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彼女の∞と私の零と  作者: イニシ
第一章:少女二人
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まだ終わてなかったよ、喜ぶべき?

私の目覚めは、いつもゆっくりだ。いや、夢を見続けているだけなのかもしれない。

まぶたがわずかに動き、意識が現実へと引き戻される――はずだった。


「……おはよう」


ぼんやりとした声が、静かな部屋に溶ける。ゆっくりと周囲を見渡したが、何かがおかしい。


ここは……?


違和感の正体を探るように、記憶をたどる。


そうか、宮殿の私の内室だ。


昨日は――誕生日だった。

にぎやかで、大変だった、けれどどこか遠い時間のように感じる。

けれど今、部屋が妙に暗い?!カーテンが閉まっているのかと思ったが、

そうではない。慌てて時計を確かめる。


「……二十二時?」


心臓が跳ねた。誕生日の夜はとうに終わっているはずなのに――時間が進んでいない。

まるで、この夜が終わらないみたい……


その瞬間、ヴェルの顔が脳裏をよぎる。

彼が、私をここまで運んでくれたのだろうか? それとも――


――トントン。


突然、扉を叩く音がした。


誰……?


一瞬だけためらい、ゆっくりと扉を開ける。


「ミドリノトール・瑠る璃さま。シロイトール・凛々エルさまがお呼びです。……こちらへ」


伏し目がちに告げる女官の声は、どこか硬い。


凛々エルお姉様――帝国の王子に嫁いで、帝都へと移り住んだ、私の姉さま。

もう何年も会っていないなぁ、元気なのかしら?


それに、こんな時間に?なんの用なんだろう?


けれど、問い返すより先に、

女官は静かに身を引いて付いてくるようにと歩いて行く。

それに私も付いて行った。


一つ目の大扉が開く。無言の近衛兵が、重々しく門を押し開けた。


二つ目の大扉。女官たちが静かに控え、道を示す。


コォォォ……


滑るように開く、三つ目の大扉。


その先に待つ光は、まるで夜を切り裂くようだった。


私は、ただ黙って――その光の中へと踏み出した――。


天空に輝く太陽の化身――

そう称されるのが、シロイトール・凛々エルお姉さま。

情熱的で、誰に対しても真っ直ぐな眼差しを向ける人だ。


「久しぶりですね、瑠る璃さん。お変わりありませんか?」


「はいっ、元気です」


懐かしい声に、少し胸が熱くなる。

何年ぶりの再会だろう――こんな形で会うなんて、思ってもいなかった。


暖色を基調とした部屋の中、

柔らかいファーの椅子に座ると、凛々エルお姉さまが膝の上に手を置いた。


「社交界に慣れておきなさい。あなたも来年の若冠の儀を迎えれば、婚約も可能になるのですから」


つまり、お姉様みたいに王子と結婚しろってこと……?


「明日、女神リレアス堂で『復活』を手伝いなさい。手配はしておくわ」


……やっぱり、私が来ることを知ってたんだ。


「あなたも、そろそろ社交の場に出る準備をしなさいね」


「はい……」


私はとりあえず返事をするが、気が重い。話もちゃんと聞いていなかったかも。


ふと横を見ると、黒い猫が座っていた。

長い毛並みに、鋭い目――どことなくお姉さまに似ている。

手を伸ばそうとすると、猫がはっきりと言った。


「さわらないでください」


――しゃべった!?お昼にあった黒猫さんなのかな?


凛々エルお姉様が微笑む。


「この子は使い魔ですよ。帝都の黒猫はすべて使い魔なのですから、

無理にさわってはいけませんよ」


黒猫――ターターが控えめに告げる。


「凛々エルさま、お時間です」


どうやら凛々エルお姉さまも忙しいみたいで、二、三事言うと、


「じゃあ、またね」


そう言って、お姉様は去っていった。

私は、少し名残惜しく扉を見つめながら、静かに部屋を後にした。

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