8−15 塞がれた逃げ道
エディの手勢も遊んでいる訳では無かった。
第2王子の宮から人手が出た後、
第3王子の宮から出た兵力で第2王子の宮を閉鎖し、残っている人間を捕らえた。
既に現在進行形で王宮敷地内に私兵と教会勢力を展開させている。
フレドリックは軽からぬ処罰を受ける事になる。
そして、第2王子と教会の勢力を遠巻きに追跡し、包囲を続けていた。
そういう遠巻きの仕事はしているが、
キャサリンの事は監視が追いにくい状況になった為、
魔法院の魔法師による光魔法の追跡しか行っていなかった。
周囲から見ればキャサリンを助けるつもりには見えなかった。
グレアムの集団は魔法院の光魔法師からの情報を受けて、
第2応接の間の方向からキャサリンに近づこうとはしていたが、
第2王子の手勢との接触を避けながらだったから、
中々キャサリンに近づかなかった。
一方、第2王子フレドリックである。
勝ちを確信した状況から魔法一つで逃げられている。
知性派のプライドを激しく傷つけられたし、
自分のすぐ横を通り過ぎられて何も出来なかった事で頭に血が登った。
「どこに逃げた!?」
中に入って調べた部下はキャサリンを発見出来なかった。
「内部にはいない様です。」
「よく探せ!」
そこで教会の魔法師が魔法反応を伝えた。
「ここの内部から地下の隠し通路があるのではないですか?
相手は地下を逃げている様です。」
なるほど、この小教会にも貴人の逃走用の地下通路がある。
しかし、これほど王宮内部の秘密通路を知られている事に
フレドリックはショックを受けていた。
こそ泥みたいに調べやがって!
それはこの男がいらぬちょっかいを出しているからなのだが。
「出口は2箇所ある!
二手に分かれて待ち構えろ!」
大分振り回されたこの集団は、そろそろ頭が回らなくなっていた。
逃げられた場合のバックアップを考えたり、
これだけ騒いだ事による近衛騎士団による逮捕から逃げる為の退路の確保など
やるべき事を考えられなくなっていた。
視野狭窄に陥っていたのだ。
1階の人の流れを見たキャサリンは、
兎も角も出口を塞がれない様に全速力で走った。
だから何とか封鎖前に外に出られた。
とは言え、集団が近づいているのは分かったので、
とりあえず集団から見晴らしの良くない通路に移動した。
今ならグレアムと合流する事も可能な筈だったが、
急いでいたので見落としてしまっていた。
要するにキャサリンも疲れで気が回らなくなっていた。
追跡側こそ精神的に疲れていた。
子供と言ってもいい女一人に50人が追いかけているのである。
何でこんな事をしないといけないのか、と嫌気がさしていた。
やる気があるのは上層部だけになってきた。
注意力を無くした集団の後をエディの手勢が気配を消して追跡をしていた。
キャサリン包囲網全体が集まってきていたので、
それを包囲する側も大分集まってきていた。
キャサリンは逃げ道を何とか探し続けていたが、
廊下の2方向が建物の端になっていた為、行き止まりだった。
そうなるといま来た道には追跡者がいる為、
進行方向が一つになってしまった。
そちらには大きめの会議室があり、2つの出入り口と奥にはやはり秘密の通路が存在した。
何とか秘密の通路に入ろうと会議室に入ったが、
それは罠だった。
第2王子フレドリックはキャサリンの進行方向を読み、
キャサリンが入室するや配下の騎士・工作員を全力疾走させて出入り口も
秘密の通路も人手で塞いだ格好になった。
そこに息を切らせたフレドリックがやって来た。
「手間を取らせやがって…」
2つの出入り口と秘密の通路の入口をそれぞれ10人ずつで塞ぎ、
半地下状の会議机のスペースに降りたキャサリンをフレドリックは見下ろした。
「さて、どうする?
