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5−10 フリーマン家の門前で

 私にはまだエディが付けたと思われる監視が付いている。

さすがに学院内と自宅内には入ってこないが、

能力で俯瞰して見ればそれなりに彼等の動きが分かる。

ところが、その後ろに別枠が付いてくる。

まずいな。乙殿下は既に狙いの人物の実家を特定出来ているんだ。

監視が張り付いている以上、移動能力を封じられてしまっている。

人前で使えばもう家には戻れない。

緊急脱出の手段を封じられた以上、

どう考えてもフリーマン家からゴードン家に辿り着ける気がしない。

クンルン王国側の動きに対しゴードン家の馬車が

上手く対応してくれるなら逃げる事も出来るだろうけど…

過度の期待は禁物だ。

一応、移動能力を糊塗する魔法も用意してあるが…

乙殿下はどうするつもりだろう。

アーガイル公爵子息が「不敬だ!」という常套文句を言っていた。

それを利用してくるのが向こうは一番楽だろうが、

往来でそんな事をしてくるなら噛みついて共倒れにしてやる。

…でも出来れば向こうだけ沈むやり方にしたい。

ああ、フリーマン家が近づいて来た。

向こうが来る前に馬車に乗り込んでしまえば逃げ切れる…

訳がないね。すでに監視が付いているんだから。

フリーマン家の前に質素な馬車が停まっており、

その前に侍女のジョディーが立っている。

けれど、もう乙殿下を乗せた馬車が近づいて来ていた。

前後4騎計8騎の騎士、

平民服を着てはいるが体格からするとどう見ても騎士だ。

帯剣しているし。

ゴードン家の馬車は侍従に見せかけた護衛が3人と御者に侍女だから、

数で圧倒されている。

力技では叶わず、権力でも叶わず、

(向こうは王族本人、こちらは貴族の家来と子女だ)

グレアムは逃げ足を使えと言うが生身の足では騎馬から逃げ切れない。

使えるものはたった一つだ。

4騎の騎士がゴードン家の馬車を囲み、

4騎の騎士が私を囲んだ。

近づいてきた馬車から乙殿下が降りてくる。

余裕だな。いつまで余裕でいられるやら。

こいつはこいつで鈍すぎる。

「さあ、貴女を守ってくれるナイトはここにはいませんよ。」

勝ち誇って気取って喋っていやがる。

「どなたかとお間違いではないですか?

 私にナイトなど付いておりません。」

私を餌に何か釣り上げようとする腹黒なら付いているけどな。

「それならそれで構いませんよ。

 今日は付いてきて貰いますよ。

 私が誰だか知っていて、命令を断るなら不敬で捕らえるだけです。」

ぷちん。自分の中で何かが切れた。

上品に言っていても、下郎、黙って従えって言ってるだけだろ。

こうなったら出来る範囲で一番大きい声を出してやる。

「白昼堂々、女を攫おうとする奴が何者かなんて知らねーよ!

 身元も分からない服着てやって来て、

 やましい事をやりに来たのが明らかじゃねーか!!

 不敬!?

 だったら大きな声でどこの国の王族か名乗ってみろよ!」

フリーマン家のみならず、

周囲の下位貴族の家の門番が出てきてこちらを見ている。

そもそも、貴族家の前に停まった馬車を

平民服を着た騎手の乗った騎馬が囲っている点で不審なんだよ。

自家に波及しないか警戒して門前に各家の護衛が出て来つつある。

私を囲む騎馬の騎手達が「不敬だぞ!」と言い、

下馬しようとするが、舐めるなよ。

地面からくるくると砂ごと風を巻き上げ、

下馬中の男達にぶつけてやる。

二人は目測が出来ずに下馬に失敗して転んだ。

二人は無事に降りられたが目に砂が入った様だ。

そう、私は公式には風魔法師なんだよ。

だからここで光魔法を使わず、風魔法で騎士達を牽制するしかない。

が、口でも攻撃してやる。

「不敬!?

 あんた達こそ王国の名を汚す暴挙に及んでいるのに

 気が付かないのか!?

 そこの偉いさんがこんなところで白昼堂々と女を拐おうと

 しているのが一番、

 あんた達の王国の名を汚す暴挙だろう!?

