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8−16 主役登場

「ハハハハ!

 遂に正体を現したか!」

狂ったように笑うフレドリックに周囲はひいていたが、

フレドリックは教会から派遣された男に尋ねた。 

「どうだ、何も無いところから移動する技、

 闇魔法なのではないか?」

「はい、闇渡りの魔法と思われ、闇魔の一種でしょう。」

男は大司教からキャサリンを闇魔法師と断ずる為に遣わされていた。

それらしい闇魔法を当てはめるしかなかった。

彼がキャサリンが消えた時に感じた魔法属性は光魔法だったが。

「戯言はその辺にして頂きましょうか。兄上。」

入ってきたエディはフレドリックを『兄上』と呼んだ。

「お前に兄と呼ぶ許可を与えた記憶はないぞ!

 エドガー!」

エディこと、第3王子エドガーは怯まずに応えた。

「もう王子でない貴方に対して兄以外に呼び方を知らないんですがね。

 ではストラス伯爵、こんな騒ぎを起こしてどう収めるつもりなんです?」

この程度に煽る事はエドガーにも出来た。

「ハハハハ!

 お前の女が闇魔法師と断じられたのに余裕じゃないか!」

ああ、やっぱりグレアムとキャサリンを組で招待したのは嫌がらせだったんですね。

本当に良い性格だよ。この人は。

とエドガーは心の中で呆れたが、

まずキャサリンの事をどうにかしないといけない事は理解した。

ここまで切り札を隠し通してきた彼女がそんなに簡単に札を切る訳がないじゃないか。

騎士を見ると、心得てすぐエドガーを案内してくれた。

「こちらです。」

案内された場所には、ナイフを抜いて肩を押さえた騎士がおり、

その近くの床には血液が散乱していた。

そしてその散乱の仕方には不規則性があった。

だから、エドガーはその空間に話しかけた。

「この魔法を解除してくれないか?」

すると空間から透明な膜一枚が剥がれる様に、透明度が増した様に見えた。

そこにはショールで顔を隠した女が立って…いなかった。

思わずエドガーは視線を下に向けると、

そこにはショールを頭に巻いた女がしゃがんでいた。

手を差し伸べてその女、キャサリンを立たせたエドガーは尋ねた。

「これはどんな魔法だったの?」

「自分の周囲18面の平面に、反対側の平面に映る光学情報を貼り付けただけ。」

フレドリックは口の減らない男だったから、今度はこう断罪した。

「それは幻影魔法だろう!

 闇魔法ではないか!」

キャサリンはもう堪忍袋の緒が切れた。

王子を怒らせない様にしていたが、

もう第2王子ではなくただの伯爵なのだから。

「馬鹿じゃないの!

 光学情報を貼り付けるくらい普通の光魔法でしょ!

 ろくに魔法も知らないくせに分かった様な事を言わないでよ!」

「なにぃ!」

ただ感情的に喚き散らすフレドリックに知性派の影は欠片も無かった。

エドガーは呆れたが、もう一つ呆れた事があったから、そちらを口に出した。

「君は光魔法を一から学んだ方が良いみたいだね。」

キャサリンの事である。

光学情報を貼り付ける…上位魔法かどうかは兎も角、

普通の光魔法等と言える様な簡単な魔法では無かった。

その時、この場を収める為に、主役がやって来た。

「陛下のお越しである、皆の者控えよ!」

侍従が大きな声で告げた。

「控えて!」

エドガーはキャサリンに指示した。

キャサリンも第2王子ぐらいなら兎も角、王と喧嘩をする神経は無かったから。

普通に頭を下げた。

王はフレドリックに近づいて言った。

「フレドリック、この騒ぎについて、

 どう釈明するつもりか?」

「私は不審者を捕らえようとしただけです。

 その者が逃げ回るから大事になっただけで。」

「教会関係者を勝手に王宮に入れることは禁じられていると知っているだろう。

 その点、どう釈明するつもりか。」

「私が入れた訳ではありません。

 近くにいた者に協力を命じただけです。」

「そうか。

 私はお前の命令で手続きをしたと聞いているが?」

「そんな命令をした覚えはありません。」

「残念ながら証言があるのでな。入れ。」

王の命により入室したのはクライブ・ラウンド、フレドリックの側近の一人だ。

「話せ。」

「はい。

 私はフレドリック殿下の命により、

 王宮の入門管理官に協会関係者10名の入門許可を申請しました。

 王子の命であるから許可する様にと圧力をかけました。」

エドガーはクライブが第2王子の名前で教会関係者の入門を強制した後に

この男に脅しをかけた。

こうしてクライブは一番安いタイミングで自分を売る事になった。

エドガーに告白しなければ泥船代わりに沈まねばならない。

「出鱈目だ!私はそんな命令を出していない。」

「フレドリック。

 この男に教会関係者を呼ぶ理由が無いぞ。

 エドガーの手の者を害しようとするお前になら理由があるがな。」

フレドリックは唇を噛み締め、言った。

「私にその様な意図はありません!

