表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第六章:遷進世界
100/179

096話:戦士団ガルッサルオジさま達

とても小さな、植物種に囲まれた世界――それが、私の世界。

しかも、そのちっぽけな世界の半分は「なにもない」荒野で、

人が住めないどころか、植物種すら近寄らない。

適応しているのは、獣種だけだった。


夜空から届く月明かり――今夜は六つ。

だから明るいと思った。

地面を見下ろすと、何もない荒野がどこまでも広がっていた。


いちおう見まわった限りでは獣種はいない。


……でも、そんなこと気にしてないよね。


もうロテュとレラは寝てるし。


辺境荒野に入ってから、どこに向かっているのかも知らずに歩き詰めだった。

太陽がすべて欠けてからも、眠たくなるまで歩くなんて――

勇者くん、ほんと“どこか”おかしいよね。


……でも、こんな荒野で夜中に散歩してる、私もたぶんおかしいかも。


見る限りの平らな地面を、くるくるまわりながら歩くのって、

けっこう楽しいのは子供の時に覚えた楽しみだった。


そのとき――

視界の端で、何かが動いた。


あれは……?


地平線で、影が蠢いていた。

目をこらすと、獣種と……人がいた。


あれは、きっとガルツ国の人たち!

昼間に見かけた少数部隊じゃない。百人以上……いや、もっといるかも。


ガルツ国だったら、辺境の専門家。

だったら、話を聞いてみるのもいいかも。


それに、あれだけの軍団なら――

ガルッサルオジ様がいるかもしれない。


トンッ、トンッ――

地面を数秒に一度蹴るだけで、私は風のように荒野を走っていた。


ヴェルシーがかけてくれた強化魔法、まだ残ってたみたい。

一気に加速して、軍団へと近づいて行った。


見えた。やっぱりそれは本隊だった。


六つの月に照らされながら、獣種に乗った兵たちが進んでいく。

二百以上の騎乗兵が、列をなして動いていた。

その姿は、誇り高くも、恐ろしくも見える。


蹄の音、革の軋む音――

夜の静けさに、ただそれだけが低く響く。


私は、列の中央をめざして近づいた。


……で、警戒された。


当たり前だよね。

音もなく軍団に近づいたんだもの。

私は止まるタイミングを完全に失って、まっすぐ近づいてしまった。


一斉に向けられる光と視線。

私は手で目を覆いながら、知ってる顔を探す。


「貴様は誰だ!」


鋭い声が飛ぶ。


「はいっ、私は瑠る璃。トール国の第一王女です!

あなたとは初めてお会いになりますね。よろしくお願いします!」


そう言って、にこっと笑ってみせた。


月明かりに浮かぶ武器と、鋭い視線。

でも、私はぜんぜん平気。


ガルツ国の武人たちは、外見に反して優しいって、私はよく知ってるから。


……でも彼らは、私の落ち着きに、むしろ不気味さを感じてる様子だった。


その空気を、吹き飛ばしたのは――

夜空に響く、大きな笑い声。


どこか陽気で、懐かしい声。


兵たちの間に、ざわざわと安堵が広がる。


「おいおい、久しぶりだな、瑠る璃嬢ちゃんよ」


髭だらけの顔が月明かりに照らされて現れた。


大きくて熱い手が、迷いもなく私を抱きしめてくれた。


それが、ガルッサルオジさま。


血はつながっていないけど、私にとっては、本当の叔父のような人。


「はい、オジさま。お久しぶりです。

実は……聞きたいことがあって来ました」


私の唐突さに、さすがのオジ様もちょっと驚いてた。


どうやってここまで来たのか。魔法が使えるようになったのか――

いろいろ聞かれたけど、私も全部わかってるわけじゃない。


だから、こう答えた。


「勇者くんがこの荒野で、植物種に対抗できる“何か”を探してるんです。

私は、それを手伝ってます」


オジさまは考え込んだあと、ぽつりとつぶやいた。


「……どこで道という物は繋がるかわからないもんだな」


ん? 何か心当たりがあるのかしら……?


「瑠る璃嬢ちゃんには悪いが、まだ心配で信用できないんでな。

ひとり、付けさせてもらう。その代わり、

探しているかもしれん場所まで案内させる。どうだ?」


それで困ることはなかった。

いざとなれば、ヴェルシーがいるし。


私は素直にうなずいた。


紹介されたのは、ひとりの若者。


兵たちの列の間から歩み出たその人の顔――思い出した。

昼間、辺境の縁で会った人。ナガノルさん。


どうやら、小隊長だったらしい。


「よろしく」と手を差し出されたので、握手を交わした。


オジさまたちに帰る事を告げると、「気をつけてな」と言ってくれた。


もっと話したかったけど「またすぐ会えるよ」って言われたから――

私は笑顔で手を振った。


ナガノルは、いつの間にか獣種にまたがっていた。


長い首、深い呼吸。

野生の匂いが毛並みからただよう。


私は最初、また走って帰ろうかと思ってた。

でも、手を差し出されたから――そのまま、獣種の前に座った。


はじめて乗る獣種の背中は、意外と心地よかった。


ナガノルの気配を背中に感じながら、

私は前を見つめて、来た道を指さした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