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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第十章:モザイク国世界
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167話:結局いちごは食べちゃっていいんだよね?

古代魔法を行使するアメノシラバ帝国と、

精霊魔法を使うユキノキ国。


どちらも、世界に漂うマナを利用する点では同じ。

けれど――その“最後の使い方”が、決定的に違っていた。


……でも、それが原因じゃないよね?


私が知る限りでは、強すぎる植物種にどう対処するか――

その姿勢の違いこそが、この二国の争いの根なのだと思う。


アメノシラバ帝国は、植物種を「滅消」するために形成さられた。

それは、魔法使いという存在に言い換えてもいい。


一方のユキノキ国は、

悠久の時を、植物種とともに――

精霊を通じて共存し続けてきた。


「トキノ先生、これでいいんですよね?

これくらいなら、お勉強したことありますよ?」


その瞬間、トキノ先生の目がすっと細くなる。

あ、しまった――

先生と呼ばれる人に「知ってます」って言っちゃいけないんだった。


案の定、先生はさらっと言った。

「では瑠る璃くん。二百年前の争いでアメノシラバ帝国が、

ここまで拡大できたのはなぜでしょう?」


ぐっ。そう来ると思ってなかった。

でも沈黙するのもアウトだし、変にごまかすのも悪手だし……


私は部屋の中をぐるっと見渡した。

この部屋のどこかにヒントがあれば……と思ったけど、甘かった。


壁紙はパステルカラー、カーテンにはぬいぐるみの刺繍、

床にはふわふわのラグ、棚には絵本と知育パズル。


――どう見ても、

ここは「アメノシラバ帝国の拡大理由」を導ける空間じゃない。


むしろ、争いとは対極であって、

この世界は存在しなかったかのような部屋だった。


「ふふふ、それは、とてもお強い魔法使いが四人おりまして――

後に神となられたことから勇者だと考えられていますね」


開いていた扉の向こうから、ルクミィさんのやわらかな声が届いた。

タイミングが絶妙すぎて、助け舟というよりすでに全部見えていた?


「でも、情報が少ないので私も詳しくはわかりません」


ルクミィさんは、トキノ先生並みに博識で、

そして、わたしにとってはもう一人の先生。


だけど、今の様子を見る限り、トキノ先生からすると……

コーク先生?の様な立場なのかも。


今も丁寧にクッションを持ってきたり、

温かい飲み物までテーブルに置いている。

しかも湯気がちゃんと立っていた。


……私には、まだ何も出してもらってないよ。


「あっ、あの、どうぞこちらに……!」と、トキノ先生が少し声を裏返した。


「あら、ありがとうございます――瑠る璃さまの隣に座りますね」


そう言って、柔らかい笑顔で横に座ったルクミィさんが、

「これをあげます!」と、ケーキに乗っていたイチゴを私にくれた。


私に“いちおう”出されたケーキには、

もともとそんな“主役”は乗っていなかったけれど、

ルクミィさんのくれたイチゴが乗ると、

まるで最初からそういうケーキだったみたいに見えた。


そして、よりおいしそうに見えた。


「そのイチゴが今トキノさんたちが行おうとしている事ですよ」


私はどう言う意味なの?っという顔をしながらルクミィさんを見たけど、

笑顔のルクミィさんはずっとそのままだったから、

戻ってケーキを食べた。


「そうだ、トキノさん。

トキノさんは以前に、生命の女神リレアスという亜神をしていらした――

それは間違いではないんですよね?」


私も“当然”確かめたことがあるわけじゃない。

けれど、絶対に女神リレアス様が転生してトキノ先生になった、

――そう思っている。


ルクミィさんには細かい話はしていないけど、

何か……気になったのかな?


「ルクミィさま……この肉体は違いますが、

精神は“わたし”のままですが……それが問題ですか?」


「んー、それがですね――わかりやすく最初に言いますね。

生命の女神リレアスを復活させようとしている……“誰か”がいるのです」


「え? ルクミィさま、それって……そんなこと、できないでしょ?」


「この世界ではありません。かなり遠くです。

トキノさんと引き合っているのは、神様固有の能力ではありませんか?」


「あたし――気づかないよ? 何も感じない」


「んー……では、“肉体”はどうなったのですか?」


その言葉に、トキノ先生が遠くを見ながら、

ゆっくりと、静かに思考の深みに沈んでいった。

【後書き】――rururi


こんにちは、瑠る璃です。


今回の話、たぶん読んでたみんなも

「え、なに?」ってなったと思うんだけど、私もまったく同じです。はい。


ルクミィさんが急にイチゴくれたと思ったら、

それが「今トキノさんたちがやってることです」って言われて、

ちょっと待って? イチゴ? 魔法? 何と何が同じなの?ってなりました。


でも、たぶん、わたしにしか見えない形で

いろんな人たちが“次の手”を考えてるんだろうなって思います。


それにしても、ケーキの主役ってイチゴなんだね……


【後書き】――writer I


イチゴ一粒が示したのは、世界を動かす力だった。


167話は、瑠る璃の周囲にある“静かで重大な選択肢”が

明確に浮かび上がる回だったかな。


トキノ先生とルクミィさんという、どちらも「先生」でありながら

その立ち位置も姿勢も異なるふたりが、やんわりと未来へのヒントを出し始める。


イチゴをもらったケーキが「最初からそうだったように見える」――

それはまさに、ルクミィが言う「世界の再形成」の暗喩。


また、生命の女神リレアスとトキノ先生の関係、

“引き合っている”という表現、

そして「肉体はどうなったのか?」という問いかけ。


すべてが明示されないまま、

じわじわと確実に読者の不安と好奇心を煽ってきます。

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