8−4 書いちゃ駄目と言われても書く理由は何か
王子側らしき男は王宮には向かわなかった。
もう夕方だから家に帰るのだろうか。
男は北部貴族の上位貴族街の下位貴族よりの邸宅に入った。
貴族街地図で照合すると、ラウンド伯爵家の様だ。
夕飯までまだ早いから、男は自分の部屋に入った様だ。
部屋で男はファイルを取り出し、
今日聞いたらしい話を書き連ねていく。
週末にケイネス家に教会の特殊部隊が入り込み、
プリムローズ家の娘を拘束し、
教会にて闇魔法師として晒し者にする計画がある事、
これが失敗したらいよいよ第2王子がプリムローズ家の娘を
直接害する事になる。
第2王子が自身の臣籍降下の儀式の際にこの娘に罠をかけるなら、
その場合は王宮へ教会関係者を助力に呼ばないといけないので、
その手続きは自分がやらねばならず、
それが発覚すれば自分は謀反の疑いで処刑される事もある事。
(なぜ教会関係者を呼ぶと謀反になるのか不明だ)
その責任が自分に回ってくるからどこかで密告が必要な事などを
書き連ねていく。
密告!?
この男は第2王子と一心同体では無いのか?
しかし、教会には文書で残すなと勧めておきながら自分は書類で残すのは
何故だろう。
密告と書いていたから、
もし密告が出来ずに捕らえられた場合の保険として残しているのだろうか。
私がラウンド家を調査するとは思っていないのか。
とりあえずこの書類は全部写しておいた方が良いだろう。
でもちょっと長いから後ろの方から箇条書きでメモしておこう。
翌朝、学院で馬車を降りると、一度教室に向かうフリをして、
遠回りして戻ってきてゴードン家の馬車の御者にメモを渡す。
「至急、相談したい」
だけのメモだ。
だが、御者は気を使ってグレアムにすぐ伝えてくれたらしい。
昼にまたマーク・フリーマンが代理でお誘いにやって来た。
再びエディとグレアムと一緒に豪華な昼食だ。
まあ、目先の問題を先ず処理しないとね。もぐもぐ。
「それで、何が分かったんだい?」
エディが言うが、大きな声では言えない。
席を立ってエディとグレアムの近くに行き、
顔を突き合わせて小声で話す。
「教会が今週末のケイネス子爵家の花見の席に特殊部隊を派遣して、
貴族令嬢を拉致する計画があるんだ。」
エディが尋ねる。
「君が週末出かけるというケイネス子爵家?」
そんな話はしていない筈なのに話が漏れている。ちょっと怖いなぁ…
「そういう事。誰か吹聴してるの?あんたも知ってるなんて。」
「ちゃんと調べているんだよ。」
「まあ、良いけど。
教会と王宮の間に頻繁な人の流れが無いんで、
西教会を調べていたら、偶然に近くの民家で話している連中がいて、
その話の片割れがラウンド家の男みたいなんだけど、
第2王子関係者にラウンド家の人っているの?」
「次男が第2王子の側近の一人だよ。」
「そっか、それでその2人の間には手紙のやりとりは無かったんだけど、
家に戻ったその男が克明に記録していて分かったんだ。」
「ケイネス家以外には何か書いてあった?」
「最後の手段として第2王子の臣籍降下の儀式に私を呼ぶ事を検討していて、
その場合は教会から何人か手勢を呼ぶ必要があるけれど、
この手続きをすると謀反の疑いがかかると書いてあった。
それって本当?」
「ああ、以前に王宮に教会の手勢と思われる団体が破壊活動を行った事が
あってね。
それ以来、王宮に教会関係者を3人以上入れる場合には協議が必要なんだ。
他には何かあった?」
ごそごそと懐から紙を複数取り出す。
「とりあえず4ページ程箇条書きで写しておいたから、
これを見てみて。」
「分かった。
ところで、週末のケイネス家の花見には行くの?」
「餌が行かないと鼠が釣れないでしょ?
情報が入った以上、私が行った方が良いんじゃない?」
「自発的に行くというなら止めないけどね。
無理に行けとは言わないよ。」
「あんたならそう言うと思ったよ。
家の近くまで友人が迎えに来てくれるから、
ケイネス家までは無事に付けそうだよ。」
「そう。
監視は付けるから。」
ここまで黙って聞いていたグレアムが一言言う。
「あんまり無茶するなよ。
すぐに助けが入る様に手配はするんだからな。」
「まあ、そこそこで逃げるよ。」
止めてくれれば行かないでも良かったが、
下手に行かないでアイリーンやシェリルが怖い思いをしても可哀想だ。
結局私は行くしか無いんだ。
お察しかと思いますが、
最近タイトルが決まらなくて困っております。