捕まって闇魔法師として処分されるか、
それともまだ足掻いてみせるか?」
実はキャサリンには周囲が見えていたから、
フレドリックは有利な立場とは言えない事は分かっていた。
キャサリンを確実に捕らえる為とは言え、
この部屋に50人を集中させたのは不味かった。
この騒動を起こした集団をゆっくりと包囲している者達がいたんだ。
エディめ、本当に私を餌として泳がせて第2王子を捕縛しようとしていやがる。
これで毎回助けているとか言うのだから面の皮が厚すぎる。
「どうした?
泣き言ぐらいは聞いてやるぞ?」
…こうも気配が読めないものか。
と言うか、この男の狙いは何か。
私を追い詰めて何がしたいのか。
そして、エディの手配したと思われる手勢はどんな命令を受けているのか。
一網打尽で私も犯罪者として捕らえるつもりなのか。
…そうしたら親に見捨てられるだろう私を好きに使えるとでも
エディは思っているのか。
…逃げないと。
この部屋を遠巻きに包囲する者達の中に、
一際立派な服を着たエディが加わった。
さすがに会議室の空間に50人を入れるフレドリックの正気を疑ったが、
キャサリンの危機である事は理解していたから、
包囲を狭めて降伏を勧告する様に指示した。
会議室の2つの入口に騎士達が近づき、宣言した。
「王宮内部で不穏な活動を行ったお前達を反逆罪で拘束する!
武器を捨てて降伏すれば罪一等を減ずるが、
抵抗する者は斬る!」
だから入口を塞いでいた者達は会議室内に報告した。
「殿下!
騎士団が反逆罪で拘束すると言っております!」
フレドリックはまだ私を睨んだままだった。
「構わん。
この女だけは破滅させてやる。」
私に何の恨みがあるって言うんだよ。
恨み手帳とか付けてるタイプか?
フレドリックは両側に控える騎士達に命じた。
「捕らえよ!」
騎士4人が踏み出し、後から4人がバックアップに続いた。
フレドリックの護衛はまだ6人いた。
残りは秘密通路の封鎖に立っていた。
王子に手を出すつもりはないんだが…
騎士から逃げるには小回りを利かすしか無い。
こんな風に内部から降伏の声が聞こえない事から
フレドリックによるキャサリンの捕縛は終わっていないと判断したエディは、
「突入!」
と一声命じた。
2箇所の出入り口の1箇所は忠誠心を示した男達の為に排除に時間がかかったが、
もう一方は教会関係者が塞いでいたので、
王国と教会の本格的な抗争になる事を恐れて抵抗しなかった。
そうしてフレドリックの護衛とキャサリン捕縛のバックアップ役の騎士達は
フレドリックを守るため密集した。
だからキャサリンは4人の騎士を相手に逃げれば良かったのだが、
ここは会議室で、
キャサリンが立っている半地下の床には机が置いてあったので、
逃げられる空間が殆ど無かった。
またエディの動きが遅い!
本当に役に立たない!
キャサリンは心のなかで毒づいたが、
向かってくる騎士から逃げる方が優先順位が高かった。
向かってくる二人から逃れる為に、
机に手をついて机を飛び越えたが、
二人の騎士達も同様に机を飛び越えた。
机の間に沿ってキャサリンは逃げたが、遠回りして騎士が両側から迫ろうとしていた。
2つ机を飛び越えると今度は秘密通路の入口を塞いでいた騎士達が向かって来ていた。
その時エディの手勢の騎士が入室し、
「全員動くな!」
と警告したが第2王子の騎士達はキャサリン捕縛を継続した。
エディの馬鹿!
今度こそ遅いじゃないか!
第2王子などに捕まって人質にされるなど真っ平だし、
あんな連中に殺されるのも嫌だった。
ここで激昂した第2王子がいきなり私を斬る様に騎士に指示しないとは限らない。
だからキャサリンは魔法を使う覚悟を決めた。
室内に入った騎士達は女を捕らえようとする騎士達を見るや、
間に合わないと判断して騎士たちにナイフを投げた…
が、既に第2王子の騎士の一人がキャサリンの肩を掴もうとしていた。
その騎士の肩にナイフが突き刺さった時、
皆の見ている前でキャサリンの姿が消え去った。
明日である程度まとまりそうです。
あと、昨日の分を微修正する予定です。