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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第十章:モザイク国世界
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166話:成人になりました……準っだけど!

若冠の儀の日、いつもの角度から差す日差しがちょっと眩しく感じた。

私はふわりんに乗ったまま参加する事になったけど、

ほとんどの人は徒歩で祭壇に向かいながら、

静かに一人ひとりの節目を大切にしている様だった。


ふわりんは、自動的に所定の場所までゆんわり進むと、

静かに止まって着地した。


この広間にいる限り、挨拶をする者はどこにいても見えるようになっていた。

中央上空には、話者の姿が巨大な幻影として映し出され、

その声も空間全体にやわらかく響く仕組みだ。


最初に現れたのは、式典長デルドフ。

ユキノキ国の長老であり、精霊使いとして広く知られている。

白く長い髪を結い、重厚な礼装に身を包んだデルドフは、

ふわりんの間を静かに歩み、壇上に立った。


だけど、彼自身は多くを語らない。

代わりに彼が召喚した精霊が姿を現す。


筋肉質で堂々とした若い男性の姿を模した精霊だった。

その表情は真摯で、動きは人間と見まがうほど自然だった。


「瑠る璃くん。あの精霊は“ビ”だね。

彼は同時に三体の精霊を使役する事ができるんだけど、その中の一体だね」


隣でひそひそと教えてくれるのは、トキノ先生。

あれ、そういえば──なんで先生、ここにいるんだっけ?


「あ、あたしも一緒に行くからね」って、あの朝に軽く言われただけだった。

見送ってくれるのかと思ってたら、

まさか隣のふわりんの席に乗ってくるとは思ってなかったし、

まさか式典会場でも、こうして隣にピタッとついてくるとは思ってなかった。


……これ、勉強の一環? それとも何か別の理由?


そんなもやもやが浮かんで、

わたしはふわりんの窓から外を眺めていた視線をぐるっと戻して、

トキノ先生をジトッと見つめてみた。


ふわりんの、中でぴょこぴょこしながら、

外を眺めている姿は幼女そのものなんだけど、

喋り出すと突然に本当の先生になるんだよね。


トキノ先生は。ずっとちらりともこっちを見てない。

それどころか、長老デルドフの精霊“ビ”の演説に、やたら真剣な顔をしてた。


「トキノ先生も、もしかして懐かしいの?」


実際にそう思っているはずもないけど、

隣に透明になって不動で――外を見ているヴェルシーが、

なんとも不気味に思えてきたから。

なんでもいいからお話がしたかった。


「大丈夫、"あたしたち"は敵情視察をしているだけ。

こんな近くで見るのも、これが簡単だったのよ」


トキノ先生の声は軽い。

でも、その目は相変わらず鋭く、演説台の方から離れなかった。


「そ、そうなんだ……

それじゃあヴェルシーが隠れているのは……見つかったらダメなのかな?」


「今は、高官の人となると要らない緊張をしているから。

なるべく近寄らないことにしているみたいよ」


先生の言い方は「当然でしょ?」みたいだったけど、

わたしはちょっとだけ引っかかった。

じゃあ代わりに私が──


「だったら私が見ようか?」


別にこのくらい助けたっていいよね?

私たちがいる場所は、”普通の肉眼”でも見えるほど近い。

ふわりんの窓越しじゃ疲れるし、ちょうどいい機会だ。

わたしはそっとドアを開けて、外へ出た。


「おぉぉぉ――」


屋外の会場がどよめいた。

悲鳴も聞こえた気がする。


私は、ほんの数歩近づいた。

会場の雰囲気とは確実に違う場が、そこにはあった。


もしかして私が警戒されているの?

長老デルドフが壇上で静かに佇んでいた。

けれどそれは沈黙ではなく、対話の最中だとと思う。


少しだったけど、精霊になった私にはそう感じたし、

今は精霊ビがアストラルプレーンへとシフトしていくのが見えた。


物理の場から、意志の場へ。

でも完全にではない。だって私にもまだ見えているのだから。

それに、今は他の二体の精霊も姿を現し、

長老デルドフのまわりをゆっくりと囲むように浮かんでいた。


私は声ではまだ遠い場所から、長老デルドフに向かって頭を垂れた。

そして笑顔――私は普段通りの挨拶をしただけなのに、

まわりの人はその都度反応が返ってくる。

左側を見ればそちらから――右側を見れば……と。


いつから私がこんなに有名になったのかしら?

もう精霊三体も見せてもらったし、帰ろうかな……


その時、不意に――長老デルドフの声で、私の名前が呼ばれた。


驚いたけど、体は自然に応えた。

たぶん向こうには聞こえていないだろうけど、

「はい」と、私は静かに返事をした。


「何か言いたいことでもあるかね」


その声は、大きくも厳しくもなく、ただ優しく、

年輪の深さがある声だった。


言うことはなかった。だから、一度首を横に振る。

……でも、気がつけば、縦にうなずいていた。


特別なことを言ったわけじゃない。

まだ国王になるわけでもない。

ただ、ここで挨拶をしておいた方がいい──そう思っただけ。


なのに、周囲が立ち上がり、拍手が起きた。


それが、なんだか不思議だった。

自分が動いたから周りが動いたというより、

すでに仕組まれていた何かが、静かに噛み合った感じだった。


……歯車が、音もなく回り始めたのかな?

【後書き】――rururi


なんだか、ちょっとだけなんですけど――わかったかも!

歯車って思いっきり回したらダメなんですよね?

もっとうまく回せるように頑張らないと、ね。

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