表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第一章:少女二人
16/179

ユキラゼパパさん、それって買えるんですね。

「ねぇねぇ、ヴェル君! すごいこと聞いちゃったかも~!」

勢いよく部屋に入ると同時に声をかけたが、返事はなかった。


――あれ? ヴェル君いないかな?――いないかなー?


歩きながら視線を巡らせたが、部屋のどこにも姿はない。

ベッドも確認するが、そこに湯船は作られていない。


どの部屋かしらね?


知っている部屋はたくさんあるが、実際に入ったことのある場所は少ない。


とりあえず図書室に行ってみる? それとも螺旋階段の下の倉庫?

一番奥の真っ黒い扉……記憶が曖昧な分、かえって気になるわね。


目を閉じ、どこへ向かうべきか思案する。そして目を開けると、

とある扉が淡く光っている――気がした。


(あの扉……。――私の直感が教えてくれている。)

瑠る璃は迷わず歩を進めた。


そこは、扉だけが並ぶ円形の部屋。


八つの扉はすべて同じ形をしており、どれがどこへ繋がるのか記憶は曖昧だ。

それでも迷うことなく、ある扉の取っ手を握った。


「鍵が必要です。」


「ひゃっ!――えっ?」

思わず飛びのいた。まさか、扉が喋るなんて――。


「または、鍵穴を覗いてください。」


「えっ、そんなことあるの?」


戸惑いながらも、きっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、腰をかがめて鍵穴を覗き込んだ。


(んー……何も見えない?)


そう思った瞬間、ぼんやりと部屋の様子が浮かび上がってくる。


二人――誰かがいる。右側に立つ小柄な人影。


(あれは……ヴェル君?――うん、ヴェル君だ。)


――ガチャリ。

鍵が開く音が響いた。


部屋に入ると、すえた匂いと甘い香りが混ざっていた。

高い位置に窓があり、壁には用途不明の道具が並んでいる。

いくつものテーブルのうち、一つの前に二人が立っていた。


初めて見る部屋……誰だろう、あのボサボサ髪の男の人は?


「おや? 誰だい?」


低く、落ち着いた大人の声。


「瑠る璃、彼は死体探し屋のユキラゼだ。」


「ユキラゼ、僕の友達、瑠る璃だよ。」


ヴェル君が簡潔に紹介する。

……いや、簡略すぎない? ていうか、"死体探し屋"ってなに?


「ユキラゼは、無意味な死を研究してる。――人のね。」


「私の話聞いてたの?」


あれ? 私が最初にあの男性を……あれあれ?


どういうことかわからず、私は混乱した。


「申し訳ないが、ヴェル君、これだけ貸してほしい。」


ユキラゼが人差し指を立て、前に突き出した。


ヴェル君は天井を見上げ、ぶつぶつと何かを呟きながら考え込む。

迷いが浮かぶその表情は初めて見た。


「――そーだねー、貸すのは問題ないよ。でも条件があるから言うよ。

絶対に最初に僕のところに来ること。

損傷を最小限にすること。――それなら貸そう、ユキラゼ。」


「おーおー、いいだろう。もちろん、どんな条件でも飲むさ。そうとなったら急がないとね。」


ユキラゼが勢いよく応じると、ヴェル君は拳を突き出す。

ユキラゼも拳を出し、二人のリングが光る。光の粒子が飛び交い、

それがリングウォレットの送金の証だった。


「ありがとう、ヴェル君。――ありがとう。」


ふふっと、不気味な笑いを上げながら、ユキラゼが出て行く。


「――ここって一体なんなのかしら? それにヴェル君の知り合いって、

変わった……じゃなくて、すごい人ばかりね。

髪の毛もじゃもじゃで、早口でしゃべるし……っていうか、

そもそも死体探し屋って何なの?」


「瑠る璃も早口になってるよ。」


ヴェル君がクスリと笑う。


「それと、ユキラゼは僕のパパだよ。」


「……えっ、あっ、パパさんなんだ~……」


あー、なるほどなるほど……

納得したような、できないような。


「ヴェル君も知ってたかもしれないけど、私も女神堂での復活者で聞いたのよ。

まだ若いのに死んだままだって言ってたのよ。

女神様が忘れちゃったのかな?

場所とかは聞いてないけど、ほんとだったらどうしようかと思って。」


「……なるほど。」


「ヴェル君なら何か知ってるかと思って探したんだよ。」


「実は、僕も興味があったんだ。だからユキラゼのところに急いで来たんだ。

彼はこの世界で唯一、"死"を研究してる人だからね。

――僕たちの魂はどこに行くのか?新しい道を探しているみたい」


真剣な顔をしているヴェル君の横顔を見つめた。


「ヴェル君が気になるくらいのことなんだね…!」


「うん。だから百億円貸したよ。ユキラゼならやれるよ。」


「……あ、そうなんだ~……」


考える暇もなく、また思考が止まりかけたそのとき――

ヴェル君が私の手を引き、自然に歩き出した。


私はそのまま、ヴェル君と一緒に自宅の部屋へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