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8−17 告白

「さて、腹を割って話をする前に、顔と名を晒してもらおうか。」

王からすれば尤もな発言なのだが、

よりにもよって最高権力者に全てを曝け出す決心などキャサリンには出来ていなかった。

ここで全てを告白して良いのか、今からでも逃げるべきなのか…

先ほどの危機では一度は全てを捨てて逃げる覚悟をした…

つもりだったが、やはり全てを捨てられなかった。

この王都で築いたささやかな人間関係が足を引っ張ったのだ。

まだシェリルやアイリーン、ついでにグレアムやエディと、 

2度と会えない様な事態を避けたいと思ってしまったんだ。

だから、今も逃げる覚悟が出来ないんだが、

では全てを教えてしまって良いのかと言うと…

決心が付かなかった。

ショールに指を付けて中々動けないキャサリンに、

エドガーは優しく言った。

「決して悪い様にはしないから、君の警戒を解いてくれないか?」

そんな事言ったって、悪い様じゃないのはそっち側だけじゃないか…

でも、逃げる決心がつかないんだったら

この話を進めるしか無い。

ショールを顔から外して、名を名乗る。

「クラーク・プリムローズの3女、キャサリンにございます…」

語尾が震えてしまった。

そりゃそうだ、

決心が付かないまま男に押し倒されそうになっている様なものだから。

一番大事に隠してきたものを曝け出すのだ。

ぽろぽろと零れ落ちる涙を、エドガーは優しく拭ってくれる。

王も1女を嫁がせている。

少女の扱いは多少は分かっている。

「そんな顔をするな。

 本当に悪い様にはしないから。

 ただ、教会から守るからには、その正体を教えてもらう必要があるのだ。

 そなたの能力を教えてくれ。」

こくん、と頭を下げて同意を示した後、キャサリンは話始めた。

「能力は、一つはエディ…エドガー殿下もご存知の通り、

 約2マイル内の場所の情報を屋内外に関わらず確認出来る能力です。」

エドガーが質問した。

「2マイル、より遠くが見えている様だけど?」

「同じ能力に見えて少し違う能力として、

 直視出来る場所の情報を確認出来るの。

 この2つの能力が異なる能力である証拠に、

 直視出来る場所に魔法を送る事が出来て、

 その場所から約2マイルに魔法を展開出来るの。」

そこで王が一声かけた。

「その能力に距離は関係ないのか?」

「直視出来ればどんな遠い場所でも情報を得られます。

 ただし空や水は対象になりません。

 あくまで遠くの地面や木々の直近の場所が対象です。」

エドガーが纏めた。

「つまり、家から直視出来る物があれば、

 そこから2マイル内に魔法を展開でき、その場所の情報を得られるんだね?」

「そうなるね。」

「例えば王宮の一番高い場所が家から見えれば、王宮内を見られる訳だね?」

「第2王子が何をしてくるか分からなかったから、

 逃げ場を探しただけで、王宮の中を覗き見する気はなかったの!」

「まあ、あまり見ない方が良い場所もあるから、

 必要がなければ見ないで欲しいね。」

「分かってるよ…」

「それで他には?

 まだ言ってない能力があるよね?

 ゴードン領内のフィンストン家の破壊分子の発言を話してたのだから。」

あ、不味かった。余計な事を言ってしまっていた。

「…一つは、今の2つの能力は視界だけじゃなくて音声とか匂いも確認出来る事。」

「それで人の話も分かると。その他にもあるよね?」

いーじーがーわーるーいー…さすが腹黒エディ。

「…把握した空間に、自分だけ移動する事が出来る。

 物を持っては移動出来ない。

 着ている服とか背負っている鞄は自分の一部とみなされるのか、

 一緒に移動出来る。」

王もエディもこの答えを予想してはいたのだが、

実際に聞くととんでもない事だった。

少しの沈黙の後、エドガーが促した。

「その能力も含めて、

 君が関与した事件の事を教えてくれないか?」

「まず、平民街西街の人身売買に関しては、

 エドガー殿下もご存知の通り。

 噂話を聞いて調べたら組織が出てきた。

 次にラムゼイ領に扇子を買いに行った時、

 街道が封鎖されているけど、見てみたら何も崩れていなかったので、

 調べたら人身売買の話が出てきて、

 売られていく女の子を見て、

 頭にきてフレイザー男爵の書斎の机から売買契約書を持ち出して

 ハイファックス子爵の書斎に放りだした事。」

「危険な事は止めて欲しいね。」

「だって、売られていく女の子達、泣いてたんだよ!

