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8−6 魔法は工夫

 厩舎の男達が動き始めるが、どう考えても私を助けるには遠すぎる。

結局私が何とかするしかないじゃないか。

4人同時にかかってくると言っても、まだ包囲は出来ていない。

つまり奴らを各個撃破するタイミングはまだあるんだ。

一番近くにいて歩いてくる男にこちらから駆け寄る。

これで一対一の勝負が出来る。

この男は長い袖の下に手甲を付けている。

打撃で私を制圧する役の様だが、こちらにも武器がある。

大きめのポーチを持って来ており、

この中には折りたたみの鉈が入れてある。

さすがに流血沙汰はまずいので、

折りたたんだまま柄の底を相手に向け、両手で掴む。

勿論、このままではリーチで負けて殴られるのは私だ。

そして、男達は遮光眼鏡をかけている。

私の光魔法対策だ。

…こんな人前で発光魔法なんて使う訳ないだろ。

私は表向き普通の風魔法師なんだ。

という訳で使う光魔法は逆だ。

近場の男の両目の周囲の空間を楕円体で囲み、

この表面で光を全部反射してやる。

つまり、奴の目の前は真っ暗だ。

突然視界を失い、足が覚束なくなった奴のみぞおちに

ナタの柄を思いっきり突き出す。

「ぐぇっ!」

くの字に体を曲げる男から横跳びで逃げると、

男はその場で倒れ込んだ。

こいつのダメージを観察する暇は無い。

次の男が右斜め後ろから走ってくる。

「こいつっ!」

仲間を助ける為に急いで来たが、

それだと私を包囲出来なくなるのに気付いていない。

また一対一だ。

こいつも遮光眼鏡をかけているが、

顔面前方の楕円体で光を反射する事の対策にはならない。

光を失った男は走り方がぐらついている。

その足元に後ろ回し蹴りをお見舞いする。

ふくらはぎを刈られた男は派手に倒れ込んだ。

3人目は左後ろから迫ってきていたが、

私が後ろ回し蹴りの勢いで回転したから、

正面から向かってくる格好になった。

やはり光を奪ってやる。

足元が見えずに速度を落とした男に走り寄り、

ローキックで左足首を刈る。

こいつも派手に倒れ込んだ。

こいつら大袈裟過ぎないか?

最後の男はケイネス家の護衛の服を着ていた。

下男がちょろまかした服を着こんでいるのを

さっき能力で見ている。

こいつは制圧用に棒を持っている。

近寄れば危険なので、光を奪って横にそれる。

走りながら闇雲に前を突くが、私は横にそれている。

通り過ぎるところにケンカキックを膝横に叩き込む。

やはり派手に倒れ込む…

私が凶暴に見えるじゃないか。いい加減にしろ。

…これ、護衛を倒した様に見えるよね?

ちょっと不味いなぁ。

ここは一先ず被害者アピールをしなければ。

てくてくとケイネス子爵夫人・ポーリーンの二人に近づき、

くるっと回って立ち上がろうとしていた男達に向かって叫ぶ。

「きゃあーっ!

 狼藉者っ!!」

丁度ケイネス家の護衛や侍従達がやってくるタイミングだった。

彼等には私が被害者である様に見えるだろう。

本当に被害者なんだが。

しかし、夫人とポーリーンは眉間に皺を寄せて見ている。

何この娘?

と思われているのは明白だった。

勿論、他の1年2組の女の子達もあきれていた。

(キャサリン…)

(何を今更…)

(態とらしい…)

何となく皆の視線が厳しい。何故だ。被害者なのに。

ケイネス子爵夫人が護衛達に指示する。

「その倒れている男達を捕らえなさい!

 お客様に暴力を振るおうとしたのです!」

護衛や侍従が破壊分子を捕らえようとするが、

男達は泡を吹いて痙攣しだした。

奥歯に仕込んだ毒を噛んで自決したのだ。

厩舎から来た男達が指示を出し、

犯人達から離れる様に言った。

毒だから吐き出させようとすると

近くで介抱する人も2次災害に会うから離れろ、と。

ケイネス家から4人の下男と破壊分子4人が逃げ出したが、

近くに待機していた騎士達が全て捕らえた。

が、破壊分子4人はいずれも毒で自決した。


 外で騎士達を指揮していた司令官がケイネス家に入り、

騎士と共に応接室で目撃者の証言を取っている。

彼等は今日の客全員に箝口令を敷いた。

上からこの場で起こった事を広めない様に指示が出ていたのだ。

全員の目撃証言を取った後、最後がキャサリンの番だった。

上からはキャサリンが何かやって制圧するだろうから、

皆の証言と本人の証言の整合を取る為に

最後に聞き取りをする様に指示されていたのだ。


 応接室は騎士の隊長と書記役、女騎士と私の4人だけだ。

「それで、聞きたいのはどうやって連中を倒したのか、という事だ。

 奥歯に毒まで仕込んだ充分な訓練を受けた破壊工作員を

 女生徒の蹴りで倒せる訳が無いんだ。」

つまり、証言した全員がキャサリンが突きと蹴りだけで4人を倒した、

と言っているのだ。

魔法の形跡を証言する者はいなかった。

「えーと、この任務は誰の指示で行っていますか?」

「第3王子の指示だ。」

じゃあ、喋っても良いか。

どうせ王様にまで私が光魔法師である事はバレている。

「王子様はさておき、騎士団内でもそれ以外の方には秘密にして欲しいんですが…」

「そういう指示が出ている。心配するな。」

「じゃあ、言うと、

 まず、クラスメイトには光魔法師である事は秘密なんです。

 だから光る系の魔法は使えません。」

「そういう事も聞いているから安心しろ。」

「はい、だから光らないで視界を奪う方法として、

 眼の前で光を全部反射してやったんです。」

「ふむ、闇の中で走り寄り、

 蹴りを食らって重心が移動したらそれは倒れるだろうな。

 人間は視界に頼って立ち、歩き、走っているものだからな。

 ちょっとやって見せて貰えないか?」

「良いですけど、隊長さんにやっても良いんですか?」

「ああ、後遺症等が無い方法で頼む。」

「光を反射するだけだから後遺症なんてないですよ。

 じゃあ、やってみますね。」

隊長の目の周りの空間が鏡の様に周囲を反射して見せる。

さっきは夢中だったが、こういう風に見えるんだ。

「成る程、これは見えないな…」

ここで女騎士が一声かけてくる。

「私にもやって貰えませんか?」

「良いですが…みんなチャレンジャーですね。」

女騎士の目の周りで周囲を反射した空間が見える。

「成る程、本当に真っ暗ですね。」

まあ、光を全部反射しているからね。

多少透過も出来るんだが。

こうして聞き取りの終わった私とガーベラの事は

騎士団が馬車で家まで送ってくれた。


キャサリンが去った後、隊長が女騎士に尋ねる。

「光を奪う魔法だが、光魔法なのか?」

「間違いなく光魔法ですね。属性的には。

 光を全反射して光を奪うなんて言ったら、

 教会が難癖つける魔法ですがね。」

つまり、女騎士は実は魔法属性判定の為に立ち会った

魔法院の光魔法師だったのだ。


 ちなみに、教会が雇った裏組織は西の平民街近くの公園で騒ぎを起こし、

そのまま下位貴族街に入り込もうとしたが、

彼等の望む様な貴族街の騎士詰め所からの出動は無く、

平民街の西の騎士詰め所からの出動で取り押さえられた。

そもそもケイネス家包囲用の騎士は別に用意していたので

陽動の意味が無かった。

 後ろ回し蹴りが使えて満足です。

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