120話:けっきょく同じ場所だったりする?感じただけだけど……
まったく何もない、光だけの空間。
――こうやって今考えているのは、
溶けちゃった意識がまた固まってきたのかな?
ん?あれ眩しい?……胸に抱えていた鍵本が、“光ってる”。
そこから差した一筋の光――その先に、誰かが浮かび上がった。
……ヴェルシー?
どうして、なんてわからない。
全てが光の空間のここで、
見えなかったヴェルシーが鍵本からの光で浮かび上がった。
ヴェルシーは背を伸ばし懸命に手を伸ばしてた。私も精いっぱい手を伸ばした。
でも、届かない――もう少しなのに……!
そのとき――。
肩から下がっていた鍵本を止めるチェーンが、腕を這うように伸びていって、
まるで私の代わりにヴェルシーを捕まえてくれた。
そしてすぐ。ぐっ、と体を引かれた勢いで私はヴェルシーに抱きついていた。
「ありがとう、瑠る璃。これで……戻り方がわかったよ。
それと、もう時間がないから――僕は隠れるね。
勇者くんと一緒にいてくれれば大丈夫だから」
ヴェルシーはそう早口に言い終えると、
また光に溶けるようにして姿を消してしまった。
……え、ちょっと待って、ヴェルシー……?
気がつくと、鍵本からの光は無くなっていた。
周りをみる私は狭い通路に立っていた。
ゴツゴツとした岩の壁に囲まれていて、湿った床がぬるりと滑りそうだ。
天井からは冷たい水がぽた、ぽた……と音を立てて滴っている。
ここは……どこ? 洞窟ではないよね?
そんな時――
ヴェルシーが消えていった反対方向から、
「コツン、コツン……トン、トン」と二つの足音が近づいてくるのが聞こえた。
見ると、曲がり角の先から明かりが差して、影がふたつ。
角を曲がって現れたのは――勇者くんと、レラだった。
「驚いた……瑠る璃、生きてたんだね」
「あ、誰かと思った、驚かさないでよ」
ふぅーと一呼吸するとレラが腕をさすってくれたので落ち着いた。
勇者くんの剣がぼんやりと光を放っているのと、
レラの明かりの魔法が狭い通路を照らしていた。
自分たちのまわりは明るいけれど、少し離れた所は暗そうだった。
勇者くんはいつも通り、その剣を掲げながら周りを調べていた。
「瑠る璃ちゃん……絶対、また会えるって思ってたよ」
レラも控えめだけど声を掛けてくれた。
みんなと再会できて、ほんとに嬉しかった。
でも、次はどこへ行くんだろう?
今となっては、ここが別次元なのかどうかも、よくわからなかった。
そんなとき――
「こっちだよ」
勇者くんがぬめった壁の一部を、ドンャと力強く押した。
すると――
ガシャ、ガシャッ!
壁がそのまま大きく倒れて、まるで奥にスライドするみたいに傾いていった。
そして、斜めになった壁がそのまま階段になっていた。
上へと続く石段が、ゆっくりと姿を現していた。
「瑠る璃も、ここが隠し通路だって睨んでたんでしょ?
この遺跡でさっき、文字を解読してたレラが古文書を読んでわかったんだ。
階段の出し方も、ちゃんと書いてあったよ」
……え?
私はなんの話かよくわかってなかったけど、
とりあえず――うん、と頷いておいた。
「行こうもうすぐだ」
勇者くんは張り切って階段を上って行き、レラは滑る足元を注意して、
私にも「注意してね」と言いながら、
一段一段確かめるようにして上がっていった。
上に何があるのか?
勇者くんとレラはここで何をしているのか?
まだ何もわからないまま、私もそのあとを追う。
階段を上りきると、そこには長く静かな通路が伸びていて、
奥には一枚の扉がぽつんとあった。他には何もない。
勇者くんは立ち止まり、扉の前で何かを感じ取るようにじっとしている。
レラはそっと彼の隣に立ち、扉を見つめたまま、ぽつりと言った。
「ここが、そうなんだと思う」
「それじゃ、いくぞ」
勇者くんが勢いよく「ぐぁぁっ」と力を込めて扉を押し開けると、
大量の光が差し込んできた。
私には、その光の先に何があるのかすぐにわかった。
でも、また光の空間に行くのかと思って想像した。
ここの世界も、さっきの世界も――そう、あっちの世界も、あの世界だって、
私がちゃんと分かっていないだけで、みんな繋がってるよね?
そんなふうに思える。そんなふうに見えた。
きっと、全部同じ場所にある。でも、ふつうは見えないし、遠いだけ。
だけど今、勇者くんとレラが立っている場所は――
私が一番よく知っている世界。
帝都に帰ってきたよ。