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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第十章:モザイク国世界
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168話:先生のカラダってどこ行ったの?

トキノ先生の前世の体はどこに?


そもそも亡くなってから”転生”が行われるまであっという間だった。


場合によっては数百年先で”転生”する可能性もあった様だけど、

ヴェルシーと一緒に小心で部屋に帰った時には、

勝手に部屋を作ってトキノ先生は”すでに”住んでいた。


うーん……つまり、私がトキノ先生を殺してしまったそのままで、

図書室で朽ち果てているとか……あるのかな、今も。


「トキノ先生はローズさんだった時の体がどうなったのか?

わからないのですか?」


「興味がなかったよ?」


「え?」


「意識は同じだと言ってもね――

体が変われば性格も変わるし、考えていなかったよ。

……そもそも、振り返る必要もなかったしね」


「はぁ……それじゃあ私と一緒に行きましょうよ。

ルクミィさんもいいでしょ?」


「はい、瑠る璃さまが行くのでしたら――どこへでも付き合いますよ」


私は、なぜか興味がなさそうなトキノ先生の手を取った。


「いいでしょ?」


そのまま立ち上がって腕を引っ張ると、とくに抵抗はしなかった。

むしろ、まるで最初からそれを待っていたかのように、

トキノ先生は軽く身を預けてくれたけど、ずっと何かを考えている。


図書室とは言っても、元から人がいない地域だし、たぶんそのままあると思う。

でも、今考えてみると、”あれは”どんな植物種だったのかな?

神殺し“だけ”の性質ならいいんだけど……


――図書室はこちら側から見たら、普通の家屋にしか見えない。

手前にある窓には日差しが差し込んでいるけど、

その窓に植物種がはびこっていたらどうしようと思っていた。


でも、変わりはなかった。

静かで、忘れられたみたい。


「誰も興味持たないのは普通なんだけどね」


トキノ先生はまたそんなことを言うけど……

そうだよね、私も――たぶんヴェルシーだって、気にしていないと思おう。


「カチャ」


入口の扉が勝手に開いた。

そこから見える範囲では、図書室という場所以外、何もなかった。

どうやら……何もない?


トキノ先生が最初に入った。

ぼそぼそと小声で、何かを言っている。


「あたし……」


ん? なに? トキノ先生。


「あたし、すごいかも。転生で消失した記憶は、ここにあるの。

ここにある本に紛れ込ませて、書いてあるのよ」


あ、そのうち思い出す――そんなこと言ってたけど、

今まで思い出せていなかったんだ。


大切なことの思い出し方も忘れて――

でも、やっと思い出せたんだね。良かったね、トキノ先生。


「あたし、これでまた亜神になれちゃうのかしら?

それは……わかります?」


私への視線が、ふっとそれた。

すぐ後ろで付き添ってくれているルクミィさんを見ている。


「亜神とは、私にとっては“概念”ですが――そうですね。

知識と意思があれば、戻れると思いますよ。

そうまだあなたは、生命の女神リレアスとして“求められています”からね」


やっぱり今でも、こんなに強いし可愛いのに――

それでも、神様になりたいのね。


「“この”復活を求めている人のもとへ行ってみれば、

思い出されるのではありませんか? 心の奥から」


ルクミィさんが笑顔でそんな事を言えば、もうそれは確実だった。だよね。


それからトキノ先生は新しいおもちゃしかない部屋にいる様で。

一冊の本を手に取っては、また次の本へと、せわしなく見て回っていた。


「ルクミィさんは、あらゆる世界を知っているの?」


「私ですか? んー。そうですねー。

薄くて広がるクレープが焼き上がれば、焼き目が付いて、

どんな感じかなーって。そう、わかる感じです」


「それって、すぐお腹いっぱいになっちゃいそう」


「んふっ。私は大食漢ですから、大丈夫ですよ。

それに、“今”は太陽が照らない世界のことはわからないので、

そんなに大きくはないんです」


どんな風に食べるのか想像ができないけど、

デカいクレープに違いないと思った。


でも結局、転生する前のトキノ先生の体は、どこにいったのかな?


もしここに、悲惨な状態のまま残っていなくて、よかったから、

だからもう、どうでもいいのかもしれない……

【後書き】――writer I


168話では、“転生”という仕組みの裏にあった静かな謎――

「前世の体はどうなったのか?」という問いから物語が始まります。

この問いは単なるミステリーではなく、

記憶・時間・存在の意味に触れていくきっかけになります。


トキノ先生は、その問いに対して驚くほどあっさりと

「興味がなかった」と返します。


その冷淡さのような態度の中にあるのは、

新しい存在としての自己と、過去を切り離す強さ。

でも、瑠る璃はそこに「手を取る」ことで、

忘却ではなく“つながり”の方へ物語を導いていきます。

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