115話:問題を解くにも一苦労だね
私たちの勇者くんとレラを見守る旅を、
トキノ先生に最初から丁寧に話していたら――
もう、太陽が全部欠けていた。
私は最初、ヴェルシーのことを探してくれるのかと思ってた。
でも、トキノ先生がびっくりするくらい驚いたことがあった。
それは、私が何気なく、
ちょっと変わった格好のオーツさんの話をした時だった。
その瞬間、先生は体をびくっと震わせて――私の両肩をがしっと掴んで、
そのままふるふるっと一緒に震えてきた。
……そんな反応されるなんて思ってなかったから、こっちも驚いた。
まさか、トキノ先生と知り合いだったなんて。
しかも、オーツさんも神さまだったってことも。
いや、この世界にいるから“神さま”じゃなくて、
“亜神”って言うみたいだけど。
それで、「おもいだしたぁ!」って叫んで――
人と獣で境を決めたのは、自分のいくつか昔の前世とオーツさんだなんて。
……そんなことあるの? また驚かされたよ。
それからもオーツさんの話が続いて、
このまま降水が続けば、
怒って獣種が人の住む場所にまで来るかもしれないって。
でも、なんでそれで“私たちの国”が怒られるの?って聞いたら――
龍神人さまには、能力的にも物理的にも、手が届かないから――なんだって。
……八つ当たり、だよね。それって。
他のオーツさんの話は正直どうでもよかったけど、
トキノ先生的には、長い間忘れていた“約束”を思い出したことが、
けっこう響いたみたいだった。
しばらく悩んでるように見えたけど、
思ったより、今の先生って深く落ち込むタイプでもないのかも。
それとも、年齢からくる未熟さ……なのかな?
でも、あっけらかんとした声で、こんなことを言った。
「そういえば、あたしはあなたたちに――全部、賭けてるんだった」
いまのトキノ先生は、もうオーツさんと“対等な力”を持ってないらしい。
だからこそ――もし私たちだけでこの問題を解決するなら、
ヴェルシーが必要なんだって。ありがとうトキノ先生。
ということで、ヴェルシーの捜索を急いでくれた。
「トキノ先生。私、実際に体験したから、あってると思うんだけど――
オーツさんの問題って、ガン彗くんにお願いして、
降水を止めてもらえば解決するはずなんだよね。
でも……なぜかガン彗くんは、勇者くんとレラ、
それから私がそろってないと、あの岩山に戻ろうとしないの。
それって、勇者くんの変な力……というか、何かの影響があるせいですよね?」
トキノ先生は、私の顔をじっと見ながら……そのまま固まってしまった。
うーん……考え中みたい。動かない。
ガン彗くんはというと、大きな水球(海)の中で、
すいーすいーって気持ちよさそうに泳いでる。
いいなあ。あの隣に、お風呂も作ってもらおうかな?
私の考えごとがひと段落したころ、ようやくトキノ先生が口を開いた。
「よじれちゃってるから、端っこからほどいていこうよ」
……あれ? なんかヴェルシーみたいな言い方だなって思った。
もしかして、これって魔法使い特有の言い回しなのかな?
うーん、だから私には魔法ってよくわからないんだよね。
「大丈夫だよ。あたしもちゃんと助けるし――
龍神人さまの高次元のことはわからないのよ、あたしにもね」
トキノ先生はそう言って、えへへって笑った。
それから、少し真剣な顔になって。
「瑠る璃おねちゃんは、
どこからヴェルシーおねちゃんがいなくなったと思ってる?
わかる範囲で教えてくれる?」
……どこから、か。ちゃんと考えたことなかったけど――
辺境の村までは確かに一緒にいたし、
そのあともすぐ近くにいてくれた気がする。
でも、そのあと勇者くんとレラの姿も見当たらなくなって、
ガン彗くんが気づいてくれたときには、二人は空にいたのだから、
姿の見えなくなっていたヴェルシーも一緒に空へ行ってしまって、
勇者くんが放った雷と一緒に、空の向こうに消えてしまったんだと思う。
私がそう言うと、トキノ先生は「私も行ってみようかな?」って、
少し弾んだ声で言った。
「えっ、どこに?」って念のため聞くと、
「数百年ぶりだから!」とか「流行りの服ってどんなの?」とか、
ちょっと浮かれ気味で――
ちゃんと話を聞いてみたら、私とガン彗くんと一緒に、
ヴェルシーが消えた場所まで行くってことだった。
「瑠る璃おねちゃん、それじゃあもう寝た方がいいよ。
あたしはもう少し準備したら休むね。ガン彗様はもう寝ているから、平気だよ」
ほんとだ。
ガン彗くんは水球の中で、
寝返りみたいにくるっと回りながら眠っているようだった。
私もトキノ先生に軽く声をかけてから、
階段を上がってベッドに――ぱふっ、と倒れた。
今日はもう出来る事はないはず――
明日……がんばろ。