141話:夢の中のユメ、多すぎじゃない!?
毎日、決まった角度から降り注ぐ太陽の日差しが眩しかった。
体は少し疲れていたけど、気分はすごく爽快だった。
「ルクミィさん、助けてくれてありがと~!」
彼女はすぐそばにいたけど、私はつい空に向かって大声で叫んじゃった。
「エネくん、調子はどうかな?」
精霊とエネルギーが融合した男の子――まあ、正確には性別はないらしいけど。
彼も、地上まで一緒に来てくれた。
「ん?……」
エネくんは、ぽぉ~っとしたまま、でも私に向かってちゃんと笑ってくれた。
もう透明じゃないけど……裸のままだから、なんか服を着せてあげたくなった。
「どこか町があれば、服を買おうね~」
そんな話をした、ほんの数分後――
エネくんはすぐにそれを理解して、自分で服を生成してしまった。
「エネくん……魔法使い……!?」
ほぇ~って思わず声を上げたら、
ルクミィさんが少し笑って、「似たようなものですよ」って言ってた。
そのあと、私は二人に――仲間を探してるって話をした。
ルクミィさんは「もちろん」と、すぐに頷いてくれた。
一緒に来てくれるって、それだけで心強い。
エネくんは……はっきりと返事はしなかったけど、
それでもちゃんと、着いてきてくれる気がした。
そんな感じで三人で歩いていたら、
エネくんがふわっと宙に浮いて、私のまわりをくるくる回りはじめた。
へぇ~……すごいね。
そっか、精霊だもんね――そうだよね。
「エネくん連れて来て良かったですね、瑠る璃さま。
それに探し人でしたら私が探してみましょうか?」
えっ……本当に何でもできるんだなぁ。ルクミィさんって。
それから、クラシェフィトゥのことを話していった。
ユメとの出会いも――
そして、いつの間にか地下の金属でできた都市へと続いた話。
いつも全部、話を聞いてくれるルクミィさんが、ぽつりと教えてくれた。
ユメも、クラシェフィトゥも、人類が作り出した剣じゃないって。
「瑠る璃さまは、ユメさんの使い方がとても自然なので、
もうご存知なのかと思っていました。
――こうやって、軽く握って、心の中に聞いてみてください」
私は、ユメを持ちながら――ルクミィさんの真似をして、やってみた。
そっと瞳を閉じながら……
いきなり、意識がどこかへ飛んでしまったかと思った。
……気がつくと、私は変な街に立っていた。
道も建物も、全部クッションでできているみたいにふかふかで、
屋根の上には小さな子どもがごろごろ寝ている。
しかも全員、ユメ。
目の前を走っていくのも、
ベンチでラムネを飲んでるのも、
自販機の中から出てくるのも、
ぜーんぶユメ。小さなユメ。
ちょっと目が合うと、みんな一斉に振り返って、
「ほらねー」「来た来た」「まねしてたもんねー」とか、
口々にしゃべりだした。
「えっ、なに?ここどこ!?ていうかユメ多くない!?」
私の声に、近くにいたひとりがぴょこんと跳ねて、
帽子の上に乗ってたソフトクリームを落とした。
「ここ?ユメの夢の中だよ」と、にこにこして答えた。
……夢の中の、ユメの夢の中?
なんなのそれって?
私が何も知らない世界の夢を見てる、そんな事あるのかしら?
まわりにいるのは、みんな小さな子のユメたち。
でも……クラシェフィトゥはいるのかな? 姿は見えなかった。
ただ私が夢中で見ていると、
ユメたちは街のあちこちに積まれたブロックを使って、
なにか新しいものをつくりはじめていた。
……あっ、あれ王宮だ。私の。
そして離れた場所にクッションを高く積み上げて、
その横にちょこんとブロックの建物があって。
形も色もめちゃくちゃなのに、なんでかわかる。あれが“帝都”
そして――その全体の離れに旗を作っていた。
ユメたちが、みんな一斉に集まってきた。
そして、楽しそうにおしゃべりしながら、あの旗のてっぺんを指さしていた。
――そこ。そこにクラシェフィトゥがあるってこと?
その場所を頭の中で覚えた、まさにその瞬間――
ぱちん、と目の前がはじけるように変わった。
気がつくと私は、ルクミィさんとエネくんに見られている
“こっちの世界”に戻っていた。
「ルクミィさん、クラシェフィトゥがいる場所、わかったの!」
私は、夢の中で見たことをなるべく詳しく、ルクミィさんに話してみた。
話し終わったあと、ルクミィさんがちょっと考えるように首をかしげて――
「その場所って……ん~、“ここ”ですね。
多分、私の予想ですが――
瑠る璃さまの身体のどこかに、くっ付いているんじゃないかと」
……えっ?
……えぇぇぇぇぇ!?
【後書き】――rururi
ねぇ、どう思う?
クラシェフィトゥが、自分の身体にくっ付いてるって。……おかしくない?
私、夢の中で街を歩いて、
ユメたちがクッションとかブロックで帝都とか王宮とか作ってて、
旗のてっぺんを指さしてたから、「あっちだ!」って思ったのに――
まさかの「“ここ”です」って、ルクミィさん……それ先に言ってよー!
でも、なんかあったかかったんだよね。
一緒にいてくれて、話してくれて、驚いて、笑って。
私、なんだか「仲間と旅してる」って、思えた気がする。
【後書き】――writer I
この回は、“地上に降りたあとの日常”から始まりながら、
そこにしれっと混ざってくる異常と幻想、
そして感情の積み重ねが良かったかな。
最初は、晴れた空、元気な声、仲間との会話――
だけど、すぐに現れるのはエネくんの超自然な変化だったり、
ユメの夢の中での不条理な“世界観づくり”だったりする。
“ユメ”が、いつのまにか“住んでる
“夢を見る”“誰かの中にいる”存在として扱われていく。
それが、まるで当たり前のように、
ふわっと受け入れられてるところにこの回の味があるかな。
そして、最後の「……えぇぇぇぇぇ!?」というオチ。
これが限界かも……