8−12 猫を追う鼠の群れ
周囲の光量を調節する。
私の行動を遠くから見づらくする為だ。
グレアムは囲まれるに任せるつもりの様だが…
それは危機感が無さすぎると思う。
くるっと回転して包囲網の中でもっとも間隔が空いている方へ走る。
「おいっ!」
グレアムが叫ぶが付き合っていられない。
日頃の信用が君達には足りないんだよ。
木陰の中を抜けて第2王子の宮からは遠ざかる様に走る。
そう、こいつらは第2王子の宮の方向だけ包囲網を空けていたんだ。
だが、追いかけるのは3集団の内の1集団だけだ。
以前、私の姿を追いかけてあらぬ方向に走らされた事を教訓としているんだ。
正解だよ。
実際の私はさらに応接の間から遠ざかる方向に歩いている。
映像を高速で移動しているから走っている様に見えるだけだ。
本当はジャンプで追手から距離を取りたいんだが、
面倒な事に監視が付いている。助ける気がなくただ監視しているだけの連中が。
そして、追手がこちらに走ってこない事が、
この監視が第2王子や教会の手の者でない事を示している。
一方、グレアムの近辺に残る2集団の内、
1集団は第2王子の宮の方に歩いていった。
グレアムは
「おい、ここは許可された者しか入ってこれない場所だぞ!
貴様ら何者だ!?
衛兵!
不審者を拘束しろ!」
庭園側を監視していた騎士達が小走りにやって来る。
最後の1集団は散開して追手を撒こうとしたが、
数名は騎士達に拘束された。
逆に言えば半数は逃げられた。
第2王子の宮の方に進んでいた破壊分子の第2集団は、
私の方へ向かって歩いてくる。
多分、魔力を追跡しているんだ。
そうなると光学魔法で偽りの光景を見せてもだまされないだろう。
そしてこの集団は教会の手の者であるという事になる。
光魔法師は多くない。光魔法を感じる事が出来るのは光魔法の手練れだろう。
この破壊活動に魔法院が参加している筈がないから、
それ以外の光魔法の手練れなど教会にしかいない。
しかし、私は何も問題行動を取っていないのに、
兎も角捕まえてセレモニーをやってしまえばいいと思っているのだろうか?
まずい事に私の光学投影映像を追っていた連中もこちらに向かってくる。
一番近くにいる第2集団にありったけの光魔法を煙幕代わりにぶつけて、
その隙に応接の間方向に戻るという手もあるが、
あちらにこちらの魔法量などの情報を与えたくない。
逆に魔法を止めた場合、
今展開している私の周囲を暗くして見えにくくする魔法が使えなくなると、
今度は目視で追いかけられる。
うぅ、とりあえず連中から遠ざかる為には庭園方向に進むしかない。
一応、決定的な証拠となる顔を晒して切り札を使うのだけは避ける為、
ショールを顔に巻く。
人目には目隠ししている様に見えるだろうが
光学情報を能力で得られる私には全く問題が無い。
一方、王宮の建物付近では、
ラウンジの近くから
第2王子が外で監視をしている騎士に声を掛けるのが見える。
それを受けて二人の騎士が庭園からこちらに向かってくる。
「お前ら、何をしている!」
「大丈夫ですか?」
二人の騎士は私を助けようとするが…
私は木々の上から光を集めて私の周囲から全方位に反射する。
「うわっ」
二人の騎士も目を手で覆って立ち尽くす。
騙されないよ。
能力で聞こえたんだ。
「おい、お前ら、関係のない騎士が助ける振りをして女を捕らえよ。」
と第2王子がこいつらに指示したのをね。
しかし、結局第2王子の宮の方向に逃げる格好になった。
仕方がない、第2王子の宮に近づき、生け垣の間に入り込み鉄の扉を閉める。
ここは事前に第2王子の宮の方に追いやられた場合に
逃走に使おうと思っていた隠し通路だ。
つまり、貴人から見えない様に使用人が通る通路があるんだ。
周囲から見えなくなった時点で魔法を止める。
巻いたショールの隙間を広げて目視しながら一気に本城側に走る。
はあはあ…
物置に入り込んで息を潜める。
目視ではまだ追手は近づいていないんだが、
ここでひと息付いたらまた本城側に近づかないといけない。
第2王子の宮には人数がいたのだから、
このまま包囲されるともうジャンプする以外に
拘束から逃れる手段が無くなる。
…さてもう追手の形勢を調べないと逃げ様が無くなる。
能力で上空から俯瞰するが…
本城側には騎士が2人一組で3組いるが、単なる周辺監視役と思う。
使用人用の隠し通路の事は集団は知らなかったらしい。
まだ生け垣の中を歩いている。
もっとも迂回して第2王子の宮側を走ってこちらに来る連中がいる。
さっさと逃走すべきだけど、
問題は第2応接の間に近づく方向か、
第2王子の宮を迂回して第3王子の宮方向に
進んで保護を願うか、どちらにするかだが…
第3王子とは面識が無く、第2王子に黙って差し出される恐れがある。
そもそもグレアムとエディなどという
今ひとつ頼りにならない連中を使っているのが
第3王子と思われる。
頼りにならねぇ!
応接の間に近づく方向しかない。
騎士の中に第2王子派がいる様なのが困りものだが、
能力で遠距離から声を聞いてあたりを付けるしかないか。
ところで猫と鼠のどっちがトムなんでしょうか。