 その子達を助けるのは私一人では無理だけど、

 次が無い様にしたかったの!」

「うん。それは良かった。それで次は?」

「ハミルトン公の反乱についてはご存知の通り。

 ただ、直視で距離が伸ばせるのは秘密だったから、

 夜もハミルトン公の屋敷を調査してたのは言えなかっただけ。」

ここで王が一言挟んだ。

「ハミルトン公は反逆の理由を話していたか?」

「…すみません、お気に召さない事と思いますが、

 ”あの男の子孫”を王にしておくのが許せないと言っていました。」

王は目を閉じてしばらく黙っていた。

「ありがとう。彼の心が知れて悩みが減った。」

そりゃそうだ。自分が悪いのではなく親が気にいらなかっただけなんだから。

エドガーが促した。

「それで、次があるよね?」

優しそうな顔してる割にきっちり話させるよね、こいつ。

「えーと、ハミルトン公の王都内反乱が鎮圧されて3日間外出禁止だったんで、

 やる事が無かったからゴードン領までグレアムがちゃんとやってるか

 見に行った。」

「外出禁止の意味分かってる?」

「王都内をうろちょろしててはいけない、

 それは守ってるじゃない。」

「そういう事じゃないんだけど…まあいいや。

 それで、どうだった?」

「グレアムが大人達の中で小さくなってたんで、

 これ場合によっては何かバックアップしてあげないと駄目かな、

 と思ったの。」

「それで?」

「当然、血判状に名前があったフィンストン男爵が

 後ろから破壊工作するだろうから調べたら、

 第2王子殿下から男爵への手紙の指示などがあって、

 ゴードン家の分家とグレンヴィル子爵が通じてるらしい情報もあったし、

 何度かゴードン領近辺に移動して調べていたら、

 どうやらグレアム暗殺の動きがあったんで、

 色々やって暗殺者の行方をゴードン家の護衛達に分かる様にした。」

「…後でしっかり話を聞かせてもらうよ。」

「…お手柔らかに…」

「移動能力を使ったのはそれだけ?」

「その後はその都度話した事以外は大した情報は無いから、言う事はないんだけど?」

「じゃあ、2年前の事だね?」

「…ごめん、何の話か分からない。」

「君は2年前に助けられたのがグレアムじゃない事を知ってるよね?」

「…何でそんな嘘を広めたの?」

「勿論、偽物をあぶり出す為だね。

 そして本物も出てくるか期待していたんだよ。」

「出て来た?」

「顔を覚えてたから、

 出てこない人で一番それらしい人を詳しく調べたって訳だよ。

 僕の顔を見て、申し出てくれないかな、と期待したんだけど。」

「顔なんて見てないでしょ。

 痛そうな顔見てたらこっちも痛い気がするもの。」

「まあ、そういう訳で、移動能力の有無を調べていたんだよ。

 プリムローズ領とゴードン領はかなり離れているからね。」

「それで中々助けてくれなかったんだ?」

「最後は助けるつもりで動いていたじゃないか。」

「そうだっけ?」

王は二人の会話を黙って聞いていたが

エドガーは今ひとつ女性の扱いがなってない事だけは理解した。

「あっ、ごめん、思いつきで証拠がある訳じゃないんだけど、

 あんたが王子でゴードン領にフィンストン男爵の裏組織が

 根を這っていたって事は、

 あんたの滑落事故は事故じゃない可能性が高いんじゃない?」

「勿論、事故に見せかけた暗殺だよ。

 だから彼らは目撃者の君を真っ先に処分しようとしてたじゃないか。」

「そういう事か…

 ゴードン領の騎士はみんな気が荒いからすぐ無礼討ちするのかと思ってたよ。」

「うん、グレアムは多少乱暴なところがあるけど、

 ゴードン侯は思慮深い人だから、誤解しない様にね。」

「そうだね。グレアムのお父さんは深みを感じるよね。

 でも、ごめんね。それを分かっていたらもっとゴードン領と

 フィンストン領を調べたのに。」

「それは反乱鎮圧後にゴードン侯がしっかり調べていたよ。」

「でも、処分しなかったと言う事は、具体的な証拠は無かったんだね。」

王と第3王子の前でフレドリックを、という言葉を出すのは憚られた。

「2年も前の事だからね。」

「…その、ご愁傷さまです。」

兄に命を狙われるのが、だ。

「まあ、2年前に気付いていたから、もう慣れたよ。」

キャサリンとしては本件のフレドリックの動機には触れるのが怖くて聞かなかった。

エドガーはそれなりに推測出来ていた。

王はもう本音を決して言わない次男の心理を大体把握していた。

つまり、父親の関心を横取りする兄弟を一人でも減らしたかったのだ。

さすがに王太子を害する訳にはいかないから、

弟を減らしにかかったんだ。

キャサリンを狙ったのも、弟が功績を上げる為の協力者を減らしたかったのだ。


 残りはオチ1、オチ2(短)、エンディングの3回になる予定です。

最終回は綺麗にまとめたいので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想通りの展開にやっぱりなって萎えたな.... ひたすらストレス貯めて、最後もこの展開か、タイトル通りそのまま逃げればまだ評価も違ったけど。 主人公も口だけか。 公爵の発言は間違ってなかっ…
[良い点] ランキングからきました。 話の展開も良く主人公のキャラが良くずっと面白かった。 [気になる点] この話だけネタバラシというか観念してぶっちゃけてるのがらしくないというか何というか話の都合感…
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