 それを止めない家来も同罪だよ!?

 これが恥ずかしい事じゃないなら、

 お前らの国と仕える人の名前と、

 所属する騎士団の名前を大声で言ってみろ! 

 俺達は悪名高き何々国の某王族の家来の暴虐騎士団の一味で、

 人攫いの真似事をする主人を止めもせず

 一緒になって女を攫おうとする愚連隊の一味だ!

 って宣言してみろ!!」

遠巻きに見ている各家の護衛達は門内に槍と盾を用意しだしている。

もうこの騒ぎを無かった事にする事は不可能だ。

乙殿下はやはり経験不足で、

相手が口で反撃して騒ぎを大きくする事を予測出来ていなかった。

頭が真っ白になって反論出来ずにいた。

というところで、

フリーマン家の正門が開門され、

エディとスチュアート王国騎士団の制服を着た騎士達が

大挙して出てきた。

騎士達は正体を明らかにせず武装した外国人達、

つまり乙殿下の護衛達を拘束した。

クンルン王国の騎士と明らかになる制服を着ていれば問題無かった。

あるいは、王家に許可を得た上でお忍びの貴人を平服で護衛するのも

問題は無かった。

だが、今回この場所に来る事は王家の許可を得ていない。

何で関係ないフリーマン家で馬車を止める許可が下りるのか。

エディは乙殿下に宣言をした。

「殿下、許可なく身元を隠して武装した兵を我が国内で用い、

 侯爵家の馬車と貴族令嬢に危害を加えようとした、

 これは我が国の主権を侵害する破壊工作に当たります。

 貴方と貴方の部下を拘束し、

 貴国に正式に抗議致します。

 貴方の身柄は貴国からの正式な回答があるまで解放出来ません。

 反論がある場合は毎日、総領事との面会を許可しますので、

 総領事経由で文章で提出して下さい。

 何かご質問はありますか?」

乙殿下は漸く、自分が何をしでかしたか理解した。

ショックで言葉が出てこなかった。

彼はフリーマン家の馬車置き場に待機していた騎士団の護送馬車で

王宮まで移送されて行った。

これは乙殿下の啄木鳥戦法、

つまり平民街に出ると見せかけて逃げ出すキャサリンを

迂回して捕まえる作戦に引っかかったと見せかけて、

乙殿下をスキャンダルで拘束するエディの対抗策だったんだ。

俯瞰してフリーマン家の中が見えていた私には、

乙殿下が到着する前にエディの思惑なんて分かっていた。

だから騒ぎを大きくしてやったんだ。


 一仕事終えたエディは漸くキャサリンに声をかけた。

「助けに出るのが遅くなって済まない。」

「あてにしてなかったから別に良いよ。」

こうして問題の元を絶ったのは兎も角、

餌にされた上でしばらく危ない橋の上に立たされて

感謝する程キャサリンは心が広くなかった。

エディとしては助けたつもりなのでこの扱いに俯いて悲しい気持ちになったが、

男の思う「助ける」と女の思う「助ける」は定義が異なる事もあるのを

知るべきだった。

多分キャサリンが拘束された決定的な瞬間に出てくるつもりだと予想された。

その前に助けろよ!と普通は思うものだ。

「送っていくよ。」

とエディは汚名返上の機会を欲しがったが、

「いらない。」

とキャサリンは冷たく突き放した。

エディは落ち込んだが、キャサリンには確かめる事があったのだ。

だから護衛がぞろぞろ付いてくるのを嫌ったんだ。

帰り道、キャサリンを監視する人間は相変わらず2組いた。

1組はエディの付けた監視。

そしてもう1組は、当然乙殿下の手の者ではない。

こうしてキャサリンは、自分に対して悪意を持つ者がまだいる事を知った。

 主権が…破壊工作が…

何か国際法的に正しい文章でない気がしますが。

1日悩んでもいい文章が思いつきません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「助けに出るのが遅くなって済まない。」 「あてにしてなかったから別に良いよ。」 エディはゴミ。ヒーローになれん男だ(あるいはしまらない男?)
[一言] 話がおもしろければ ファンタジー世界なので 現代社会のことなんて関係ないのではないのでしょうかね。 実際今回の話はおもしろいですよ。
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