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6−9 事件の顛末

 さて、月曜の午前にゴードン家への放火の現場検証が

行われる事になっていたのだが、

騎士団の捜査官と共にやって来る貴族院および財務省の立会人が

決まるのに時間がかかった為、

彼等は結局午後になってゴードン家にやって来た。

ちなみに貴族院の立会は騎士団の捜査、結論に対する監視であり、

貴族の保護目的だった。

一方、財務省の立会は被害推定額の見積もりの為である。

目撃者の証言と行方不明の下男が二人いる事から、

買収された下男の手引で少数の犯人が放火を行ったと推定された。

現場の消火跡を見た騎士が

「手早く消火出来た様ですね。」

と感心していたが、

「冬場は薪をそこら中で使うので、

 火の粉が飛んで小火になったらすぐ消火出来る様に

 初期消火用の水は用意してあるんです。」

とゴードン家側は答えた。

手引する下男がいることから迷わず動けると推測され、

勝手口から入り、勝手口から逃げた場合、正門側の立哨からは見えない事、

煙を見てから家人が寄ってくるまでに

他の人間に見つからずに逃げられる距離である事も確認された。

放火に使われた道具等は犯人側が用心深く持って帰った事も確認された。

証拠は特に無い事から、犯人の特定は難しいと捜査の騎士達は思った。

現場検証が終わり、結論を纏める為に一同は応接室に向かったが、

まだ寒い屋外に立ち尽くしていた財務省の立会人は小用で席を立った。

彼は許可を受けたトイレに向かったが、

その前を通り過ぎて階段を2階に上がっていった。

そうして迷わずに書斎に向かった。

建物の内部構造を確認する為にも下男の買収が必要だったんだ。

そう、この立会人こそグレイ子爵の工作員だった。

そっと書斎の扉を開けると…

そこには王立騎士団の制服を着た男が二人、

ゴードン家の紋章が入った制服を着た男が二人立っていた。

「やあ、君に屋敷内を歩く許可は出ていない筈なんだが、

 何用かな?」

立会人はとっさに

「いえ、部屋を間違えました。

 失礼します。

と言って踵を返して立ち去ろうとしたが、

両隣の部屋から4人ずつ護衛達が出てきて立会人を拘束した。

「気配も読めぬ者を使うとはな…」

「買収された本物の財務省の役人なのでしょう。」

騎士と護衛達は大分無理筋の破壊工作に呆れていた。

要するに、ゴードン家側が火付けを許したのも、

財務省の立会人を敷地内に入れたのもボロを出させる為の罠だった。

せっかく事前情報があったので、

少しでも証拠が増える様に一芝居打ったのだ。


 そういう訳で、貴族院としてはまるで犯人の共犯の様な役をやらされて、

財務省の上層部に激しく抗議した。

その上で綱紀粛正と省内の犯罪関係者の処分を強く要求した。

これも含めて芝居である。

ゴードン家側としては貴族院も巻き込む事で、

その影響力を使って財務省内のネズミの掃除を促せるし、

決算報告書の提出期限前にはそれを受け取り監査する財務省の役人の態度が大きくなり、

時に不当な要求をする輩もいるので、

貴族院つまり貴族の集団として、

この機に貴族と役人の形勢を逆転しておきたかったのだ。

財務大臣は退職後に権力を失った後に

貴族院にもゴードン家にも恨まれる事を恐れて本件の捜査に熱中した。

破壊工作員の役割を果たした役人は

グレイ子爵の指示により、

ゴードン家の書斎で裏帳簿を見つけたと騒ぐ役だった事を白状した。

こうしてグレイ子爵とその買収した役人達が立会人の他

複数が逮捕される事になった。

グレイ子爵の書斎の捜査時には財務省の役人も立会を強硬に主張し、

捜査の主導権争いに至る程だったが、

そういう事でグレイ子爵の書斎は徹底的に調査され、

キャサリンが見つけていた裏帳簿も発見された結果、

グレイ子爵が裏への金の流れを担っていた事が判明した。

但し、彼はそのバックにいる人間の事は決して口を割らなかった。

一方、放火の犯人達はもちろん日曜の内に

ゴードン家周辺に潜んでいた騎士団に拘束されていた。

放火を請け負った裏組織も既に監視が続けられていたので、

一味の殆どが拘束された。

ただし、彼等は顧客の事は決して口を割らなかった。

それが彼等の仁義なのだろう。

ネイピア子爵の情報はキャサリン経由で上がっていた為、

ネイピア子爵も取り調べを受けたが証拠は出てこなかった。

粗雑なネイピア子爵でも、

流石に危機感を抱けば証拠の処分くらいはするのだ。


 これらの顛末を知って第2王子フレドリックは激昂した。

「不始末は仕方がないが、

 陰謀の影を隠す事すら出来ないのか!」

グレイ子爵から金が流れた疑惑を持たれた

フレドリックの手下となっている貴族達は、

暫く裏の仕事は出来ないと泣き言を言ってきたんだ。

「こういう事は畳み掛けないと意味がないだろう!

 馬鹿共が日和見やがって!」

そう、将来の王ではないフレドリックの陰謀に加担する者達は、

所詮は刹那の利益に目がくらんだ者達だから、

リスクが高くなれば距離を取るのである。

「仕方ないな…

 小娘一人地獄に落とすくらい、

 私一人でもやってやるか。」

そのセリフをキャサリンは能力で聞いていた。

こうなればもうこの男だけ監視していれば良いのだが、

実際には特権階級である王族を追い落とすのは難しかった。

最終的には「不敬だ!」でこちらが罰されてしまう。

どうしようか…結論が出る筈もなかった。

 まあ、書斎で待ってるのはお約束ですよね。

ところで、公民館の物置に隠し通路がある件の説明が必要な気がしていたのに

忘れてました。

平民街に役所の出張所があるのは

もちろん平民達が貴族街を通って官庁街に出入りするのを防ぐ為で、

逆に平民街で暴動が起こった場合に国家機関の代表に見える

出張所が襲われる事になります。

だから出張所のエリア内には脱出用の隠し通路があるのですが、

それでも逃げられなかった場合に

鎮圧部隊の突入口として物置に隠し通路がある、

という設定です。

何で大司教がそんな通路知ってるんだよ、

という件については実家の侯爵家が知っていた、

という設定です。

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