142話:私の髪の毛さらさらだけじゃないの
私の髪は、とてもさらさらしている。
よく見ると、その中に――一本だけ、ものすごくきらきら光る髪の毛があった。
ルクミィさんに「もしかして“それ”と融合してるんじゃ」と言われて、
探してみたら……すぐに見つかった。
普通なら、もっとわかりやすい場所――
たとえば手首とかにするのが一般的らしいけど、
髪の毛に融合させておくなんて、かなり珍しいみたい。
いいえ、私がしたわけじゃなくて……勝手にクラシェフィトゥが……
そんなことをぶつぶつ言いながら、
その髪の毛をつまんで、そっと引っ張ってみた。
するっと抜けた。
――と思ったら、その一本が、指先で“伸びた”
いや、伸びたんじゃないかも。
中から何かが広がるように、ほどけていく感じだった。
私の髪の毛がどんどん細く細くなっているのに、
金属のような光沢がじわじわと増していった。
沢山の髪がねじれながら、刃の形を編み上げていくみたい。
通りでものすごく軽いと思ったはずだった。
手の中には――
きらきらと光る、細身の短剣があった。
「すごい。“一瞬”で形を変えるなんて、便利そうですね。
タイプαー9に使われた武装ですけど……どこで見つけたんですか?
対植物種にも有効ですし、これは――いいものですね」
ルクミィさんが少し目を細めながら言った。
……クラシェフィトゥ、そんなにすごいやつだったんだぁ。
へへん。
あのとき貯金を、ほとんど使ったかいがあったのかな?
貴金属はまだいくつか残ってるけど、
ウォレットリングに入れてた六千万円は、ぜーんぶ使っちゃった。
でもそれ以上の仲間だし、
それに――クラシェフィトゥがいたから、
ルクミィさんにも、エネくんにも、出会えたんだもん。
ご機嫌でクラシェフィトゥを振りかざしていたら、
なんだか勇者ロテュくんを思い出した。
……ほんの少しだけ、その気持ち、わかったかも。
そのあと、ルクミィさんにクラシェフィトゥの使い方を色々教わった。
構え方とか、力の流し方とか――ぜんぶ丁寧に。
で、「じゃあ今度、打ち合いしよう!」って言ってみたら――
「それは、ダメです」って、即座に止められた。
理由はふたつ。
まず、ルクミィさんたちには「刃と刃を合わせる」という習慣がないらしい。
剣同士でカチンとやるのは、人しか考えない文化なんだって。
それからもうひとつ。
金属には”強度ランク”が細かく分かれていて――
私のクラシェフィトゥは「αー9」
ルクミィさんの使ってる剣は「γー2」
だから、「数回合わせただけで、ぼろぼろになっちゃいますぅ……」って、
泣きそうな顔で言われてしまった。
「ねぇ、ルクミィさん。こっちのユメも、特別な短剣なの。見てもらえる?」
貸してくれたおじさんのおかげなんだよ……って、
私はユメを差し出した。
そのとき、ルクミィさんの表情が――すっと、消えた。
動きも止まって、まるで時間が切れたみたいだった。
……でも、それもほんの一瞬だったかもしれない。
「うーん、とても古すぎて……朧気で、ちゃんとはわかりませんでした」
そう言ってユメを私に返すと、ルクミィさんはまた静かに考え込んだ。
「もしかしたら――ですけど。
遠い昔、植物種との争いの中で残った“私たち”のひとりが、
人にあげたものかもしれません。その時の名前がユメさんだったのかな」
ルクミィさんがわからないほど昔って、どれくらい昔なんだろう。
想像もつかないけど――
「ありがとう、ユメ」
なんだか、私……
すごく大きな旅をした気がする。
帰ったら、ヴェルシーに今日のこと全部話したいな。
ルクミィさんが助けてくれたこと、エネくんと出会えたこと、
それから――
それが終わったら、みんなでお風呂に入って……
ふかふかのお布団で、一緒に眠りたいなぁ……
「帰ろうかなぁ」
「あら、お父さまに会わないのですか?」
「……」
――そうだ。
私は父さまに会うために、
ちゃんと旅に出るって、自分で話すために行こうとしていたんだ。
……なのに、こんな旅になっちゃって。
事後承諾で――許してくれるかな? 父さま。
「お父さまの所へ行くなら、今日の太陽がすべて欠ける前には着けると思いますよ」
――思ったより、近くにいたんだね。
弦ギ父さま。
後書き】――rururi
えっとね……クラシェフィトゥ、
まさか髪の毛にくっついてるなんて思わないでしょ!?
ルクミィさんにもいろいろ教えてもらったけど、
「ぼろぼろになっちゃいますぅ」って泣き顔で止められたの、
私もちょっとだけ泣いちゃった。
でもね――ユメのこと、改めて「ありがとう」って思えたの。
すごく昔のことなんてわからないけど、
私に手を貸してくれて、繋いでくれて、
クラシェフィトゥと一緒に今、ここにいる。
ヴェルシーにも会いたいし、
早く帰ってみんなとお風呂入って寝たいけど……
まずは、ちゃんと父さまに会いに行かなきゃね。
旅に出たって、自分で言いたかったから。
【後書き】――writer I
今回の話は、クラシェフィトゥという短剣が、
ただの武器ではなく、“瑠る璃の旅そのもの”の象徴だとわかる回だった。
ユメの夢の中でヒントを得て、
まさかの「髪の毛に融合されていた」というオチ。
でもそこから、ルクミィとの技術的な会話や金属ランクの話、
さらに「ユメは人類のものではない」という遠い記憶にまでつながっていく。
すべてが点から線になり、
気づけば瑠る璃は「旅の意味」をもう一度考えていた。
父に会うために出たはずの旅は、
いつのまにか「誰と出会い、何を手にしたか」を知るものになっていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
細かい流れは瑠る璃次第なのでどうなるのが一番いいのですかね……?