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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第八章:少女一人
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137話:一瞬繋がりを切るのかと思ったけど……

さっきまで、遥か頭上から響いていた音が――今は、ぴたりと止んでいた。


また地下に潜ってきたけど、どこなのかはまったくわからない。


先にある部屋の中が、真っ赤に染まって見えた。

最初は「血?」って思ったけど、違った。


部屋を照らしていたランプの光が、まるで血の色をしていたのだった。


そして、そこにいたのは――

みんな、同じ顔をした半透明の男の子たちだった。


「もう見つかったね」


「ねぇ、精霊が分離するよ」


「僕たちは一つになるから」


男の子たちは、順番に、ひと言ずつだけ話した。

声はまるで、別々なのにひとつに響いているみたいだった。


シャーッ、という音が鳴った。


床の隙間から、金属の箱がゆっくりと浮かび上がってきた。

それがカチリと開くと、男の子たちは一人ずつ、静かに中へ入っていった。


そして最後のひとりが、私のほうを向いて言った。


「分離……しなきゃ……。……どうやって、すればいいの?」


私がそんな答えを知ってるわけもなかった。

でも――すぐ、別のことを思いついた。


「そのままでいいよ。私も……逃げる時、あるから」


その言葉に、男の子は――うなずいた気がした。


一緒に行こうと、少し前に踏み出した、そのとき。


金属箱の中から、防護服を着た人物が現れた。

長く、鈍く光る棒のようなものをかざして、まっすぐ私たちに向かってきた。


襲うように。迷いもなく。


私から伸びた靄が、防護服の人の振るった棒に触れた。


その瞬間――


ものすごい「バンバンッ!」という音と、

数千、いや数万にも見える火の粉が四方へ舞い散った。


……なに、これ?


ぱっと見ただけじゃ、何が起きてるのかわからなかった。

でも――相手の攻撃を防いでいる、それだけは分かった。


そのとき、轟音の中でふと――声が聞こえた気がした。


「ねぇ、あれじゃない?」


……あれ? なにが? 


目で探してみた。けれど、あんな重装備じゃよく分からない。


でも――関節? そうか、もしかして……そこ?


他に思いつくところもなかったから、

私は“腕のつけ根”を意識して――次に備えた。


この靄が――もし、私の無意識で動いているのなら。


意識して動かせるはず。

そう思って、“狙い”を込めた。


……そして。


防護服の人の体から、腕が離れた。

そのまま細切れになって、火の玉のように弾けていった。


床に転がるのは、熱を帯びた複数の球体。

それはまるで、細かい破片が命を持ったかのようだった。


ガラスの奥から見えるその顔には、感情がなかった。


――あれは、“人”じゃない。


そう確信したのも束の間。


金属箱から、もう一人――そして、さらにもう一人。


次々に、防護服を着た何者かが現れはじめていた。


私の靄は――さっきとは違って、今度の二人には届いていなかった。


阻んでいるものがあった。

……液体だ。油のようなものが、彼らのまわりで飛び跳ねていた。


それがこちらに飛んできそうになった、そのとき――


ぼわっと、火がついた。


転がっていた熱球に触れた液体が、まるで引火したように、

ぱちぱちと炎を生み出していく。


その炎の熱と光が、床に広がっていくなか――

私はふと、背後を気にした。


男の子は、大丈夫だろうか?


たしか、さっきまで私の後ろにいたはず――

でも、もともと気配が薄い子だったから、不安になって一瞬だけ振り向いた。


あ……


後ろにいたはずの男の子は――

今、精霊と“分離している最中”だった。


……そうとしか、言いようがなかった。

それ以外の言葉が、どうしても思いつかなかった。


こんな時、私は……どうすればいいの?


独りで逃げる? でも、それって意味あるの?


いいえ、そんな事しても意味はないはず、それだけは、わかってた。


だったら――


助けを、求めるしかない。


今、この状況で、誰かに――どうにかして。


――え?

それって……それは私の事を助けているの?


ユメは、頭の上で振り落とされないように、

私の髪をぎゅっと握っていた。


そして、あの騒音に負けないような大声で――


「切っちゃえ~! はやく~、はやくぅ~!」


……私がこれからどうなるのか。


そんなこと、今さら考えても仕方なかった。


だって――無意識って、そういうものだよね?

……そういうもの、なんだよね?


目の前にいる男の子を、

私の靄が、もう包みこんでいた。


……これで、「切った」ことになるのかな?

……じゃあ、私は一体、何を“切った”の?


男の子から離れかけていた“精霊”が、

その体へと――ふたたび、戻っていった。


でも、それはもうさっきまでの彼とは違っていた。


半透明なんかじゃない。

ちゃんと、私と同じ“体”を持った――

あの男の子が、そこにいた。


その瞬間。


彼の身体が、ふわっと光になって――

姿が見えなくなった。

【後書き】――writer I


正直、「切っちゃえ〜」ってユメに言わせた時、

私もちょっと「え、それでいいの……?」ってなってました。


でも、あの瞬間の瑠る璃には、ああするしかなかった気がしてます。

助けたのか、壊したのか、まだよく分からないけど、

きっと“切る”って、ただの終わりじゃなくて、

別の形に変えるためのことだったんだと思います。


……たぶんね。


続きを書くのがちょっとこわいような、でも楽しみでもある感じです。

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