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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第七章:天と地ノ亜神
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114話:ごぼっ、ごぼごぼ、ぐぶぐぶぐぶ……

熱くはなかった。

でも、私が見ていたのは――白い紙が燃えていたんじゃなくて、

空間そのものだったのかもしれない。


その先に見えたのは、また別の空間。

淡い色の壁と、丸みのある家具。

それから、可愛いぬいぐるみがいくつか並んでいる。


……よかった。ここ、トキノ先生の部屋だよね。


何が起こるかまったくわからなかったから、ちょっと安心した。

今となっては、もうお仕置きでもなんでも受けますって気分だった。


先生はどこにいるのかな?と思って、立ち上がって部屋を見回す。


ん? さっきまで、ここにいたような気配があった。

テーブルの上には、まだ湯気の立っているお茶。

本当に、今の今まで座っていた感じだったのに――

先生の姿は見当たらなかった。


カチャ。


楕円形の扉が開いた音がしたので私はそっちを見た。


……あれ? そんなところに扉なんてあったっけ?


私の記憶では、そこに扉はなかったはず。

でも、その扉から出てきたトキノ先生の格好も――見たことがないものだった。


柔らかなグラデーションがかかったブレザーに、

シンプルだけど淡い色合いのスカート。


たしか、アメノシラバ帝国のどこかの制服で見たような……?


いままでずっとパジャマみたいな恰好しかしてなかったのに――

どうしたんだろう?


「よくいらっしゃいました、ガン彗さま。よろしければ、こちらへどうぞ」


……うーん?

トキノ先生、今の言い方――なんだかオーツさんと似てるかも。


もしかして、ガン彗くん……というより、

“龍神人”っていう人たちが、すごい存在だったのかな?

私は全然知らなかった。


でも、ガン彗くんは私のそばを離れないでじっとしていた。

トキノ先生の方には行こうとしない。


……そっか。私が言わないと、だめなんだよね。


「ガン彗くん、一緒にあっちの部屋に行こ?」


そう言って、私が誘ってあげないと、

たぶん、トキノ先生には何も話してくれなさそうだった。


新しい部屋は……すごい。

大きな部屋いっぱいに、水球がただよっていた。


うん、私が見ても、なんだか楽しそう。

でも、お風呂じゃないよね? たぶん。


ガン彗くんも楽しそうな顔をしてるけど、ちらっと私の方を見ていた。


「大丈夫だよ、一緒に入ろう」


私は、いつものお風呂みたいに――飛び込んだ。


それを見たガン彗くんも、ついて来てくれた。


じゃっぷーん。

その次に、ちゃっぷーん。


……私が楽しいと思ったのは、ここまでだった。


そしてそのあとは、こう思った。

――息が、できない。


ごぼっ、ごぼごぼっ。

口の中に水が入ってきて、しょっぱくて、苦しくて。


ばしゃっ、ばしゃっ――手を動かしても、掴めるものが何もない。

ぐぶ……ぐぶぐぶ……。

音が、遠くなっていく……

とろ……とろ……

……しゅぅぅ……


――意識がなくなる寸前に、水球から引き上げてくれた。


ごぼっ――ばふっ、ばふっ……!

顔を出した瞬間、空気が肺に飛び込んできて、胸が痛いくらいだった。

「けほっ、けほけほっ……!」って咳き込みながら、私はやっと声を出せた。


はぁー……こんな水、知らないし。

私、もう水の中で息ができなくなっちゃったのかな?


――なんて、考えていたら。

私の背中を、トキノ先生がそっとさすってくれた。


ふみゅ、ありがとう。


「これは、龍神人さま用の――高次元に合わせた“海”だから。

瑠る璃おねちゃんに魔法がかかっていても、無理だよ。

“普通”に泳げれば別だけどね」


……そうなのね。

“泳ぐ”ことを知ってる人って、いったい何人いるのよ?

って思ったけど、もう慣れた。


――価値ある知識は、特別な人しか持っていないんだって。


でも、私には先生がいる。

……トキノ先生じゃないよ。ガン彗先生がね!


水球の中を、思うままに泳いでる。

手足を、すぅいー、すぅいーって動かしてるだけで、すごく速い。


あとで、教えてもらおっと。


でも今は、それよりも考えなきゃいけないことがあった。

……ヴェルシーのことを。

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