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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界
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102話:ガン彗くんを助けるって、たぶん言っちゃった……

いきなり、辺りが薄暗くなってきて、気温が下がってきた。


冷たい風と、生ぬるい風がまじりあって、私の体を通りすぎていった。

そのあとを追うように、空から水がぽつ、ぽつ、と落ちてきた。


つすぅ……つすぅ、つすぅ――

地面に当たった水は、すうっと吸い込まれていっていた。


「おい、早く逃げようぜ! あいつら、これを狙ってるんだ!」


私たちのところまで登ってきたロテュが、

手に持った角をぶんぶん振りながら、そう叫んだ。


逃げろ、逃げろとせっついてくるけど、

私は階段の下にいるユキノキ国の団の人たちを見ていた。


その人たちは空を指差してなにか話し合っているようだった。

ガン彗くんがいるのかと思って見上げたけど違う様だった。


そうしているうちにも、降水はどんどん増えていった。


階段の上からも水が流れてきて、

もうこの場所では、水の流れと一緒に麓まで流されてしまいそうだった。


「あっち!」


レラが、水流が弱そうな岩影を見つけて言った。

三人でそちらに向かう。地面から反射した水と、

空からの降水がぶつかり合い、水の壁が出来上がっていた。


もう、まわりは何も見えなくなっていたけど、

どうにか天井のある場所を見つけた。


猛水の中で、輪郭を失った風景と、ザァーッと続く轟音の中――

ロテュとレラは大声で何かを話し合っていた。

でもレラは喉を傷めたのか、喉をさすりながら、

水のカーテンをじっと見つめていた。


私はレラと一緒にその景色を見ていたロテュに近づいて、

その手に持っている角を「見せてほしい」と言いながら身振りで伝えた。

たぶん声は聞こえてなかったと思うけど、

意味は通じたみたいで、ロテュは角を差し出してくれた。


その時――私の頭の中で、声が聞こえた。

ガン彗くんの声だ!


「ねぇ、おねえちゃんたち。みぃが帰るのには、水が足りないみたいなんだ。

どうにかできないかな?それに……精霊が邪魔してくるよ……」


どこにガン彗くんがいるのかはわからない。

でも、困っていることだけは、すごく、よくわかった。


落ちてくるこの水がガン彗くんの涙に思えてきた。


「うん、そうなの?……わかったよ……ヴェルシーおねえちゃん」


ん? 私には聞こえないけど、ガン彗くんはヴェルシーとも話しているのかな?

この角のおかげ……だよね?


そう思って、少しだけロテュとレラから離れたところで、

私はそっと、角を振ってみた。


降雨の轟音に、一つの爆音が重なった。

辺りは一瞬、光の波が通り抜ける。


私の腕を、誰かが握って止めた。

すぐにわかった。――ヴェルシーだ。


その瞬間、知識がぱっと思い出された。

この角は、能力がある者が振れば、魔法のように稲妻を出せるらしい。


私、ロテュみたいに思いっきり振り回そうとしてたんだ。

止めてくれてよかったよ、ヴェルシー。


その爆音のせいで、ロテュとレラは抱き合いながらしゃがみ込んでいた。

そして、降っていた水も、どんどん弱くなってきていた。


「その角はロテュに返すんだ。彼なら大丈夫だから」


耳元でヴェルシーにそう言われて、私はすぐにロテュのところに行った。


「これは返すね、ありがとう」


そう言って角を渡すと、一呼吸おいて。


「降水も弱くなってきたし、ガン彗くんをいじめている、

精霊使いたちをやっつけよう。精霊は私にまかせてね」


あれ?

私、そんなこと思ってもいなかった気がするけど、

でも、どうすればいいのかは“知っていた”――

そうか、私は“フリ”をすればよかったんだね。


――まぁ、それはいいけど、さっきの迷彩してた人たちは、まだいるのかな?

私は、あたりを集中して探そうと思った。


……あっ、”思い出した”。呪文を唱えればいいんだ。


近くにいるロテュやレラにも聞こえるように、私は声を出してみた。

それに合わせて、ヴェルシーが魔法を使ってくれた。


どんな意味の詠唱だったのかはわからなかったけど――


その魔法は、この岩山を囲むように隠れていた、何百という人たちの姿を、

私たちに“見えるように”してくれたみたいだった。

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