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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界
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097話:レラの方が……だよね

私が起きた時には、ロテュと小隊長ナガノルは

ケンカしたあとだったみたいだった。


レラが私を何度か起こそうとしたらしいけど、気が付かなくてごめんね。


もうそのケンカはおさまっていたので、ほおっておいて、

小隊長ナガノルに、この後どうすればいいのかと聞いてみると、

そっけなかったけど簡略した地図を渡してくれた。


地図には、細かい地形や危険な場所らしき印がいくつかあった。


「俺は付いて行くだけだ」


と小隊長ナガノルはやっぱり不愛想に言ったけど、

獣種でかなり離れた場所から、警戒して守ってくれるようだった。


私はまだ”子供”だからか、それとも立場というものなのか、

小隊長ナガノルにとっては扱いにくい相手なのかもしれなかった。


ロテュとレラに地図を見せてから「ここに行くのはどうかな?」と提案すると、

「よしこっちに行こう!」と即決された。


ロテュが元気良く歩き、レラは大人しく付いて行く。

私は少し距離をあけて二人を見ていた。


今日はもう、ヴェルシーは帰ってきていないのかな?

少し待っても声はしなかったので、ポーチの中から宿題本を出して、

新しいことが書いてあるか確かめてみた。


そこには――

・勇者ロテュとレラ以外に接触しない事

・なるべく獣種と戦い経験を積ます事

と書いてあった……。


……あー……昨日の夜に見れば良かったと、ちょっと後悔した。


私は見なかった事にして本をしまってから、

飴玉を舐めながらこれから行く先を見つめてみた。


私には強く見つめた者に、視線を感じさせる事ができるようだけど、

"あの"獣種を呼び込んだら、勇者君の経験になるよね?

どんな獣種か知らないけど、なんとかいけるかな。


「あれ、何か変?」


突然獣種が消えたかと思ったら、普通なら何もない平坦な地面に、

微かな違和感が走っていた。


まるで透明な布が、ゆっくりと這うように動いているような。

あれが獣種かな? 最初はよく見る四つ足の獣種だと思ったけど……


それに私の視線を感じたのかな? 偶然かも? まだ私たちのところに来るには距離があるし。


一応注意した方がいいかな?


前を歩くロテュとレラに「ちゃんとまわりに気をつけてね」

と言ってみたけど、「はい」と言ってくれたのはレラだけだった。


小隊長ナガノルが、こちらに戻って来た。きっと彼も気づいたのかな?

すべて予想だけど、私が考えていた通りになっていた……

つまり、数分後には獣種との戦いが始まると思う。

それまでどうすればいいのか、考えよっと。


――結果的には、考えても意味はなかった。

私が考えてもいないことが、次々と起こるから。


ヴェルシーはすごいのね。きっとその場で状況に合わせて、

自分が思った方向へ進んでいく……


私にはそれができないようだった。


だって今回、私が勝手に名付けた獣種はるんは、

思ったよりも大きくて強くて、

しかもロテュとレラが翻弄されるほどには知性もあった。


小隊長ナガノルは手助けしてくれているけど、

ロテュとレラが邪魔そうで、思い通りに動けてないみたいだった。


荒野に落ちている絨毯みたいな、獣種はるんは、

地面に紛れるのがとても上手だった。


特に土煙が舞っている中では、彼らに見つけるのがほとんど無理。


それが二人の足元に潜ってきて、ぽーんと跳ね上げると、

背中にある尖った牙のついた口を大きく開いて、食べようとしていた。


二人の悲鳴があがった――


私は、二人が食べられる前に、近くにあったなるだけ、

大きな石を口に向かって投げてみた。


体に当たっただけで、獣種はるんは驚いたのか、

すぐに向きを変えて、離れていった。


あれだけ薄い体をしているのだから、

獣種はるんは切り裂いて倒せないのかと思ったけど――


ロテュの持っている剣は切れ味が悪そうで、ただの棒と変わらないだろうし、

小隊長ナガノルはあんなに離れた場所にいては、無理かな……

《はるん》がどこにいるかなんて、まったくわからないと思う。


ロテュとレラは立ち上がった後、

やたらと地面に向かって武器を振り回していた。


そこに《はるん》が、タイミングを見計らって再び現れ、

ふたりをまた跳ね上げた。


また悲鳴があがる――


「もう、《はるん》の方がいいじゃない!」


思わず口に出してしまったけど、しょうがないので、

また石を投げて追い払っておいた。


……一回助けないで見てみようかな?


また同じことを繰り返す彼らを見ながら、私はそう思った。


あっ、違う――さっきとは違って、

獣種はるんのジャンプするタイミングが変わっていた。


ロテュとレラを跳ね上げるのではなく、押し潰すように飛んでいた。


絨毯のようにひらひらしている、獣種はるんといえ、

かなりの重さがあると思う。


死ななかったとしても、骨がたくさん折れてそうだなぁと思った。


絨毯のような《はるん》がふたりに覆いかぶさったそのとき――


めずらしく大きなレラの声がした。


「創傷」


……これも、新神魔法なのかな?


次の瞬間、綺麗に《はるん》が切り裂かれていて、

もうまったく動かなくなっていた。


ふたりとも体液をたっぷりかぶっていて、

レラはしょぼしょぼと歩き出していたけど、

ロテュは《はるん》をまだ剣で叩いていた。


とどめでも刺してるのかな? そう思ったけど、満足するまで叩かせてあげた。

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