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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第七章:天と地ノ亜神
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125話:また会えるって言ってよね、誰か!

「きっと間に合うよ。

勇者くんとレラが、“邪悪王”を倒すのを。

そうすれば……“あの二人”とも、縁が切れるから」


ヴェルシーはそう言いながら、

横たわる“半分になったおじいちゃん”の世話をしていた。


コーク先生には意識があるようだけど、

話すことはできないみたいだった……半分だから。


「……あたしが、ちょっとだけ勇者に合わせるのが早すぎたのかも。

今度は、もっと気をつけるからね」


もう詠唱はほとんどしていない、

トキノ先生はそう言いながら、支柱のあちこちに絡めた蔦を、

静かに見上げていた。


どうやらみんな落ち着いているし、

上手く行っているみたい。


私も、ヴェルシーとトキノ先生を交互に見ながら、

ガン彗くんの手を握って、時が過ぎるのを待っていた。


こうしてると、ふと思い出す。

碧り佳姉さまと、深る雪姉さまのこと。


歳は私とそんなに変わらないのに、

いつも私にかまってくれた、大事な姉さまたち。


……この勇者くんの話が終わったら――

実家に帰ろうかしら?


また「嘘でしょ」って言われてもいいから、

私のすごい話、聞いてもらいたいな……


不意に、埃がふわりと舞った。

支柱の陰から、オーツさんの声が聞こえてくる。

低くて、落ち着いた声――


「ああ、申し訳ない。コーク先生の搬送は、なんとか上手くいきました」


埃をそっとはたきながら近づいてくると、

一度、みんなを見まわしてから、うっすら微笑んだ。


「まぁ、ぎりぎりでしたけどね。

獣種は、帰るように誘導できましたし。

勇者ロテュさんとレラさんは、もう帰っているでしょう。

……ただ、この城から出るのに、数日はかかりそうですけどね」


……これって、上手くいったんだよね?


そう思ったけど――なんだか、みんなの様子が変だった。


ヴェルシーはしゃがみ込んで、コーク先生に向かって――え、謝ってる?

トキノ先生は、支柱に絡んだ蔦に向かって、小声で何かを言っている。


オーツさんも良く見れば、笑顔がひきつっているみたい。


……これは、上手くいってないのかも。


三者三葉に違うけどきっと考えているのは同じようだった。

……おじいちゃんに叱られると言っていたよね?それは私もなのかな?

悪い事なんて何もしてないよ、私。


はぁん……ため息をついたときだった。


ヴェルシーの後ろから――もやっとした“闇”が、にじむように姿を現した。

あぶない! そう言いかけて一歩前に出ようとした、そのとき。


「わっ……!」


ガン彗くんが、私にしがみついた――!


あっ、体勢を崩した……そのまま!

私はガン彗くんと一緒に、ヴェルシーに向かって飛び込んでしまった。


でも、こっちを見ていたヴェルシーは、すっと私たちをかわして、

そして――そのすぐ後ろに、あの“闇”が!


もう転ぶ寸前だった私たちは、そのまま――頭から闇に突っ込んでいった。


ビャシッ!!


大きな音と共に、何かに弾かれるような反発があって、

私たちは、なぜかうまく立ち上がっていた。


後ろから、ヴェルシーの声。


「僕知らないよ? 瑠る璃が責任取りなよね」


……ん?なんの話?


トキノ先生も、オーツさんも、なぜか無言でうなずいてるし……


っていうか、そこにいるの……おじいちゃんじゃない?


えぇぇ、もう……!


ああもう、いいから――とりあえず、何でもいいから助けてあげてよ!


それから、私とガン彗くんは――

「離れていなさい」と、トキノ先生に言われた。


離れた場所からでは何と言っているか聞こえなかったけど、

ヴェルシーとオーツさんも、三人でコソコソと何か話しながら、

コーク先生を“助けている……よね?


トキノ先生は、今もずっと呪文を詠唱しているし、

オーツさんは、その隣でしゃがみ込んで――まるで粘土でも練るみたいに、何かをしていた。


私は、その横で何も知らないはずのガン彗くんに、

「おじいちゃん……元に戻れるよね?」ぽつりと聞いてみた。


そのときだった。


ヴェルシーが、なにか悩みながらゆっくりと、私の方へ歩いてきた。


「治ったけど……おじいちゃんは――記憶がないんだ」


「えっ!? 記憶がないって……どういうこと? 何も、覚えてないの?」


「君たちがぶつかったときに、闇の部分が“無くなった”らしいんだ。

おじいちゃんは光と闇を同じくらい持ってたみたいで――その半分が……

……もしかして、ガン彗くんが食べたとか?」


えぇぇ!?

ガン彗くんって精霊だけじゃなくて、闇まで食べちゃうの?


ちらっとヴェルシーを見ると、

「聞いて」って目でこっちを見てる。


「ねぇ、ガン彗くん。君って……闇まで食べちゃったりするの?」


「んー……ごめんなさい。だって、目の前にあったから……飲んじゃた」


……むー……

やっぱりこれは、ちゃんと怒らなきゃいけないよね。

“おじいちゃん”を――食べちゃうなんて、いくらなんでも。


私は一呼吸ついて、

ちょっとは怖く聞こえるように声を出そうとした、そのとき。


「ガン彗くん。ありがとう」


……え?


ヴェルシーは後ろを振り向くと、

トキノ先生とオーツさんに小さく合図を送った。


トキノ先生はこくこくとうなずいて、

オーツさんの方を向くと――二人で、大きくうなずき合った。


それから、突然。


「ヴェルシー、瑠る璃。帰りますよー、

瑠る璃おねちゃん、鍵本の七十八項目、破ってね」


「……トキノ先生、それ。僕のなんですけど」


ヴェルシーは、小声で不満をこぼした。


「全部使わずに済んだんだから、これくらい、いいでしょ?

 どうせ全部なくなったら、百億はするんでしょ、“コレ”」


ヴェルシーが口をつぐんでる横で、私は鍵を取り出して本を開いた。


七十六、七十七……七十八項目。

目で確認してから、びりぃとページを破いて、空中に放った。


何回かやってるけど、未だによくわからない。

本に書かれてる文字も、状況も。

でも――これで帰れるなんて、便利だと思った。


私は、もう慣れてしまった転送の感覚に身を任せた。


でも――気づいたとき、びっくりした。


オーツさんはともかくとして、ガン彗くんがいなかった。


どうしたのかトキノ先生に聞くと、

三人ともあのまま、ガン彗くんに頼んで――


空からずっと流れ続けてる“水”を、止めに行ったらしい。


……そ、それなら。

ちゃんと、お別れ言えばよかった。


もう会えないなんてないよね?


「また会えるよ」と言ってくれるはずの、二人はどこかに行ってしまった。


私は――今日一番の精神ダメージを受けて、ベッドに倒れ込んだ。

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