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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界
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099話:もう疲れたよ……あとで考えるから待っていてね

いつもの空が戻ってくると、それだけで私の心は落ち着いた。


大地に目を向けると、そこには見たこともないほどの、

大きな水たまりが広がっていて――


私たちが乗っている岩だけでなく、他にも大小さまざまな岩や石、

何かわからない物体までもが、水の上を浮かんでいた。


そしてそれらは、みんな揃ったように、どこか同じ方向へとただよっていた。


ロテュとレラはすごく疲れていると思う。

ふたりとも無口なまま、この岩が進む方をじっと見ていた。


私も、どこに向かっているのかしらと思って、

濁った土の水が流れていく先を見てみた。


最初は、長い壁でも建っているのかと思った。

でも、ちゃんと見れば、それは――見える限りに広がった霧だった。


――その霧の中に潜る頃には、もう太陽は大きく欠けていて、

空は夕方色になっていた。


そして、それまでゆっくりと動いていた岩は、

だんだん速度を増していき、ひっくり返ってもおかしくないくらい、

ゆらーりと大きく揺れていた。


流れはどんどん合流して、水音も増えていく。

夕日の光が霧に溶けて、どこを見ても、

まるで私たちが太陽の中にいるような世界になっていた。


このまま、異様な場所へ連れていかれるのかもしれない――

そして、太陽がすべて欠けてしまうと、今度は暗闇に覆われていった。


霧を見通すのは、私でも大変だった。


実際に壁があるとき以上に、集中力を使った。


それに、初めて聞く濁流の音が、じわじわと不安をかき立ててくる。


きっとロテュも、レラも、私以上に不安かも。


今はふたりとも、抱き合って落ち着こうとしているけれど――

何かの拍子で、混乱してしまってもおかしくない状態だった。


――ガツーン、と岩と岩がぶつかり合う音。

そのすぐ後に、砕けるような音も聞こえる。


次は、私たちが乗っているこの岩が砕けるかもしれない――

そんな音が響くたびに、レラの小さな悲鳴が聞こえた。


……あ


濁流の進行方向、右側。光が、ちらちらと見え隠れする何かがあった。


集中する。もう今の私にできることはこれだけだから。


濁流の音が、私の中からすっと消えたその時――声が聞こえた。


ロテュでも、レラでもない。誰だろう?


――「助けて……助けてよ」


「……、……えっ」


助けてほしいのは、私たちの方なんだけど……


声のする方を向くと、霧の向こうに何かの影が映っていた。


そして、今度はもっとはっきりとした声が届いた。


「怖い大人がたくさんくるよ。だ、誰か……――お姉ちゃん助けて!」


”それ”と目が合った“瞬間”、私たちは霧の外――

別の世界に、いるような感覚に包まれていた。


……あれは……子ども?


あの知らない生物はなに?空に浮かんでいるし、体の所々が光を発していた。

その光は、最初は空の裂け目に見えた。

でも違う――それは、長く、うねるような“何か”だった。


ゆっくりと宙を這うように漂っていて、ところどころ、

体の部分が太陽のような色で光っていた。


尾の方が動くたびに、空気がきらめく。

それは飛んでいた。どうやって空にいるのかが、わからなかった。


あの生物は……喋るの? それに飛べるのは、魔法も使えるのかもしれない。

そう考えると、とても不思議だと思った。

私は一度、深く息を吸って落ち着こうとした。


ロテュもレラも、まだ抱き合ったまま、目を閉じていた。


ふたりを安心させようと思って近づいた、その時だった。

私たちが乗っていた岩――その岩も、周りの濁流も、

まるで一本の筋のように空へ引き上げられていた。


気づけば、いくつもの筋が空に伸びていて、

どれも謎の生物を取り囲むように渦を巻いていた。


その中のひとつを、私たちの岩が――流れていた。

それはまるで岩が、空の螺旋階段を一段ずつ滑っていくようだった


地面を見ると大きな岩山が一つ、謎の生物の眼下にあった。

そして、その起伏の多い地形を取り囲むように、

深い底の見えない崖が走っていた。


私たちが乗っている岩だけ、ゆっくりと岩山へ降りていった。

その一方で、濁流は逆に、空へと登っていった。


岩がたどり着いたのは、岩山の中でも少し開けた場所だった。

そこに着てまわりをみたけど、あの謎の生物の姿はもうなかった。


ここがどこなのか、わからない。もしかしたら、

私たちは知らない世界に来てしまったのかもしれないと思った。


ロテュとレラはかなり疲れていたみたいで、

倒れ込むようにして眠ってしまった。


私も、かなり疲れた。

でも、よく寝れば――いつもの通り、きっといい考えが浮かぶと思う。


だから……おやすみなさい。

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