8−14 狭まる逃げ道
これだけの騒ぎを起こした第2王子には何らかの罰がある筈だが、
私も罰せられては堪らない。こっちは伯爵令嬢に過ぎない。
王子より重い罰になるだろう。
だけど捕まって教会に闇魔法師に仕立て上げられる訳にはいかない。
王宮内を隠れ場所を探しながら進むしかない。
50人に追われてはいくら屋外とは言え捕まりかねない。
隠れ場所のある屋内の方が良い。
問題は、能力を使うとバレちゃう事なんだけど…
あまり広範囲を見すぎない様にしよう。
地下通路から第2王子の宮と第2応接の間の中間辺りで外に出た
キャサリンだが、この辺りに出ることは想定していなかったので
ひとまず周囲の建物の中を見る。
王宮だけに勝手に部屋には入れないし、多くの部屋は施錠してある。
廊下を如何に逃げるかの勝負になる。
やはり外を逃げた方が良いか…
迷っている暇は無い。
室内で隠れながら逃げると決めたんだ。
この周囲を見ながら進むべきだろう。
しかし、この辺は騎士の巡回とか無いのかね。
あんなに外をうろちょろしている連中がいるのに制止しないとは。
とりあえず奥に入りつつ、第2応接の間に近づく方向で進もう。
一方、教会の能力者と合流した第2王子は、
キャサリンが王宮の施設内に入りこんだ事を知った。
能力者の魔法検知を参考に、
部下と教会の手勢に伝令を出して包囲させる事にした。
キャサリンの進行方向は第2応接の間であるのは考えるまでもない。
だからそちら方向に先回りして待ち伏せさせれば良い。
とは言え、キャサリンも大雑把に人の流れを見て、
包囲網は第2応接の間方向に展開しているのには気付いている。
王宮をあまり走り回っては、
例え第2王子と教会に捕まらなくても王家から処罰される。
困惑しながら小走りで進んでいたが、
どうやら第2応接の間側を塞がれたらしい。
こうなったら建物を完全に突っ切って向こう側の騎士に泣きつくか…
少なくともこの辺りにいる騎士は見分けが付かないから頼れない。
進行方向を見ると、コの字型に建物がなっていて、
中に小さい建物が建つ場所があった。
つい外に出たいと思ってそちらに出て周囲を覗こうとしたが、
読まれていた様だ。
よりにもよって小さい建物は教会だった。
その境界の裏手で次々と現れる追手に急かされ、
教会入口に走らされると、
入口の前に見慣れた…と言ってもこちらが盗み見ているだけで
実際に会ったのは一回だけの第2王子が人を見下した顔で笑っていた。
「手間をかけさせやがって。」
王子にしては言葉使いが下品だ。
「この人数から逃げられると思うなよ。」
周囲の人数と隙間を見る。
教会の中の空間の構成を見る。
教会の周囲と壁の距離を見る。
外部を通って逃げるのは余程のスピードで走れないと無理だ。
「まあ、今後の自分の行く末は神のみぞ知るといったところか?」
すごいな、こいつ。
私があんたのセリフ聞いてないのに気付いてないで気持ちよく話してるよ。
行く末?
そんなもんは自分で何とかするもんだよ。
そして、ここなら空が見えてるんだ。
「殿下!」
教会の能力者らしき奴が警告の言葉を吐くが、
もう遅い。
上空で集めた光を全周に反射する。
そして第2王子の左側をすり抜ける…
「捕まえろ!」
警告があったから目端の効くやつは目を閉じていたらしい。
王子の左側を通り過ぎようとする私を捕らえようと人がそちらに集まる。
ここを抜けるのは無理なんだが…
王子の右を風が吹き抜けた。
私が通り過ぎたんだ。
そう、左側に見せたのは単なる映像だ。
左側に集まったのは発光があった時に目を瞑っていた連中で、
そちらに行かなかった連中は目がまだ見えていない。
だからそこをすり抜けて、教会の扉を開けて中に入り、
中に進んでいく。
「追いかけろ!」
目が生きている連中は10人くらいだ。
そして、ここの教会の演台の裏にも地下通路がある。
今ひとつこの通路をどう使うつもりで作ったのかが分からないが、
とりあえず使えるものは使わせてもらおう。
本当ならもの凄くジャンプして逃げたいんだが、
ここでそれをやると一発でバレる可能性が高い。
多分、第2王子はこの通路を知っている筈だ。
仕方なく、せめてもの妨害に隠し通路の途中の扉を締めてやる。
この扉の使い道は分かる。
逃げる貴人の後を追いにくい様に扉を締めて、
光を遮断するんだ。
つまり、ここは真っ暗だから、私や発光魔法が使える奴以外は
松明なりランプなりを持っていないと進めないんだ。
さて、近い出口と遠い出口、どっちを使う?
もちろん、近い出口はすぐ追いつかれるから遠い出口を使う。
はあはあ…
もう疲れたよ。
ラグビーのサイドアタックってどきどきしますよね。
でもあれは捕まってモールを作るのが目的らしい。