表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第七章:天と地ノ亜神
124/179

120話:けっきょく同じ場所だったりする?感じただけだけど……

まったく何もない、光だけの空間。

――こうやって今考えているのは、

溶けちゃった意識がまた固まってきたのかな?


ん?あれ眩しい?……胸に抱えていた鍵本が、“光ってる”。

そこから差した一筋の光――その先に、誰かが浮かび上がった。


……ヴェルシー?


どうして、なんてわからない。

全てが光の空間のここで、

見えなかったヴェルシーが鍵本からの光で浮かび上がった。


ヴェルシーは背を伸ばし懸命に手を伸ばしてた。私も精いっぱい手を伸ばした。


でも、届かない――もう少しなのに……!


そのとき――。

肩から下がっていた鍵本を止めるチェーンが、腕を這うように伸びていって、

まるで私の代わりにヴェルシーを捕まえてくれた。


そしてすぐ。ぐっ、と体を引かれた勢いで私はヴェルシーに抱きついていた。


「ありがとう、瑠る璃。これで……戻り方がわかったよ。

それと、もう時間がないから――僕は隠れるね。

勇者くんと一緒にいてくれれば大丈夫だから」


ヴェルシーはそう早口に言い終えると、

また光に溶けるようにして姿を消してしまった。


……え、ちょっと待って、ヴェルシー……?


気がつくと、鍵本からの光は無くなっていた。


周りをみる私は狭い通路に立っていた。

ゴツゴツとした岩の壁に囲まれていて、湿った床がぬるりと滑りそうだ。

天井からは冷たい水がぽた、ぽた……と音を立てて滴っている。


ここは……どこ? 洞窟ではないよね?


そんな時――

ヴェルシーが消えていった反対方向から、

「コツン、コツン……トン、トン」と二つの足音が近づいてくるのが聞こえた。


見ると、曲がり角の先から明かりが差して、影がふたつ。


角を曲がって現れたのは――勇者くんと、レラだった。


「驚いた……瑠る璃、生きてたんだね」


「あ、誰かと思った、驚かさないでよ」


ふぅーと一呼吸するとレラが腕をさすってくれたので落ち着いた。


勇者くんの剣がぼんやりと光を放っているのと、

レラの明かりの魔法が狭い通路を照らしていた。


自分たちのまわりは明るいけれど、少し離れた所は暗そうだった。


勇者くんはいつも通り、その剣を掲げながら周りを調べていた。


「瑠る璃ちゃん……絶対、また会えるって思ってたよ」


レラも控えめだけど声を掛けてくれた。


みんなと再会できて、ほんとに嬉しかった。

でも、次はどこへ行くんだろう?

今となっては、ここが別次元なのかどうかも、よくわからなかった。


そんなとき――


「こっちだよ」


勇者くんがぬめった壁の一部を、ドンャと力強く押した。

すると――


ガシャ、ガシャッ!


壁がそのまま大きく倒れて、まるで奥にスライドするみたいに傾いていった。

そして、斜めになった壁がそのまま階段になっていた。

上へと続く石段が、ゆっくりと姿を現していた。


「瑠る璃も、ここが隠し通路だって睨んでたんでしょ?

この遺跡でさっき、文字を解読してたレラが古文書を読んでわかったんだ。

階段の出し方も、ちゃんと書いてあったよ」


……え?

私はなんの話かよくわかってなかったけど、

とりあえず――うん、と頷いておいた。


「行こうもうすぐだ」


勇者くんは張り切って階段を上って行き、レラは滑る足元を注意して、

私にも「注意してね」と言いながら、

一段一段確かめるようにして上がっていった。


上に何があるのか?

勇者くんとレラはここで何をしているのか?

まだ何もわからないまま、私もそのあとを追う。


階段を上りきると、そこには長く静かな通路が伸びていて、

奥には一枚の扉がぽつんとあった。他には何もない。


勇者くんは立ち止まり、扉の前で何かを感じ取るようにじっとしている。

レラはそっと彼の隣に立ち、扉を見つめたまま、ぽつりと言った。


「ここが、そうなんだと思う」


「それじゃ、いくぞ」


勇者くんが勢いよく「ぐぁぁっ」と力を込めて扉を押し開けると、

大量の光が差し込んできた。


私には、その光の先に何があるのかすぐにわかった。

でも、また光の空間に行くのかと思って想像した。

ここの世界も、さっきの世界も――そう、あっちの世界も、あの世界だって、

私がちゃんと分かっていないだけで、みんな繋がってるよね?

そんなふうに思える。そんなふうに見えた。


きっと、全部同じ場所にある。でも、ふつうは見えないし、遠いだけ。


だけど今、勇者くんとレラが立っている場所は――

私が一番よく知っている世界。


帝都に帰ってきたよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