8−7 凪の一時
失敗の報告を受けた大司教は怒り狂った。
高度の訓練を受けた殉教者部隊を8人も無駄遣いしたのだ。
「小娘一人料理も出来ないとは何事か!
失敗の原因は分かっているのか!」
「申し訳ありません。
近くに潜んでいたらしい騎士達に全員拘束、
殉教者部隊は全員自決しておりますので、
仔細は分かりません。」
「潜んでいた、という事は我々の行動は知られていたのか!?」
「分かりません。
女が出席するので警戒していたのでは無いでしょうか?」
情報漏れを防ぐ為に実行犯には早々に自決する様に命じるのも
良し悪しである。
ちなみに教会がキャサリンに付けた監視は
荒事の際に一網打尽になる事を避ける為に
ケイネス家には入っていなかったから、
実行犯がどうなったかを知ることは出来なかった。
謹慎状態の第2王子の情報源は限られていたが、
騎士団が捜索をしない事から、ケイネス家内で鎮圧された事を知った。
「教会もだらしないな。
悪名高い殉教者達まで投入しながら小娘一人攫えないのか…」
やはり臣籍降下の儀式の際に貶める以外にないな、
と決心した。
本来、キャサリンにそこまで拘る理由は無い筈なのだが、
第2王子は知性派、陰謀家を気取っている。
そのプライドを傷つけられて感情的になっていた。
自分の事を冷酷な知性派と考えているなら、
この様に感情的に行動するのは慎み、損切りをすべきなのだが。
大概の知性派気取りの人間はプライドが高く、
簡単に感情的になるものだ。
一方キャサリンは、やっぱりエディは頼りにならないと考えていた。
今回も私を追い込んで、隠している札を切らせようとしたと感じた。
最悪の事態は避ける様にしてはいたが。
来る第2王子の臣籍降下の儀式についても、
怪しい私への招待を敢えて見逃すのだろう。
そうなったらもう最初から完全に逃げてしまうか、
事態が悪化したら緊急回避で逃げ出すか、
最後まで今の生活を守る為になんとか偽装して捕まらない様にするか、
手札の切り方を考えておく必要がある。
まあ王都で女官として貴族の中で暮らしていくなら、
周囲の思惑を推測しながら常に逃げ場を見つけておかないといけないのだが。
結婚相手が剛腕で守ってくれるとかいう事があれば別だが、
そんな男はいないし。
さて、今後はラウンド家を監視し、
教会は監視してもどこで地下活動をしているか分からない。
とりあえず人の流れを見てみるか。
そして、王宮を監視しても結果をエディやグレアムには告げられない。
とは言え、第2王子を監視して表向きの行動だけでも把握しないと
どう逃げるかが決められない。
でも王宮内部は見た事が無い。
書庫に言って王宮の情報でも見てみるか。
…しかし、王宮見取り図があるにはあるが、
貴族が入れる応接間ぐらいしか書いてない。
東宮は書いてある。
その他の王子の宮は書いてない。
こうなると、それっぽい建物を見てみるしかない。
まだ夕方の内に王宮の尖塔を見る。
そこから魔法を伸ばす。
この離れ辺りはどうかな…
大層な服を着たおっさんがいる。
あ、これ王太子だ。
するとさっき見た王宮の見取り図からすると、
もっと外れの方に離れがある筈…
ああ、見慣れた第2王子だ。
きりっとしているとそれなりに美形だ。
だが悪い事を考えると顔に出てすぐ性格が悪そうな顔になる。
ある意味素直な奴なのだろう。
周囲にいる側近が盛んに手紙を書いている。
臣籍降下の儀式の招待状を書いているんだ。
会場は第2の応接間との事。
多分第1の応接間は貴族全員が集まる様な催し用なのだろう。
応接間で事件を起こすとは思えないが、
仔細は決めておくのだろうか。
王宮には近衛がうろうろしている。
私をどうするつもりか、それ以外の人物も巻き込むつもりか、
動きが分からないと対処が難しいのだが。
とりあえず今は手紙で手一杯の様だ。
例のラウンド家の男も手紙の代筆をしている。
陰謀を巡らす時間では無いみたいだ。
監視は明日にするかな。
一応、ラウンド家の男を夜見てみるが、
中々帰ってこなかった。
何かをメモする暇は無いかもしれない。
という事で一足早く寝る事にした。
本編と関係ありませんが、
某体操選手の五輪出場辞退について、
指導団体側も本人も、
さっさと自主的に罰を受けて、
リセットしてもう騒がないでね、というアピールをしているのに、
なんで擁護派の人達はいつまでもぐだぐだ言いたがるのでしょうね。