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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第九章:若冠の儀と壮冠の儀
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156話:え、私が最強の精霊使い……じゃないの!?

「この精霊は、私の素魂で作られたから……似ているのよ」


「なら――君は一体、誰なのさ?

人の素魂だけで、こんなに大きな精霊ができるはずもないけどね。

……ただ、自然発生ではありえないから……

エネくんが、何かしら影響したんだと思うけど」


私とヴェルシーは、

この大きな精霊を、手のひらの上から見上げながら――話していた。


「まっ、いいさ。

これほど大きな精霊をちゃんと見たことがあるのなんて、

君と――フロラ王のところで見た“絶寒幽精霊ヒビクオト”くらいだよ。

あれだって、ユキノキ国の精霊使いたちの中で、

使役できるのは――せいぜい数人ってとこだろうね」


……そうなんだ……

私って、そんなすごい精霊とつながってるの?

ってことは……私が――最強の精霊使いになるのね!


「何を考えてるの? 君が精霊を使役できるわけないだろう?」


「――えっ!? そうなの!?」


「当たり前でしょ。精霊使いだって、マナが必要なんだから。

君には……無理さ」


……そっかぁ。

それじゃ――やっぱり……エネくんが?


「そうだね。精霊が精霊を使役するのかな?

それとも――新しい精霊との関係が、生まれはじめてるのかもしれないね」


「そうなのね。それじゃあ、この精霊はここにずっといるの?」


「ほんとうなら、エネくんにしか見えない場所にいるはずなんだけど……

僕たちとも会えるってことは、エネくん自身、どうすればいいのか――

まだ、わかっていないのかもしれないね」


まさか温かい精霊がいるとは思っていなかったし、

見た目は硬い岩のようなのに、今見れば――

優しい表情を浮かべているようだった。


「ヴェルシー、帰らない?」


「そうだね。君に反応しないから、ずっとここにいてもしょうがないね」


戻るとき、ヴェルシーはリングを使って、うまく足から抜けていったけど、

私は頭から入ってしまったせいで、床の上で一回転するように戻ってしまった。


硬いタイルの上だったから、ちょっと痛かった。


「瑠る璃ねーさん、平気?」


「へへ、平気だよ」


エネくんが差し出した手を取って、私は立ち上がった。

広間で待っていたのだろうか。

急に成長したその姿は、体つきだけじゃなく、

話し方にも落ち着きがあって、まるで少し大人になったみたいだった。


「ルクミィさんのところに行こうか」


私がそう言うと、ヴェルシーは「僕は部屋に戻っている」とだけ言って、

螺旋階段を上っていった。


部屋にエネくんと入ると、立ち尽くしていたはずのルクミィさんが――

踊っていた。

……そうとしか見えなかった。


「その踊りは何?」と聞くと、

「頭の体操ですね」と返ってきたので、

やっぱり踊ってたのね……だよね?


エネくんには聞いたわけじゃないけど、

話を聞いていない様子だったから……まあ、いいか。


「あの~、こういう時って、ルクミィさんだったらどうするのかな?」

やっぱり“おとな”に聞いてみるのがいいよね。


「私も、けっこう瑠る璃さまみたいに――あまり深く考えませんが……あっ」


「ん?」


「いえ。瑠る璃さまは、どうしたいのですか?

エネくんの話を聞きたかったはずですし……

今のエネくんは、自分がどうしたいのか、知識はもうあります。

あとはただ、心が落ち着く時間が必要なだけかもしれませんね」


私が見ると、エネくんはうなずいた。


「あの大きな精霊と、話してみたいです。

精霊には意識はないとされているけど……僕だったら、わかると思うから。

……いいかな?」


私はもちろん「いいよ」と言った。

手を握ってから、エネくんは部屋を出ていった。

その背中に向かって「ありがとう」と言ったけど――聞こえていなかったかも。


なんだか、心の中にスキマができたような気がしていた。

でもルクミィさんが「大丈夫よ」と、後ろから肩を抱いてくれたから、

私は、次に進めた。

【後書き】――rururi


……うん、今回はね。

なんだか、さみしいような、うれしいような、

そんな感じのお話だったなって思う。


エネくんの背中を見たとき、ちょっとだけ――

ついていきたくなっちゃったけど。


でも、「いいよ」って言えたの、私の中では、すっごくがんばったつもりなの。


だって、大きな精霊って、こわいと思ってたし、

ルクミィさんだって、いつも全部わかってるみたいに見えるけど……

たぶん、誰でも、ちょっとは迷ってるよね。


また、少しだけ進めた。

そんな気がしてるよ。


――ありがとう。読んでくれて。


【後書き】――writer I


今回のお話では、「精霊と人の関係」に、

ひとつの変化の兆しが見え始めました。


精霊がただ“使うもの”ではなく、“対話できる存在かもしれない”という気配。

エネくんの「話してみたい」というひと言が、その扉を静かに開いたのです。


それに対して瑠る璃は、特別な力で何かを変えたわけではありません。

彼女がしたのは、ただ、そこにいて、迷う人に「いいよ」と言って、

見送っただけ。


でも、その行動こそが、

目に見えない大きな流れを動かしていたかもしれません。


今回のラストで瑠る璃が感じた、心の“スキマ”――それは、

誰かを大事に思った証。


ルクミィの手のぬくもりが、その小さな痛みを受け止めて、

未来へ押し出してくれました。


精霊とは何か。エネくんは何になろうとしているのか。

この物語は、まだ“問いの途中”にいます。

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