私の隠し事てもしかしていっぱいある?
「瑠る璃さぁ~、ご飯食べない?」
……ヴェル君が、魔法の話をしてない!? そのことに驚いて、私はぱっと起き上がった。
そういえば、かなり長い間ご飯を食べていなかった。
そう思った途端、お腹の空腹感が一気に蘇る。
ぐぐぅー……
ヴェル君は何を食べるつもりなんだろう?
それとも、何か出してくれるのかな? そんな期待を抱きながら、彼女をじっと見つめた。
「はいっ」
ヴェル君は私の手のひらに、大きめの飴玉をそっと乗せた。
私が何か言いたそうにヴェル君を見上げると、
彼女は何も言わず、口元に指を添えて「食べて」とジェスチャーする。
見たことのない飴玉だけど、特に怪しいところもないかな。
ぽいっと、迷わず口に放り込んだ。
……美味しい!
舌の上で転がすと、まるでシチューを飲んでいるような味が広がる。
肉や野菜の旨み、しっかりとした出汁の風味が、唾液と混ざってなめらかに溶けていく。
ずっと舐めていたい――そう思う間もなく、
普通の飴と同じように、ゆっくりと口の中で溶けて消えてしまった。
それでも、たったひとつで十分な満足感があった。
「ごちそうさまでした。ありがとうねヴェル君。
すごく美味しかったよ」
こんな深夜に食事をするのも初めてだし、
魔法食――? これも、食べたことのないものだった。
少し落ち着いたものの、今日は精神の浮き沈みが激しすぎた。
ヴェル君が言った「秘密」って、つまり私の弱点のことだったのか。
「ははっ……」
乾いた笑いがこぼれる。
「それと、『蝕界』を見通す力と、未来を見る力と~……
あとは世界のどこでも見えるやつ!」
「……え?」
いえいえ、私、そんな大層な力は持っていませんよ?
「なんでも見通す瞳っていうのは、昔からあるんだよね。
古文書にも書かれてるけど、封印されてるものが多くて、
詳しいことはわからないし……。でも、瑠る璃は持ってないの?」
持ってませんよ!予知なんてできたら、私、この部屋には来てないと思うけどね……
「でも、『蝕界』への耐性があるって考えたら、それだけですごい力だよね。」
ヴェルはさらっと言ってのける。
「『蝕界』の影響下では、どんな生物も耐性が落ちる。
比較的耐性のある精霊ですら、こっちの『物質界』に
来たがらないくらいだし……」
ヴェル君はそこで言葉を区切り、真剣な眼差しで瑠る璃を見る。
「絶対に隠さなきゃダメだよ。その力――間違いなく、狙われる。」
うん、君にもう狙われているけどね……。
はぁん、小さいため息をついて周りを見ればいつの間にか、
誕生日は終わっていた。
ヴェル君の部屋にはたくさんの時計が飾られていて、
どれも同じ時刻を指している。だから、きっと間違いない。
私の体内時計もそう言っているし……。
今日は女神さまに会いに行く日。でも、お昼からだし、もう少し寝ちゃおうかな。
「ヴェル君は寝ないの? いつ寝るの?」
「僕も寝るよ。たくさん寝ると、マナが回復するしね。」
「そうなんだ……。えーっと、ここで寝てもいいのかな?」
ヴェル君はこくりとうなずくと、そのままベッドに移動して、もう眠りについてしまった。
私はそっと、小さくつぶやいた。
「……ありがとう。」
……それにしても、私って、いくつ隠し事あるんだろう?