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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第七章:天と地ノ亜神
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123話:こんな高いとこに住んでいたの?おじいちゃん

ここは――城の大広間のようだった。


高い天井、彫刻の施された柱が数十本立ち並んでいた。

滑らかな床は、少しでも動けば埃が舞い上がるほど、

長く放置されてあるみたいだった。


その広間の中央あたりに、オーツさんがいた。

彼はガン彗くんの前に立ち、まるで庇うように守っている。


その奥に――誰?

色素のないような肌、服、そして杖を持つ手。

まるで色そのものが抜け落ちたような老人が、

目を閉じたまま、微動だにせず立っていた。


「トキノ、遅いですよ。コノカミだけでは、

ガン彗様をお守りするので精一杯でしたよ」


オーツさんが疲れている様子で言うと、私たちを見て一息ついていた。


……えっ?

あの、おじいさんと戦っていたの……?


私は床に埃を巻き上げながら、そっとガン彗くんのそばに近づいた。


「みぃー……怒られた……おじいちゃんに」


そう言って、しょんぼりしてるガン彗くんの頭を、

しゃがみながらなでなでした。


みんな何もしてない――時間は動いているよね?


実際には数秒しか経ってなかったと思うけど、

舞い上がった埃の音が、聞こえる気がした。


「そ奴らが……お前の弟子か?」


やっと動いた。


おじいさんとは思えないほどの、張りのある声が広間の奥から響いた。


少し怒っているような気がしたけど、

私たちの方を見たときには、微笑んでいた。


トキノ先生は、まるで埃を立てないように、

おじいさんの方へとゆっくり歩いていった。


だから私は、トキノ先生はその微笑を気にしてるのかと思った。


でも――実際には気にされていたのは、私の方だった。

おじいちゃんにじっと見つめられていた。


なんでしょう……? 私、弟子じゃないんですけど……


私には、おじいちゃんの表情は読み取れなかった。

それどころか――この状況そのものが、まだ全然わかっていなかった。


「コーク先生、あまり時間がないので率直にお聞きしますが――

まだ“あれ”を宿らせていらっしゃいますよね?」


……そうか。

おじいちゃんは、トキノ先生の“先生”なんだ。

どんな先生でも、先生の先生には緊張するんだね……なんだかわかる気がする。


私には、話の内容はさっぱりだったけど、

きっとオーツさんと一緒に、何かお願いしに来たんだと思った。


「そうか、ローズ。お前が“人”に戻っているのは、見てすぐにわかったぞ。

それで――龍神人さまのお子まで連れてきたのか?」


「ガン彗さまは……成り行きでこうなってしまったのです」


その答えなのか――それとも、ただの反応だったのか。

コーク先生がゆっくりと“濁って”いくような感覚だった。

境界が曖昧になって、そこに何かが“滲み込んで”いくみたいだった。


「え? おじいちゃん、怒ったの?」


いきなりの変化に、私は思わず声に出していた。


「平気だよ。怒ったわけじゃないでしょ。

僕たちがちゃんとできるって、信じてくれてるんじゃないかな」


――あ、そうなの?


隣にいつの間にか来ていたヴェルシーが教えてくれた。


「じゃあ、これからどうなるの?」


「みんなで、おじいちゃんを倒すんだよ。

そのあと、勇者くんと戦ってもらうんだ」


……いま私を見てないから、

ヴェルシーの背中をちょっとだけ蹴ってやろうかと思ったけど――やめた。


なんなのかな? おじいちゃんが邪悪王様だったの?

でも「作る」って言ってたから、魔法でそうなるってことなのかも。


……でも――おじいちゃんを倒すって、ちょっと可哀そうじゃない?


あ、そうだよね。

私たちで倒さなきゃいけないくらいなんだから――

おじいちゃんが弱いわけ、なかったよね。


もう、おじいちゃんはほとんど“闇”に溶け込んでしまってるように見えた。


空気が、ぴしっと凍ってる。

気づいたら私の体が震えてた。


ヴェルシーがこっちを振り返って、私の方へ近づいて来た。

震えてるのを見て、もしかして――抱きしめてくれるのかと思った。


……けど。


すっと横をすり抜けて、私の背中にぴとっとくっついた。


「そういえば、”君も”魔法を使うこと、できるんだったね」


ん?私たち、こうしてくっついてると――すごく強い、そう言う事だよね?

ヴェルシーは詠唱なんてしない。だから私も、ただ“思うだけ”で魔法が使えた。


さっきまで闇に溶けて見えなかったおじいちゃんの姿が、

いまははっきり見える。


でも……

こんな魔法を、おじいちゃんに使っても――平気なのかな。


……死なないよね?


おじいちゃんの姿は、もう――人の形をしていなかった。


“私たち”が放った魔法が、伸びたり縮んだりしながら、

空間そのものを水飴みたいにとろけさせていた。


「ヴェルシーおねちゃん、きっちり半分にして」


トキノ先生がそう言った。

先生の先生を……半分にするんだって。

その一言に、私はもう目が離せなかった。


おじいちゃんだった“闇”が持っていた杖に、

何かが集まりはじめていた。

凍った空気、おじいちゃんだった気配、冷たい光を放つマナ――

全部が、そこに吸い込まれていた。

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