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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第八章:少女一人
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134話:あれ?あの子気づいていないのかな?

こんな場所に通じているなんて――誰も、思わないよね。


最初は、まわり中が山に囲まれているのかと思った。

でも、そうじゃなかった。

私がいるのは、どうやら谷底――しかも、ずいぶん深い。


足元には、古びた白い石。崩れた柱。

全部、植物種の浸食でぼろぼろになっている。


たぶん、ずっと昔にここには誰かが住んでいたんだろうけど、

そもそも最初から、こんな場所に町を作るなんて無理がある。

地形そのものが、あとから変わってしまったのだと思う。


山が沈んで。大地が裂けて。

そして、誰もがここを忘れたみたいだった。


もし、普通の人がこんな場所に送られたら――

余程の装備でもなければ、崖を登るどころか、

横に進むことすらできなかったはず。


背の二倍、三倍はある岩がテーブル状に重なっていて、

跳び登れなければ、この谷底で行き倒れるしかない。


私は、ぴょんぴょんと岩を飛び乗り越えながら、

「どこから抜けられるかな」と、次に跳ぶ場所を探していた。


イムナイさん……本当に、何を考えてここに送り出したのよ。

なんなの?こんな場所。

やっぱり――罠? 


……はぁん。もう、ほんと、どうしたらいいのよ。


誰もいないと思って、大声で叫んでみた。


「どうしたらいいのよ~~!」


「瑠る璃、あっち見てみて。登っていけそうだよ」


ユメの声が聞こえた。


――えっ?


気づけば、また“小さな子”の姿になったユメが、

私の肩の上にちょこんと座っていた。

髪を握って、足をぶらぶらさせながら、

その細い腕をまっすぐ向こうへと伸ばしていた。


彼女が指さす先――そこは、さっきまでただの崖だと思っていた場所だった。


でも、よく見れば……その表面には、うっすらと“構造”があった。

ただの岩じゃない。建物の壁――そう思える輪郭が浮かび上がっていた。


だったら、ところどころに空いている穴は――窓?


そう考えて、その暗い窓のひとつをじっと見つめてみた。

中は、たしかにどこかへ通じている。

ただの穴じゃない。建物の中。道のような、空洞のような……


ユメの言うとおり、あそこを使えば上へ登っていけそうだった。


ここも――古城なのかな。

コーク先生がいたあのお城の、別の“面”なのかもしれない。


近くの“窓”から中へ入ると、

外とは空気がまるで違っていて、日が差さないせいか、

ひんやりと寒さを感じた。


やっぱり、ここは部屋……というより、大きな空間。

でも、中にあるのは土と埃だけ。がらんとしていて、何もない。


私は上階を探しながら、ゆっくり歩いていた。


――と、少し先で、埃がふわりと舞っているのが見えた。


何の音もしないし、気配もない。

偶然、何かが落ちたのか、それとも空気の流れか……

でも、だったら――誰かいてくれたほうが、ちょっと楽しいかも。


そんなことを考えながら、私はそちらへ向かって、

ぽんぽ~ん、とスキップしてみた。


……“その目”と、目が合った。


私と同い年くらいの男の子だった。

でも、その身体はうっすらと透けていて――人じゃないって、すぐ分かった。


一瞬、「まさか……!」って驚いたけれど、

同時に「やっぱり!」という好奇心も湧いてきて、

心の中ではけっこう焦っていたと思う。


でも、それ以上に慌てていたのは、向こうのほうだった。


今の私はすっと落ち着いてるように見えるけど――

その男の子は正反対で、明らかに慌てていた。

きょろきょろと周囲を見回して、まるで逃げ場を探しているみたいだった。


「ねぇ落ち着いて、ここの子なのかな?私は今迷子なんだ」


さっきまでの慌てぶりはどっかに行って、

ぴたりと動かなくなって考えている様だった――


ん?

男の子の透き通った身体が、さらに透明になっていく――


まるで、空気に溶けていくみたいに。

一瞬、「消えちゃうのかな」と思った。


実際、“ほとんど”見えなくなっていた。

表情も輪郭も、もうはっきりとは分からない。

それでも、そこに“誰かがいる”ことだけは見えていた。


どこかへ向かうように、彼は動いた。

優しい風が吹くみたいに、静かに――でも、たしかに。


もし最初からこんな姿だったら、きっと気にもしなかったと思う。

でも、もう“見えて”しまったから。


私は、ほとんど見えないその背中を、追いかけていくことにした。

【後書き】――writer I


この話では、何かとてもはっきりしないもの――

幽霊のような存在、かつての町、谷の底に沈んだ記憶――

そういう“あいまいなものたち”と、瑠る璃が向き合うことになります。


彼女はまだ、自分が何を求めているのか明確には分かっていません。

でも、「見えてしまったから、追いかけてみよう」

と思えるだけの感性と行動力が、確かに彼女の中にはあります。


幽霊の少年が何者だったのか――


“見えてしまった誰か”がいる限り、

物語はもう少しだけ、続いていきます。


読んでくださって、ありがとうございます。

また、次の一歩で会いましょう。

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