8−5 場が動く
土曜の帰宅前に簡単な説明がエディからあった。
「ケイネス子爵に簡単な説明をして、真相は告げずに
騎士団を少数待機させられる事になった。
ゴードン家もそうだったけど、下男が買収されていると思う。
だからそいつらに分からない様に、
花見の片付けに人手を入れたという形で偽装して邸内に入る。」
「簡単な説明って?」
「君の友人が最近一度拘束されただろう?
同様の事がまた起こるかもしれないから、と言ったんだよ。」
私が花見に行かなければシェリルが拘束されるかもしれない。
ある意味、正しい理由なんだが…
「近くにあるゴードン家の寄せ子邸に騎士を詰めさせて、
犯行に及ぶ前後に展開して逃走する犯人を拘束する。
だからもし犯人に捕まった場合、
こちらの騎士らしき者の姿を見たらうまく逃げてくれ。」
「ごめん、最初に捕まらない様にするよ。」
「その方が良いけどね。」
そういう訳で日曜の昼過ぎに侍女のガーベラと勝手口から出る。
「全く、いつも通り一人で出かければ良いじゃないですか。」
「子爵家に伺うんだから、一応おめかしして侍女を連れて行かないと
常識外れと思われるのよ。
少し遠いかもしれないけど、あなたも一応桜が見れるわよ。」
「外で待機してても良い事なんて何も無いから、
控室で待ってますよ。」
まあ、場合によっては荒事になる。
この娘に見られない方が良いからそれで良いか。
近くの通りにキャンベル家の紋章が入った馬車が止まっている。
「こんにちは、アイリーン。」
「こんにちは。春らしいドレスだね。
似合ってるよ。」
「…うん、まあそこそこかもしれない
アイリーンの方がずっと可愛いよ。」
私の服は吊るしだし、
水色のドレスなので春には少し見た目が涼し過ぎる気がするんだ。
行き先のケイネス子爵家は北部貴族の下位貴族なので、
馬車で進むにはそれほど遠くも無い。
監視は2組付いてくる。
片方の監視は途中で教会関係者らしき者と接触し、
そいつらも急いでどこかに小走りで去っていく。
色々順調だ。
順調にエディの手配した騎士達が捕まえてくれればの話だが。
ケイネス子爵家はプリムローズ家のタウンハウスより
敷地は広かった。
庭には幾つかの大木があり、その内の一つが桜だった。
ちなみにもう少し背の低い桜とまだ小さい桜の木もあった。
ケイネス家の娘、ポーリーンと夫人に挨拶をする。
「お招き頂き、ありがとうございます。
随分立派な桜の木ですね。」
「もう古いから手入れも大変なのよ。
今日は楽しんでいってね。」
自慢の桜は満開一歩手前という感じだった。
もう少し後を狙って見に来ると、多分花が散り始めたり
葉が出ていたりするのでこのくらいが丁度良いと思う。
シェリルとも合流してお茶を飲む。
「お茶もちょっと変わった風味だけど、
お茶菓子も形が可愛いね!」
「シェリル、お花を話題にしないと。」
「いくら褒めても実際の花の綺麗さを表現出来ないよ!
だから花は黙って見ていれば良いんだよ!」
「だからと言って飲み物と食べ物の話にならなくても良いんじゃない?」
「とりあえずお家の方が振る舞ってくれてるんだから褒めないと!」
「そうだけど…」
二人は呑気で良いなぁ。
まあ他の女の子達も呑気に花を見て世間話をしてるんだけど。
1年2組の女の子の半数が集まったこのお花見会は、
一方で破壊活動の舞台であり、破壊分子を捕らえる舞台でもあった。
下男の手配で物置に待機する教会の特殊部隊、
これとは別に厩舎の方で待機する多分エディの手の者、
2軒向こうの貴族家の敷地内では、
門の前で騎乗する準備をした騎士と、
多分徒歩で展開予定の騎士達が待機している。
これがここから逃走する賊を捕捉する部隊なのだろう。
破壊分子はどのタイミングで突入してくるのだろう?
物置で待機、というのが教会からのリクエストだったらしい。
物置の一部に庭師達の休憩部屋があり、暖房用の暖炉があるんだ。
連中は暖炉に葉の付いた枯れ木の束を突っ込み、火を付けている。
物置のあるのは風上で、それがポイントだ。
つまり暖炉から火の点いた枯れ木を引き出し、
小屋の外に持ち出すと、それが発する煙が花見会場に充満し…
「何、この煙?」
「まさか火事!?」
女の子達が騒ぎ出した。
ケイネス夫人が侍従を呼び、原因を見つける様に命じた。
うん、そろそろだ。
立ち上がり、シェリルとアイリーンのいるテーブルから離れる。
「キャサリン?」
アイリーンの声を聞いて男がこちらに走って来る。
そう、この夫人が動かした男達に紛れて、
教会は私の拉致を行うつもりだったのだろう。
一番近い男は歩いて近づいて来るが、
遠い順からスピードを上げて近づく男が合計4人。
4人が同時に私に近づき包囲し、拉致するつもりだ。
ガーベラのボケが足りずに申し訳ありません…
もうちょっと盛れれば良かったんですが。