173話:え?戦っちゃうの?
「はーい」と、優しい声で助けに来てくれたルクミィさんは、
螺旋階段の“上”からでも“下”からでもなく――“外”から現れた。
……え? どこから?
私の目には、螺旋階段の“真横”から近づいてきたように見えた。
最初に見えたのは、足とスカートだけ。
手すりの向こう側から、まるで真下にいる私をのぞき込むように、
顔を出して、にこっと笑って手を振ってくれた。
それから、手すりの側面に横向きに立ち、
しゃがみ込むと、「よいしょっ」と言って手すりをひょいと飛び越えた。
着地したとき、ルクミィさんの向きは――私と同じになった。
「瑠る璃さま」
ルクミィさんは、ずっと笑顔で、私を見ていた。
話しかけてくれると思っていたけど――
そのまま、ただ優しく見つめているだけだった。
私も、なんだかうまく考えられなくなってきて、
「あれ……?」と、頭の中で何かが引っかかったようで、
思考が、進まなかった。
「瑠る璃さま。こちらに、何しに来られたのですか?」
ルクミィさんは「どうして?」と仕草で言ってくるけど、
笑顔はそのままだ。
……んー、もしかして……。
私は『非物質界』にいると思ってたけど、違うのかな?
「あのね、ヴェルシーのローブの糸が魔法糸で、勝手に穴があってね――」
「“なるほど”。……落ち着いてくださいな、瑠る璃さま。
良かったです、瑠る璃さまのままで」
え? ……あ、そっか。
私、そんなに慌ててたかな?
「瑠る璃さまのままで」って、つまり――
あの子たちと、見分けがつかなかったのかな?
「えっと、下にいる私みたいな子たちは違う――」
……でも、それで伝わるのかな?
私が続きを言おうとした、そのとき。
ルクミィさんが、ぽんっと肩を叩いた。
「ちゃんと、違うことは分かりますよ。
今のエネルギーでは、“完成品”とは言えませんから」
「あ! ここって『非物質界』じゃなかったのね?」
「はい」
「じゃあ、『銀の理生物界』……なのね。ここは。
でも、なんだか私の意思でできた場所みたい」
「そういうところですから。……早く片付けてしまいましょ」
――片付ける?
……もしかして、あの子たちのこと?
「あの子たち、前みたいに襲ってきたわけじゃないのよ?」
その私の一言だけで悟っているようだった。
ルクミィさんが、ここに来て初めて――悩んだ顔をした。
「私からのお願いです。
見ないでください。聞かないでください。
いずれ……わかると思いますから」
ルクミィさんの顔は、少しだけ――悲しそうだった。
今まで、ルクミィさんは、必ず私を助けてくれてきた。
だから、今回も間違いじゃない。
……そう、思いたかった。
「なぜ、そんな悲しい顔をするの?
あの子たちが……可哀想なの?」
そのとき――
なぜか、ルクミィさんが私をぎゅっと抱きしめた。
「“なるほど”。
瑠る璃さまは、勘違いしていますね」
私は、何も知らないから――。
「あの子たちは……これから、襲ってくるんですよ」
え?……え!?
ルクミィさん、なんで笑ってるのよ。
それに……
なぜ、あの子が階段を、私たちに向かって歩いてくるのよ。
【後書き】――rururi
ちょっと待って! 「片付ける」って、そういう意味!?
ていうか、ルクミィさんって笑顔であんなこと言うのズルいよね?
でも、ぎゅってされると……なんか、否定できなくなっちゃう。
私、やっぱり、知らないほうがいいこともあるって思っちゃった。
……でもね、見ちゃったし、聞いちゃったし、
だから、たぶん……私、行くよ。