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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第九章:若冠の儀と壮冠の儀
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158話:みんな逃げっちゃったのは私が強いから……かなぁ?

気づけば、私たちのまわりから人だかりは消えていた。

……でも、遠巻きに見ている人はまだいて、

「宮殿の中に、こんなに人がいたの?」って思うほどだった。


「ヴェルシー、私、もうわかったと思うから……帰らない?」


「いや。本当に見せたかったのは、これからなんだ――ほら、あいつら」


治安維持の任に当たる者が着る制服は、所属や階級によって微妙に違う。

そして、今こちらに向かってきている彼らの制服――

ローグレードなその仕立ては、どこか品性の低さを表しているように見えた。


人の壁をその体で押しのけて進んできた巨漢には、見覚えがあった。

あの人……ツツンシ、だったよね?

たしか――勇者ロテュくんに出会ったときに、見たような気がする。


そのツツンシが、まっすぐ私たちに向かって歩いてきた。

……でも、取り巻きの者たちは途中で足を止め、

最後までこちらに来たのは――ツツンシ一人だけだった。


「俺の領域で言うことを聞かないお前は、

委員長にひいきされてるからだろう。

――そしてお前……」


ツツンシは、そう言いながら私に視線を向けた。

でも、すぐに目を逸らした。


「特権を使って、若冠の儀に行くなんて……」


なんだろう。

前に会ったときのような勢いとか、

ちょっと俗っぽい感じが消えていて――

少し、イメージが変わった気がした。


彼は一度、空を見上げると、

また私に視線を戻して……けれど、やっぱりすぐ、うつむいた。


そして――大きな声で言った。


「おめでとう」


その声は、なぜか少し震えていた。


自分でも驚いたように、ツツンシは慌てて後ずさり、

そして――来た方へ、走って戻っていってしまった。


「君にはかなわないようだね。

あいつは絶対に難癖つけてくると思ったから、

先に一発かましてやろうと思ったんだけど……必要なかったみたい。

あーあ、せっかく“帝都一番の馬鹿”を見せてあげようと思ったのになー」


「えぇ? でも、いろんな人がいるってことは、ちゃんとわかったわよ?」


「うん……でも、その人たちとの出会いを――

邪魔してしまったのは、僕だからね……」


「でもでも……普通なら絶対会えないような人たちと出会わせてくれたのは、ヴェルシーでしょ。ありがとう」


きっとヴェルシーは照れてるんだろうな、と思ったけど、

深くかぶったローブのせいで、顔までは見えなかった。


「じゃあ、もう帰るの?」


ヴェルシーは何か考えているみたいで、

ローブの中から「ん~」という声が聞こえてきた。


「どうしたの?」


「君……いま、この帝都に来る時にもらったネックレスをしてないんだよね。

だから……一人にするのは、どうかなって思って」


ああ、そうか。

無防備の私だから、一緒にいてくれてるんだったよね――

でも私を一人にするの?


「今、まわりに誰もいないのは、ほとんど僕のせいだからね。

……ろくな噂がないんだよ、僕には」


一人にさせたいんだね、ヴェルシーは私を――

……なんだか、母さまみたいだね。


「私、強くなってるよ。たぶん」


だけど、ほんとはちょっとだけ、足がすくんでいるかも。

だってそこには――たぶん、知らない顔と知らない言葉が、

これでもかってくらい詰まってるんだから。


でも、それでもいい。


私は走り出した。


服の裾がひるがえった。


ヴェルシーの指先をかすめた気がしたけど――

振り返らなかった。


人だかりに向かって。


――


「ヴェルシー……みんな逃げていっちゃったよぉ~」


「まぁ”そう言う事”もあるよ。急ぎ過ぎたんじゃないかな?」


「そうかな……帰ろうか……」

【後書き】――rururi


あの人だかり、ほんとに何だったんだろうね。

でもヴェルシーが何かしたって顔はしてなかったし、してたかも。


ツツンシくん、ああ見えてちゃんと声出るんだね。

おめでとうって言われるのって、なんか変な気分だったなぁ。


……うん、でも、今日はまあ、悪くなかったかも。


【後書き】――writer I


ヴェルシーがずっと隠してきた“瑠る璃の力”は、

ただ美しさや影響力だけではなく、

本人にすら制御できない“存在の重さ”でした。


そして今、瑠る璃はその魔法を解かれたまま――

人だかりに向かって、自分の足で、走っていきました。


足がすくんでいたかもしれない。

それでも行くと決めた。


“母さまみたいだね”というひと言には、

ヴェルシーへの信頼と、少しの寂しさと、

それでも進もうとする意思がにじんでいます。


この話は、派手な戦いもなく、誰も泣いていないけれど――

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