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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界
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103話:勇者は見守るもの

武者震いをしているロテュは、私には意味がわからないことを言っていた。

レラは、不安で押しつぶされそうだったけど、なんとか頑張っていた。


私は「話し合えばいいのでは?」と思っていたけど――

それでは意味がないと言うことを思い出した。


「どうせみんなユキノキ国の軍団だから、やっちゃっていいよ」


そう私に囁きかけてくるヴェルシーがいた。

だから、試しに言われた呪文を詠唱してみた。


もちろん、トキノ先生がくれた

『カッコよく呪文を唱える その4』に載っていたポーズも真似した。

首を注意して傾けて、緩やかに腕を伸ばした。


――その先から光の線が、六、七百メートル先に見える精霊たちを照らした。

それは一瞬だけ、そう“見えた”だけだった。


実際は、私の手の先から放たれた無数の魔法の矢が、

“ゆっくり”と数秒かけて精霊たちに届いて――

一つも外れることなく、突き刺さっていくと、

その精霊を使役していた者たちは、ばたばたと倒れていった。


――岩山の麓に降りて、平地になった草原を走っていく二人。

“私”が百を超える精霊を倒した頃、ロテュとレラが前線に着いたようだった。


まだ草原の奥には人がたくさんいるけど、規律のある行動はしていなかった。

よく見れば、崖に張ってある橋の上で人々が詰まっていて――

いまにも落ちそうに見えた。


「うん、あの軍団は“あっち”に行けなかった。落ちこぼれかな?」


ヴェルシーが、まるで確かめるようにつぶやく。


「ここで“本の中にしかいなかった生物”を見つけたから、焦ってるみたいだね。

隠れながら、ガン彗くんを囲んで捕まえようとしてたようだし――」


少し間をあけて、微笑む。


「……きっと、謎の生物と、謎の魔女がこの地を守ってるってことになるよ。

その話、どんどん“復活した人たち”が言いふらしてくれるね」


今ロテュとレラはユキノキ国の人には誰にも見られていなかった。

多くの人が、私たちを見上げているし、

残りは、逃げるために後ろを向いていたから。


だから、今や二人は――草原を走り抜ける殺人鬼となっていた。


あぁぁー、ぐはぁ、などの声が聞こえたとしても、

団員の人がたまたま近くにいた子供たちのせいだとは、すぐには思わない。

そして、新たな悲鳴が響いた。


……たとえ、それに気づいた人がいたとしても。

その人の頭には、魔法の矢が数本、突き刺さることになる。

――それは崖の上から、私が見ているから。


そして。

『カッコよく呪文を唱える その4』のポーズを、全部やりきった時には――


ヴェルシーが、ぽつりと言った。


「もう、疲れたよ」


降参の合図みたいに聞こえた。


「おつかれ」


私がそう言うと、いつの間にか――

ぴょこっと、ガン彗くんが現れていた。


「ありがとう。みぃーは、あの精霊たちがまとわりついて嫌だったの」


そう言って、ぺたぺたと歩いてきたガン彗くんは、

私とヴェルシーの手をぎゅっと握った。


三人で微笑みながら。

私は「あとどうすればいいのか」を――自分なりに、考えようとしていた。


あ、ロテュとレラがまだだった。

散り散りになった団員を倒すのは問題なかっただろうけど、

もうほとんどの団員たちは崖にかかる橋のそばにいるのだから、

諦めて帰ってきていると思っていた。


きっと団員たちは、私にも見えない“何か”に追われているに違いない。

もう、自ら谷へ飛び降りる者までいた。


団自らで掛けたて狭い吊り橋に、戦団の列が折り重なるように詰まっていた。


私は――戦って、最後までがんばれって思ったけど。

恐怖に心をつかまれてしまったら、立ち直るのは難しいってことも知っていた。

その恐怖の元が、二人しかいないロテュとレラだなんて……

ほんとに、大丈夫かな?


「瑠る璃、ちょっとあっちを見て」


ヴェルシーが私の首をやさしくひねる。

その方向には、土煙が流れていた。

そこをのぞき込むと――ユキノキ国の、新たな軍団の姿が見えた。


「こっちもだよ」


ヴェルシーはまた、私の首を反対側へ向ける。

そっちにも軍団が見えた。でも、こっちはガルツ国だった。


ガルツの旗ははっきり見える。兵の列も整っている。

でも、こちらは動いている速度が妙に遅い。

まるで、様子をうかがいながら進んでいるような……。

私は、さすがオジ様と思った。


「ガルツ国か……僕が相手すると面倒なことになるから、君にまかせるね」


ヴェルシーに押し付けられたけど、今、見た感じ――

あの軍団は、すぐに介入してくる様子じゃない気がした。


それより……こっちを、どうする?


「僕、疲れたからここで見てるよ。あそこまでは届かないし」


そうかもしれないけど、ロテュとレラがいるところなら、

さっきの魔法は届いてたよね?


そう言いながら、私はふたりの方を見た。


――ユキノキ国の軍団。

さっきまでいた数の、半分もいないかもしれない。


もう橋を越えたのか……

それとも……、橋の前に残っている人たちと、置いていかれた人たち……

合わせても、三十人ほどしか見えなかった。


……思えば、私も少し疲れていた。


だから、今は――

見守っているよ。あの二人を……

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