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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第八章:少女一人
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140話:知ってた?銀の中の私

あのね……今日は一人で父さまに会いに行くために荒野に出かけたの。

でもね、すぐ仲間ができたの。クラシェフィトゥっていう短剣なんだよ……


私の話はそこから始めた。ここになぜいるのかを思い出す限り全部話した。

長い間、話していたかもしれない。


ルクミィさんは、驚いたり、楽しんだり、時々笑ってくれた。

私もそれが楽しくて一息で話をしていたようだった。


その話を聞いてくれたルクミィさんは、

次は“ここ”の話をしてくれるみたいだった。


私が気になっていたのは――

“聖地”と呼ばれていた、あの凍った大地と、すべてが金属でできた都市。

どっちも、とんでもなく広くて、終わりなんてなさそうな世界だった。


それから……ルクミィさんに“似た人”

まぁ、ちょっとだけ、だけどね。


「私の世界――凍てついた星も、そこに浮かぶ金属の都市も。

もう、“力”がほとんど残っていないのよ」


ルクミィさんは、少しだけ……悲しそうな顔をしていた。


「もちろん、昔は光り輝く世界だったのよ。

空から来た植物種との戦いが始まるまでは、ね」


ふと、何かに気づいたようにルクミィさんがこちらを向いた。


「あ、ごめんなさい。こんな話……」


ちょっとだけ、苦笑いしていた。


「そうだ!精霊と私たちのエネルギーが融合した――

あの子に会いにいきましょうか?」


ルクミィさんが、どこであの男の子のことを知ったのかは――聞かなかった。

これからどこへ行くのかも、まったく気にしなかった。


「ありがとう、ルクミィさん」

今は、それだけ。……それしか言えなかった。


歩きながら、別れてからどうしてたのかを聞いてみた。


どうやら探検家クロノークさんは、

あのままではどの道、追放されると思って。

途中まで一緒にいたけど――黄昏の街と言う場所に置いて来たみたい。


「置いてきたって……勝手に?」と聞くと、

ルクミィさんは少しだけ考えるように首を傾げてから、ぽつりと言った。


「彼が望んだんです。

 “ここが、冒険へと旅立つ場所かもしれない”って。

 私は止めなかった。それだけです」


ずっと落ち込んでいたあの人がちょっと楽しいそうでしたよ。


そのあと戻ってきたこの場所が、ルクミィさんの故郷だった。


錆びた金属でできた街――

”星”を丸ごと覆い尽くした、その街にはもう名前がないらしい。


だけど、聖地と呼ばれていた“凍結した星”だけは、

今は何の意味もないけど名前が残ってるって。


……“チキュウ”


ルクミィさんにとっては、その名前がとても大切みたいだった。


私に向きながら、丁寧に、ひとつずつ教えてくれた。


何を考えているのかは、わからなかった。

でも、しばらく私のことを見つめていた。


「なに?」と聞いたら――


「なんでもありませんよ」


そう言って、笑いながら、少しだけ歩くスピードを速めた。


ルクミィさんの後について歩いているだけでなんだか楽しかった。


あれ?通路のまわりの壁が……鏡になっているの?


その鏡は、まるで宝石で磨かれたかのような艶と光沢で輝いていた。

天井も、床も、すべてが滑らかで、

触れれば吸い込まれそうなくらい澄んでいる。


壁の一つひとつが、完璧な角度で私を映し返していた。

歩くたびに無数の“私”が揺れて、ずれて、波打って――

綺麗すぎて、そこに映っている私は本物?


光はどこからともなく差し込んでいて、でも影はなかった。

音も反射して、”私の足音だけ”が通路の奥で幾重にも重なっていった。


「誰かに見せるため」に作られた世界の様だった。


通路の途中で、ルクミィさんが立ち止まった。


「何も言わない精霊が喋って、ただのエネルギーに宿った命……

この子は、どんな生物になるんでしょうね?」


鏡の床がわずかに揺れて、そこから――

まるで眠っているような男の子が、静かに浮かび上がってきた。


白くて透明で、輪郭さえあやふやなまま、呼吸だけが確かに見えた。


「元の通りに、精霊とエネルギーに分けましょうか?」


……え? 私に聞くの?


精霊はわかる。けど――さっきから言ってる“エネルギー”って、なんだろう?


具体的なことは何も知らない。

逆に、ルクミィさんに聞いてみた。


「この世界を温めておくための“熱”ですよ。……全部ではありませんけどね」


そうか……

それがなかったら、さっき見た“星”みたいに、凍ってしまうの?


――私には答えられなかった。


向き合うと、ルクミィさんがどうしても――

と、私に決めてほしいと言ってきた。


私に? 偶然、ここに来ただけの私に?


考えるために、上を見上げた。

そこには――私が映っていた。


どこを向いても、私がいる。

目を閉じたって、消えてなんかくれない。


だったら……


「ルクミィさん――決めたよ、私」

【後書き】――rururi


あのね、今日はちょっと不思議な日だったよ。

話して、歩いて、笑って、ちょっとだけ泣きそうになった。


昔の話を聞いたり、すごく綺麗な場所に行ったり、

精霊とエネルギーが混ざった男の子を見たり――

全部、夢みたいだったのに、本当にそこにいたんだよね、私。


何かを選ぶって、こんなに静かなんだって思った。

誰も急かさないし、音もないし、ただ鏡の中の“私”が見てるだけ。


でもね、その“私”が、「やるしかない」って言ってる気がしたの。


だから決めたよ。


【後書き】――writer I


139話が「命を支えられること」を描いた回だとすれば、

140話は「命のあり方を選ぶ」回だった。

語りから始まり、記憶を振り返りながらルクミィと歩く時間が、

自然と彼女に「何かを任される流れ」を作っている。


世界は静かに滅びに向かっている。

その中で“エネルギー”という曖昧だけど確かな命の温もりが、

未来を繋ぐものになる。


ルクミィの「分ける?」という問いかけは、選択の形をしているけれど――

本当は瑠る璃自身がどう生きるかを問われていた。


自分がどこから来たのか、どこに向かうのか。

瑠る璃はそのどちらも知らない。

それでも、「ここにいる自分」が何かを決める。

この物語の中で、初めて“責任”というものを自分の手で掴んだ瞬間だった。

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