156話:え、私が最強の精霊使い……じゃないの!?
「この精霊は、私の素魂で作られたから……似ているのよ」
「なら――君は一体、誰なのさ?
人の素魂だけで、こんなに大きな精霊ができるはずもないけどね。
……ただ、自然発生ではありえないから……
エネくんが、何かしら影響したんだと思うけど」
私とヴェルシーは、
この大きな精霊を、手のひらの上から見上げながら――話していた。
「まっ、いいさ。
これほど大きな精霊をちゃんと見たことがあるのなんて、
君と――フロラ王のところで見た“絶寒幽精霊ヒビクオト”くらいだよ。
あれだって、ユキノキ国の精霊使いたちの中で、
使役できるのは――せいぜい数人ってとこだろうね」
……そうなんだ……
私って、そんなすごい精霊とつながってるの?
ってことは……私が――最強の精霊使いになるのね!
「何を考えてるの? 君が精霊を使役できるわけないだろう?」
「――えっ!? そうなの!?」
「当たり前でしょ。精霊使いだって、マナが必要なんだから。
君には……無理さ」
……そっかぁ。
それじゃ――やっぱり……エネくんが?
「そうだね。精霊が精霊を使役するのかな?
それとも――新しい精霊との関係が、生まれはじめてるのかもしれないね」
「そうなのね。それじゃあ、この精霊はここにずっといるの?」
「ほんとうなら、エネくんにしか見えない場所にいるはずなんだけど……
僕たちとも会えるってことは、エネくん自身、どうすればいいのか――
まだ、わかっていないのかもしれないね」
まさか温かい精霊がいるとは思っていなかったし、
見た目は硬い岩のようなのに、今見れば――
優しい表情を浮かべているようだった。
「ヴェルシー、帰らない?」
「そうだね。君に反応しないから、ずっとここにいてもしょうがないね」
戻るとき、ヴェルシーはリングを使って、うまく足から抜けていったけど、
私は頭から入ってしまったせいで、床の上で一回転するように戻ってしまった。
硬いタイルの上だったから、ちょっと痛かった。
「瑠る璃ねーさん、平気?」
「へへ、平気だよ」
エネくんが差し出した手を取って、私は立ち上がった。
広間で待っていたのだろうか。
急に成長したその姿は、体つきだけじゃなく、
話し方にも落ち着きがあって、まるで少し大人になったみたいだった。
「ルクミィさんのところに行こうか」
私がそう言うと、ヴェルシーは「僕は部屋に戻っている」とだけ言って、
螺旋階段を上っていった。
部屋にエネくんと入ると、立ち尽くしていたはずのルクミィさんが――
踊っていた。
……そうとしか見えなかった。
「その踊りは何?」と聞くと、
「頭の体操ですね」と返ってきたので、
やっぱり踊ってたのね……だよね?
エネくんには聞いたわけじゃないけど、
話を聞いていない様子だったから……まあ、いいか。
「あの~、こういう時って、ルクミィさんだったらどうするのかな?」
やっぱり“おとな”に聞いてみるのがいいよね。
「私も、けっこう瑠る璃さまみたいに――あまり深く考えませんが……あっ」
「ん?」
「いえ。瑠る璃さまは、どうしたいのですか?
エネくんの話を聞きたかったはずですし……
今のエネくんは、自分がどうしたいのか、知識はもうあります。
あとはただ、心が落ち着く時間が必要なだけかもしれませんね」
私が見ると、エネくんはうなずいた。
「あの大きな精霊と、話してみたいです。
精霊には意識はないとされているけど……僕だったら、わかると思うから。
……いいかな?」
私はもちろん「いいよ」と言った。
手を握ってから、エネくんは部屋を出ていった。
その背中に向かって「ありがとう」と言ったけど――聞こえていなかったかも。
なんだか、心の中にスキマができたような気がしていた。
でもルクミィさんが「大丈夫よ」と、後ろから肩を抱いてくれたから、
私は、次に進めた。
【後書き】――rururi
……うん、今回はね。
なんだか、さみしいような、うれしいような、
そんな感じのお話だったなって思う。
エネくんの背中を見たとき、ちょっとだけ――
ついていきたくなっちゃったけど。
でも、「いいよ」って言えたの、私の中では、すっごくがんばったつもりなの。
だって、大きな精霊って、こわいと思ってたし、
ルクミィさんだって、いつも全部わかってるみたいに見えるけど……
たぶん、誰でも、ちょっとは迷ってるよね。
また、少しだけ進めた。
そんな気がしてるよ。
――ありがとう。読んでくれて。
【後書き】――writer I
今回のお話では、「精霊と人の関係」に、
ひとつの変化の兆しが見え始めました。
精霊がただ“使うもの”ではなく、“対話できる存在かもしれない”という気配。
エネくんの「話してみたい」というひと言が、その扉を静かに開いたのです。
それに対して瑠る璃は、特別な力で何かを変えたわけではありません。
彼女がしたのは、ただ、そこにいて、迷う人に「いいよ」と言って、
見送っただけ。
でも、その行動こそが、
目に見えない大きな流れを動かしていたかもしれません。
今回のラストで瑠る璃が感じた、心の“スキマ”――それは、
誰かを大事に思った証。
ルクミィの手のぬくもりが、その小さな痛みを受け止めて、
未来へ押し出してくれました。
精霊とは何か。エネくんは何になろうとしているのか。
この物語は、まだ“問いの途中”にいます。