 実の子より他人の言葉を信じるのですか!」

「実の子でもこうも度々王政の障害となる事件ばかり起こされてはな。

 信用など無くなるのも当然だろう。」

「その様な事はしておりません!」

王はキャサリンの方を見た。

ショールを巻いているからただの不審者なのだが。

「そなたなら色々知っているだろう?」

と仰ったら口を開かない訳にはいかないキャサリンだった。

「発言をお許し頂けますか?」

「述べよ。」

「はい。

 フレドリック殿下はファントムなる偽名で手紙を書くことがおありです。

 ハミルトン公の反乱仲間が逮捕された時、

 捜査で人手を割かれている今こそ決起の時、

 と反乱を促す手紙を出した者がファントムですが、

 このファントムとフレドリック殿下が同一人物である証拠はありません。

 また、これに続くゴードン家に対するグレンヴィル士爵達の反乱に対して、

 フィンストン男爵に対して後方撹乱をする様に指示をしたのは

 フレドリック殿下です。

 さらにゴードン家領内のフィンストン男爵の手の者も、

 フィンストン男爵のバックはやんごとない方と発言しております。

 よって、殿下は常習的にフィンストン男爵を破壊工作に用いていたと思われます。

 また、ストラス伯爵家の本棚の裏の隠し本棚に、

 ファントム卿がリグラス国の商人から

 高額の虫を購入した領収書が残っております。

 その様な廃棄すべき物が残っているのは、

 再度の購入を企図している証拠と思われます。

 ただし、これが件の上水道の魔獣の事である証拠はありません。」

王もフレドリックもエドガーも思わず顔が強張った。

フレドリック以外には初めて聞く話ばかりだ。

王は何とか声を絞り出した。

「…充分だ。」

思わずエドガーはキャサリンに小声で愚痴た。

(そういう事は早く教えて欲しかったね)

しかしキャサリンは冷たかった。

(あんたはいつもタイミングが悪いから)

え、いつも助けているじゃないか、とエドガーは本気で思っていた。

今日のこれだけでも愛想を尽かされても文句が言えないだろうに。

フレドリックは激昂した。

「ただの讒言です!

 実の子の言葉よりそんな下賤の者の話を信用するのですか!」

「お前はいつも王政の役に立とうとしないが、

 その者はエドガーを通じて有用な情報を度々提供しているぞ?

 実績がその人の信用を作るのだ。」

フレドリックは唇を噛むしか無かった。

王は続いて教会の男に声をかけた。

「カルヴィン・エリントン司教、その女が闇魔法師であると主張するか?」

このくらいの事は調べがついていた。何せ王家の隠密が調べている。

「その恐れはあり、調査する必要があります。」

「王宮に入りこんだ事は王家の一員が噛んでいる。

 妙な事を口にしなければ今回に限っては不問に付すが?」

「私は大司教に闇魔法師の件は報告しなければなりません。」 

「その大司教について、ケイネス士爵家に殉教者を送り込んだ件と今回の件で、

 大司教の職を全う出来ない程錯乱していると教皇に抗議する予定だが、

 それでも泥船に乗り続けるつもりか?」

この一言は効いた。

少なくともここで引けばカルヴィンの事は抗議しないと王は言っているのだ。

「王の抗議、確かにお聞きしました。

 我々は至急、大聖堂に王の抗議を伝えたく思います。

 この場を辞してもよろしいでしょうか?」

「ああ、君の手の者は全て連れて行ってくれ。」

「御意に。」

こうして教会の手の者は退場した。

王はフレドリックに伝える言葉があった。

「お前は何か勘違いしている様だが、

 陰謀等というものは、数をこなせば良い訳では無い。

 一度の陰謀でケリをつけ、すぐ世間には忘れてもらうべきなのだ。

 そういう意味でもお前を王家から除いたのだ。」

フレドリックは父を睨み続けた。

この男はいい年をして、未だ親に甘えていたのだ。

今、王は主人として臣下に接しているのに、

フレドリックは子として自分を認めてくれない親と接していた。

王は踵を返してフレドリックの元を去った。

「エドガー、その者を連れて参れ。」

「御意に。」

エドガーはキャサリンを立たせた後もずっと手を握ったままだったから、

キャサリンはドナドナされて行くしかなかった。

 明日の説明回を書いてますが、今一決まらない。

明日までに改稿しますが、

その後のオチ回は2回になりそうです。

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