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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第七章:天と地ノ亜神
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108話:ひとりでも、信じてるならいいよね。

太陽がすべて欠ける前に野営することにした。


レラが「私が準備するね」と言って、

地面に向かって《永久の明かり》を唱えると、ぽわーっと辺りが明るくなった。


「ねぇレラ、あなたの新神魔法ってすごく便利よね。

帝都に行ったら、先生になれそうじゃない?」


私は魔法の素質はまったくないって言われたけど、

新神を”崇めるだけ”で魔法が使えるなら、

そんな素敵なことないなーと思ってた。


レラは首を振って、真剣な顔で言い返した。


「ダメだよ。女神リレアス様とケンカしちゃう」


えっ!そんなこと、考えたこともなかった。

神さま同士でケンカするの?……なんかすごい。


ケンカって言えば――レラ自身も、こうして家出してるんだよね?

平気なのかな?

もし私の両親にバレちゃったら、父さまは許してくれるかもしれないけど、

母さまには怒られに違いなかった。


ちょっと、今どうしているのか、話を聞いてみた。


レラの両親は帝都で仕事をしていて、

レラももう「若冠の儀」を迎えているので、

学校ではなく仕事を助けるために、呼ばれてるらしかった。


でも、あまり人が多い場所には行けないって言ってた。

その理由は「私、新神カノンルから啓示を受けたから」だって――


……啓示ね……それって、トキノ先生に聞けばわかるかな?

ほかにも神さまっているのかな?


名前を持っている神さまなんだから、この世界にちゃんといるはずだよね?


「神さまの名前を聞けたなんて、すごいよね。

名前をこの世界に、残した神はいないって聞いてたよ」


レラが、俯き加減で、私に言いづらそうに言った。


「私が……付けたの、その名前……」


そっか……

でも、気にすることはないと思う。

名前があったほうが、親しみがわくものね。


精霊信仰みたいに、昔から受け継いできたものがあれば、

人は盲信することもあるけど――

新神カノンルを信じる者はいまのところ、一人。


レラだけだ。


だから、これからどうなるかなんて、誰にもわからないよね。


このあと、もうすぐ来る『蝕界』に備えて、

レラにも教えておこうか少し迷った。

でも、もうレラは、座り込んで足を抱えたまま、静かに眠ってしまっていた。


そうだよね、みんな疲れてるよね。

私も疲れてる。

でも、『蝕界』が来たとき、

ちゃんとみんなから遠ざかっていけるか試さなきゃいけないから、

私だけは、起きていないとね。


『蝕界』が来るとき、夜とか寝ている人には、たいていわからない。

『蝕界』がもたらす生物への感覚遮断は、睡眠にも似ているから。


私も、寝ているときにはたぶん気づけない。

でも、夢を見ているときだけは、夢の中で『蝕界』を見たことがあった。


今たぶんだけど、それに近いことが起きていた。


勇者くんが持っていた、龍神人の角らしいものと融合した剣――

それが、そこに落ちていた。


鞘もなく、むき出しのまま。

その剣は今はっきりとよく見えた。


いままでビリビリしていた剣は、いまでは光り輝いていた。


どうしてそうなっているのか?

私はどうしても、それをさわってみたかった。


光る剣を持ち上げると、光は線になって伸びていった。

ゆっくりと、まっすぐに。


なんだか空間が裂かれていて、

その切り裂かれた部分が光の残痕になっている、そんな風にも見えた。


その光線は、空の一点を目指していた。

そして空の途中で吸い込まれているように止まっていた。


でも……それだけだった。


吸い込まれている場所が遠すぎる、いや、もう距離感なんてなくなっていた。


どうにかできないかな?


「僕も手伝うよ。マナでどうにかならないかな」


ヴェルシーが、私の手にそっと重ねながら言った。

急に現れる――でもそれは私を助ける為だ。


「こんな、よくわからないものを使うのは、危ないんだけどね」


そう言いながら、ヴェルシーはどこか楽しそうだった。


私の力を強化してくれているのか、それともこの剣の力なのか――


そこにある空間に、光が満ちた。

私がその光の中に、ふっと飛び込んだような気がした。


――そこに、立っている人がいる。


まぶしすぎて影になっていたけど、少しずつ見えてきた。

顔が――瞳が――


あれ? 勇者ロテュなの?


何か言ってるのかな?


口が動いてるけどわからない。


は、っ――!


手に持っていた剣から、バチッと雷が弾けた。

その一瞬で、私は元に戻っていた。


落とした剣はもう光っていなかった。


ヴェルシーにも聞いてみたけど、

何も見ていなかったみたいだった。


……いつの間にか、また夢でも見ていたのかな?

わけがわからなかった。


そうしているうちに、『蝕界』が終わろうとしていた。


「君が遠くに離れられるか試せなかったけど、また今度だね」


そっか。


そんなことすっかり忘れてた。

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