172話:見られてるって気づくと、言いにくいよね?
ここは、私の世界のようだけど――でも、なんだか違う気がしている。
それは、目の前の女の子が私にあまり似てないな……
と思いはじめたからかもしれない。
だから、今度は無視して階段を上がっていくことにした。
ふぅー……。
もう何段くらい上ってきたんだろう? 数えておけばよかったな。
……でも、今から数えればいいか。
それにしても、さっきの女の子の鼻歌が、ずっと頭から離れない。
それとも、この螺旋階段が反響してるのかな?
内側の手すりに手をかけて、そっと下をのぞいてみた。
……さっきの女の子が、一回り下の段を、ついて来ていた。
……ん?
そのさらに一段下にも、女の子はいた。
檻の扉は壊れてるんだから、ついて来てもおかしくはない。
でも、私が休んでいる時には、その子たちも同じように止まってる。
どうやら、話しかけてきたいわけでもなさそう。
……なんだろう、これ。
階段の段数を数えるのは、もうやめた。
代わりに――女の子が、何人ついてきてるのかを数えることにした。
……十人を数えたところで、飽きてしまった。
いや、ちょっと違うかも。
下から聞こえてくる声が、重なり合って――
とても、うるさい音になっていた。
一人ひとりは、きっと可愛い声なんだろうけど……
今は、それが気持ち悪く感じる。
疲れてたせいなのかもしれない。
思わず、言ってしまった。
「うるさい!」
……無音になった。
もしかして、みんないなくなったのかな?
また、内側の手すりから下をのぞいてみた。
女の子たちは、みんな身を乗り出して、
一斉に上を――私を見ていた。
「しー」
……そうは言ってみたけど、ちょっと可哀想だったかな?
でも、こうなるとまるで自分に謝ってるみたいで――
可笑しくなってきた。
下に戻って、謝るというか……ちょっと話してみようかな、とも思った。
でも、戻るのは面倒だったし、
私が降りれば、きっと女の子たちも、
同じだけ降りてくる気がして――やめた。
「はぁん」とため息をついた、その時。
……る……りる……
声が、聞こえてきた。
……私の声じゃない。
「瑠る璃さま。平気ですか?」
ルクミィさんの声だった。
「はい。私は平気です」
もう、疲れている事を思い出したのかそれ以上何も考えられなかった。
「あの~助けた方がいいですか?」
あれ? ルクミィさんは、助けてくれないのかな?
ていうか、ルクミィさん……なんか可笑しいこと言ってないかな?
ここまで来たのって、私を助けに来てくれたんじゃなかったの?
……まああれは、ただの確認だよね?
「ルクミィさん、助けてください」
どこにルクミィさんがいるのか分からなかったけど、
「はーい」っていう、優しい声が聞こえた。
その瞬間、すごく――気持ちが安らいだ。
【後書き】――rururi
いや、ほんとに静かになった時って、逆に怖いんだよね?
「しー」ってやったのは私だけど、みんな揃って上を見てるのは反則だよ。
でも、ルクミィさんの「はーい」で全部どうでもよくなった。
安心って、声ひとつで来るんだね~。