なくなっていた。
「あっ」と、大きな声が出た。
ルクミィさんに聞こうとしたけど――
その前になぜ私は、ルクミィさんとは逆向きに抱えられているのかな?
なんだかそれが、子供のころを思い出させた。
……碧り佳姉さまに抱えられて、
ベッドに連れていかれた、あのときのこと。
どう考えても、そのとき私は悪いことをしたはずなんだけど――
肝心なその“理由”は思い出せなかった。
でも、楽しかった。
今、こうして抱えられている感じも、
あのときと同じくらい――安心してる。
「ルクミィさん。
私が持ってた魔法糸、どこにあるのか……わかるかしら?」
「“さきほど”回収されていきましたよ。
ヴェルシーさまを、お目覚めさせましたからね」
「そっか……。
どうして、こんなことになったのかしら?
魔法のせい……だよね? あの糸が伸びて、絡まって……」
「ふふ。
ヴェルシーさまのせいではありませんよ」
「ふむ。
じゃあ――なんでなの?」
「それは、内緒です」
……ルクミィさんは、“秘密”を共有してくれない。
それって……やっぱり、大人だからなの?
私も、もう大人なのに……たぶん。
【後書き】――rururi
私、たぶん大人なんだけど……。
でも、ルクミィさんの「内緒です」って言い方には、
ちょっと子どもに戻っちゃう感じがするんだよね。
それでも、あのときルクミィさんが来てくれてよかった。
「悲しいのにもう悲しくない」って、ちょっと不思議でしょ?
……それが、魔法なのかな?
【後書き】――writer I
「似ているだけの自分」と向き合うのは、想像以上に苦しいものです。
しかも、それが襲ってくるかもしれない。
だからこそ瑠る璃は、自分のなかの“秘密”にすがろうとします。
けれど、秘密は誰かと共有した瞬間、ただの事実になってしまう。
悲しかったけど、今はもう悲しくない。
秘密はまだ共有できないけど、
私はまた、普段の私に戻れた。
たぶん、それでよかった。