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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第一章:少女二人
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マナの材料ってなんでもいいのかな?

いつもの覚醒夢の中にいた。


ヴェル君。ヴェル君。君は本当にいい子なのかな?


たった一粒の飴玉だけで満足できる魔法食を出してくれたし、

微かな香りと触り心地のよいベッドで熟睡できる。これも魔法のベッドなのかしら?


ヴェル君はすごい魔法使いみたいだけど、どうして私と友達になろうと思ったの?

私の秘密に関係があるのかな?


そういえば、私には魔法耐性がまったくないって本当なの?

つまり、命令されたら逆らえないし、魅了をかけられたら抗えない。

自由を奪われることだってできるし、孤塔の頂上に幽閉されてしまうことも……。


――それって、今の私じゃない!!


はっと目を覚ました。


私はきょろきょろと辺りを見回す。


ヴェル君がいない?


ベッドの端に円形のお風呂。大量の花びらが浮かぶ湯船になっていた。

けれど、そこにもヴェル君の姿はない。奥の机やソファにも見当たらない。


きっと、別の部屋にいるのかも――。


時計を見ると、時刻はすでに十時過ぎ。女神堂へ向かうまで、あと少しだった。


ずっと向こうの部屋にいなかったから、女官イースさんが探しているかも……。

心配してるかな? たぶん、どこかの扉が私の内室につながっているはずだよね。


そう思いつつ、四つん這いでベッドを降りようとした。


すると、ふわりと爽やかで甘い香りが鼻をくすぐる。


着替えもないけど……もう一回入っちゃおうかな?


私はすっかりこの魔法に満ちた部屋を気に入り始めていた。

湯船の前まで来ると、そっと右足からお湯へと沈めていく。


しばらく温まっていると――急にもよおしてきた。


……お手洗いの場所、聞いてない! ど、どうしよう!?


私は、お手洗いがどこにあるのか考えながら部屋を見渡した。


すると、突然――


湯船のお湯がふわっと盛り上がり、その中からヴェル君が現れた。


「んきゃっ!」


私は驚いて、飛び跳ねるように立ち上がる。


ヴェル君は昨日と同じローブのまま、湯船の中から現れた。ずっと潜ってたの!?


ど、どれだけ潜ってたのよ!?


「そうだ、トイレはないよ。だから、そのまましていいよ。」


これが魔法使いの冗談なの!?もう、勘弁して……


「このお湯は常に浄化されるし、汚れた服のまま入ってもすぐに綺麗になるよ。だから問題ない。」


「もー……」


私は文句を言いつつも、もじもじと落ち着かない。


私にとっては大問題なんですけど!?


私を、ヴェルはじーっと見つめたまま首をかしげる。


「普通の人はそうなの?そっかー、なるほどね。」


なんでないのよ……!


思考が止まりかけたその時――


ヴェル君がそっと私の腰に手を回し、抱きしめるように支えた。


「ひゃっ……!」


私はもうダメかと思った――だけど。


不思議と、先ほどまでの緊急事態がすうっと消えていった。


えっ、まさか魔法ですか?魔法なの!?


私は驚き、思わず腰にしがみついているヴェル君を見つめた。


「ヴェル君、どうやったの?……あっ、いいえ、どこにやっちゃったの?」


ヴェル君は私の腰から離れると、あっさりと答えた。


「マナにしたよ。」


あ……、うん……そうなんだ。


私はもう分からないことを考えるのをやめ、高速で思考をどこかに飛ばした。

そして、代わりに素直なお礼を口にする。


「ありがとうね、ヴェル君。」


落ち着くために、私は再びお湯の中にしゃがみ込んだ。

ヴェル君もぷかっと浮かぶ。


もう魔法について聞いても勉強にはならないな……

と私は思い、今はもっと実用的なことを尋ねることにした。


「ヴェル君、ちょっといいかな?聞きたいことがあるんだけど。」


「なんでも聞いていいよ。」


すごくありがたい!……でも、私は聞きたいことが多すぎて、一瞬迷ってしまった。

とりあえず、もうすぐ女神堂に行かねばならないので、

自分の宮殿の内室に戻る方法を聞くことにした。


ヴェル君は何もしていないのに、

そのまま浮かびながら私のそばに寄ってきて、右手を差し出した。


……握手でいいのかな?


私も右手を差し出し、ヴェル君と手を握り合う。

すると、突然――この空間の構造が、まるで地図のように記憶へ流れ込んできた。


扉はたくさんあるのに、その先の記憶がない場所がある。

そこは行き止まりなのか?それとも侵入禁止の場所なのか?

それにしても……思っていた以上に、この家は大きい。


私の実家にも特別な部屋がある。

『非物質界-アストラルプレーン』とこちらの

『物質界』の接触面を利用した、見た目以上に広い空間。

――でも、ヴェル君は個人でこんな空間を持っているのかな?


どれだけお金持ちさんなのよ……。


まるで図書館のような広さ。ヴェル君は一体、どんな暮らしをしているのだろう?


私は湯船から出ると、ちょっと恥ずかしかったけど、ベッドの上でゴロゴロしてみた。

そうするのが当たり前のような記憶があるからだった。


全身が服ごとすぐに乾いた。まるで、ここではそれが普通であるかのように――。


私はベッドから降りて、ヴェル君の方を向いて軽く息を整えると、


「いってきます」


ヴェル君が、ふいに何かを私に放り投げた。

それは――飴玉だった。


「……え?」


手のひらに収まった小さなそれを見つめる。

ヴェル君は特に何も言わず、ただいつも通りの表情をしている。


ちょっと、気恥ずかしかった。……でも、なんだか、嬉しかった。

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