170話:あーもう。全部魔法のせいだからね
締め付けられているのは、嫌い。
だから、体の力を抜いて、楽になって――いつものように、眠るみたいに。
頭の中も、からっぽにしてみたら……少し、楽になった。
たぶん。たぶんだけど、この魔法糸を握っていれば、
そのうち気づいてくれるはず……
これって、私が迷子にならないために付ける、あの糸みたいなものだよね。
早く気づいてね、ヴェルシー。
――ん? 私、何かに引っかかった?
するっと服を脱ぐように、魔法糸がほろっとほどけていく。
どうやら、ここには底があったみたい。
何も見えないけど、私と糸が底に触れるたびに、空間が波打った。
ぱんぱん。軽く叩くと波紋だけが広がっていく。
水面の波紋みたいで、何度も叩いて、それで気を紛らわせてみた。
ちょっと楽しくなってきた――そのとき。
どこからか、波紋が返ってきた。
私はすぐに立ち上がって、波紋が来たと思う方へ歩き出す。
反射して返ってくる波紋が、どんどん多くなってきた時――ハッとした。
本当の水面みたいに、底に映っている私がいる。
止まってよく見ると、それは鏡に映ったような私だった。
そして、その私の背後には――何かがある。
螺旋階段?
そうだ、家の中央にある、あの螺旋階段とまったく同じだった。
……でも、すぐに思う。
鏡の中だけにあっても、しょうがないよね?
たぶん、ここも『非物質界』
だとしたら、目を閉じて思い浮かべれば――
私の“後ろ”にも出来ているはず。
意思が、力強く作用する世界なんだから。
「いっけぇ~」
音が響かないこの世界じゃあ実際に叫んだのかわからなくなったけど、目を開いた時に鏡面に映っていた螺旋階段が消えていた。
……え?
そんなこと、考えてないよ?
はぁん。ひっくり返るように倒れ込んだ。
横を向いて見ると、螺旋階段は――そこにあった。
もう、これはぜんぶ、魔法のせい! ヴェルシーのせい!!
「あぁ〜」と、しばらくじたばたしながら、気がすんだ。
たぶん、これを上って行けば帰れる……そう思って立ち上がった瞬間、
また頭が、プスッ、ってくる。
だって、この螺旋階段――地下にも、伸びているから。
どちらにも、長い長い階段が続いている。
一体、あと何回見ればいいんだろう?
上を見たり、下を見たり――もう疲れちゃう。
決めた! やっぱり、上って行こう。
ヴェルシーじゃないとしても、助けは――
たぶん、上から来てくれる気がする。
それが、私の直感!
……まちがってたら、そのとき考えよう。
【後書き】――rururi
魔法糸、引っ張ったのは悪かったかも?
でもさ、階段作ったのは私じゃないし、
下にも上にもあるのが悪いんだよね?
……とりあえず、上ります。助けてくれるなら早めにお願い。
【後書き】――writer I
静けさの中で揺れる魔法糸、沈む体、映る鏡。
“落ちた先”で何を選ぶかは、直感に委ねるしかなかった。
何が正解かは分からないけれど、進む方向だけは――瑠る璃が決めたよ。