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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第九章:若冠の儀と壮冠の儀
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165話:ねぇ知っている?これが勇者の指輪なんだって

ねぇ、トキノ先生。この指輪って、なに?


まるで石に穴をあけただけのような、不思議な形。

装飾も刻印もないのに、なぜか気になってしかたなかった。


私はそれを指から外すと、そっとトキノ先生に手渡した。


「“もちろん”、パズルだよ、瑠る璃くん」


その言葉のあと、トキノ先生の口から、

まるで歌うような詠唱がふわりと流れ出した。


すると――


指輪が淡く光りはじめ、

ただの石にしか見えなかったそれが、

宝石のようにきらめきを宿しはじめた。


「はい。これを使うのは、瑠る璃くんしかできないからね」


そう言って、トキノ先生はきらめく指輪を、私の指にはめ直してくれた。

それは指先にすっとなじんで、

もうずっと前から私のものだったような気さえした。


「すごく……綺麗です。

絶え間なく、何か――文字みたいなものが、浮かび上がってくるようです」


私がそう呟くと、トキノ先生の表情がふいに変わった。


「それは――勇者レディタの指輪ね」


その一言とともに、トキノ先生の顔に凛とした光が差す。

いつもの飄々とした姿とはまるで違う、大人の顔。

その瞳が、信じられないほど生き生きと輝いていた。


「その指輪が残っているなんて思ってもいなかったけど……

なるほどね、“命”を預かっているというのは納得よ。

その中に、勇者としての力が宿っているのよ」


……勇者の力が、この指輪に……


「私、頑張ってみます」


誕生日を境に始まった、目には見えない“流れ”。

それに身を任せるしかなくても――

進むしかないのなら、せめてこの力を、無駄にしないように。


「トキノ先生! 私、勇者として――」


「なれないよ?」


「……え?」


「勇者にはなれないし、力も使えないよ。

――ヴェルシーくんが言ってなかったかな? 勇者って、血縁なのよ」


「でもでも、トキノ先生! さっき“私にしか使えない”って言ったよね?」


「ええ、そうよ。そこに書いてあるのは、いわば“滅びの言葉”

しかも、瑠る璃くんにしか使えないように組まれてる。

だから――あたしができるのは、パズルを“解く”ところまで」


これが……滅びの……言葉――


「トキノ先生! 私、読めません! これって……魔法語ですよね?」


何も考えず、反射で助けを求めてしまったのが、たぶん間違いだったかな。


トキノ先生が、目を細めて私をじっと見つめてくる。

その視線の奥から――背筋がふるえるような、かすれた笑い声がこぼれた。


「フフフ、ちゃんと教えるわよ」


……教わるのはいいけど、どうしてそんなに怖いのよっ!


「瑠る璃さんが“それ”を必要とするまで、あまり時間がないの。

だから――急がないとね」


う……何か怖いこと言ってるし。


「あっ、そうだ! ヴェルシーに聞きたいことがあったんだ。

だからまた今度にしますね、トキノ先生!」


逃げるように言い放って、私は可愛い部屋をぱたぱたっと後にした。


ととっと、螺旋階段を駆け上がる。

ふぅー……あの絶えず変化してる文字、教わってわかるものなのかな?


私にしか読めないっていうのも、ヴェルシーに――聞いてみようっと。


私はそのまま速足でベッドにダイブした。


ヴェルシーは珍しく、出窓の縁に腰かけて外を眺めていた。

揺らめきのない小さな光で作られる影のようだった。


「瑠る璃は……次々と出会うこの世界のアノマリーを、制御できるなんて。

――羨ましいよ」


その声は、こちらを見ずに、空に溶けるように放たれた。


……うん、わかる。

でも――わかりたくない……。


「僕の中に……焦りが湧いてきてしまった。

だから……試してみたいんだ。

一人で、どこまでできるのかを。ね」


それって、私は……ただ待っていればいいのかな?

ヴェルシーが何をしたいのか――ちゃんと教えてくれるの?


「うん。教えるよ」


窓際まで歩いた私に、ヴェルシーがようやく振り向いた。


「前にも言ったかな?

この世界にマナを満たすんだよ。魔法を使いたいからね。

たくさん君がヒントをくれたりしたし」


私、何か――したかな……?


「最近だと、勇者の使い方を見せてもらったよ。

絶妙なタイミングで介入して、勇者の“命”を手に入れるなんて――

あれはね、きっと何れ返すことになるけど、

それまでは“支配”しているのと同じだからね」


「あれは私がやった訳じゃないよ!!」


「それは知っているよ。……でも君が知らなくても同じだから。

まるで魔法を使っているみたいだよね、君が……」


私、魔法は使ってませんからね。


「……うん。わかっているよ……

でも、君が魔法使いでいてくれた方が良かったかも」


ヴェルシーはまた、窓の外へと視線を戻していた。

私はその背を見ているだけだった。

Velcieの後書き(Episode 165)


まさか瑠る璃が一人で様々な“アノマリー”と接触して制御できるなんて――

神殺しの時から置いて行かれてたのかな。

僕が百年単位で考えていた事を、日単位で歯車を回そうだなんて。


……焦ったよ。

だって、彼女は魔法を使っていないんだ。

にもかかわらず、アンクリズは彼女に反応しているし、

人も、精霊も、“何か”までもが、自然と動いてしまう。


計算じゃ追いつけない。

論理じゃ見抜けない。

それでも……美しいと、思ってしまう自分がいる。


僕は、もう少しだけ、自分の答えを探してみようと思う。

誰かの真似じゃなく、彼女の背中をただ追うんじゃなく。

自分の意志で、自分の手で、世界を押してみたい。


それがたとえ、彼女のいない場所だとしても。


――Velcie


【後書き】――writer I


第九章はここで終わりです。

ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。


第十章で、これまでとは少し違う世界を――

見せられたらいいなと思っています。


また、会えたらうれしいです。

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