まさか死体があるなんて!ほんと!?
腰の高さの仕切りが広場に並んでいた。
私もその中で《復活》を手伝う人々の一人だった。
仕切りの向こうでは、裸の人々にシーツをかけ、別室へ誘導している。
復活者には、異なる衣服と帰路に必要な小袋が与えられるが、それは慈悲ではない。
各国が事前に徴収した財貨を、復活者に渡す仕組みだ。
とはいえ多くの者が母国には戻らず、帝都に住み着いてしまう。
それが、街が人で溢れる一因ともなっている。
だけど、それは問題ではなかった。
何故かと言うと、私たち人種は老衰以外では死なないし、復活の力の源は女神様だから。
復活者はどこで死んでも、その場で消え、ここで復活する。
復活の瞬間を見た者はいないが、常にその光景は日常の一部だった。
私が周囲を見回すと、地面から唸る声が聞こえた。
復活者が異性の場合には、他の者が対応することもあるけど、私は気にしていない。
シーツを取って、男性にそっとかける。
復活直後の者は錯乱していることが多いため、落ち着かせ、ここがどこかを伝える必要がある。
男性は手を取った私を見つめ、低く呟く。
「ああ、女神リレアス……」
その後も、男性は続ける。
「彼は……死んでいたのです。見るからに屈強な体を持つ若者でしたが、
その体は朽ち、まるで獣のように崩れていく――」
私には彼の言うことが理解できなかったけど、その真剣な訴えだけは伝わった。
男性は気づいたようだ、目を見開き理性を取り戻して頭を下げる。
「失礼しました、お嬢さん。もう大丈夫です。復活は何度も経験しているので。ありがとう」
男性は広間を去った。私は椅子に座って、男の言葉を思い返す。
本当に死体だったのかな? そんな話、聞いたことがない……。
ヴェル君はすごい魔法使いみたいだし、死体の話もわかるかな?
疑問が解けないまま、私はヴェル君に尋ねようと思った。
今の事が頭にこびりついていて、他の事に気が回らない。
来たばかりだけど……平気だよね?
お姉さまと何時までお手伝いをするかは決めていなかったし、
また明日来たって問題ないよね。
私はちょっと後ろめたくて女神リレアスさまに「ごめんなさい」と心の中で謝った。
ここに入る時と同じで私を止める人もいないけど、
自分で使っていた椅子や残っているシーツなど元の所に片付けて、
女神堂を後にした。
私は人混みをかいくぐりながら、最南宮殿まで駆け戻った。
通路に差し掛かると、待ち構えていたかのように女官イースさんが慌てた様子で近づいてきた。
「瑠る璃様、どうかなさいましたか?」
「ごめんね、大事な用ができたから戻ってきたの。」
そう言うのと同時に足を止めることなく、あっという間に内室へと入った。
――あの男性の言葉は、なんだったのだろう。混乱なのかな?
胸にざわつく何かを残したまま、私はまたヴェル君のもとへ向かっていた。
女官イースは、肩で息をしながら、閉じた扉の前に立ち尽くしていた。
実はさきほどから、瑠る璃さまの後をこっそりつけていたのだ。
突然、走り出した彼女を見て、慌てて後を追いかけた。
速足で街中を駆け抜け、最南宮殿まで戻る羽目になるとは――。
けれど、瑠る璃さまはそれどころではない様子で、
イースの苦労にはまるで気づいていなかった。
(まあ……瑠る璃さまに気づかれずよかった。)
ようやく呼吸を整えたイースは、少し気を取り直して、
改めて瑠る璃さまの部屋の扉をノックした。
「瑠る璃さま……?」
けれど、中からの返事はなかった。
しばし耳を澄ませて待ってみたが、やはり気配がない。
イースは小さく息をつくと、静かに扉の取っ手へと手を伸ばした――。