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5−8 会ってはいけない人

 乙殿下は第2王子フレドリックに会う事を決意したが、

アーガイル公爵家を通すと王家に伝わってしまう。

クンルン王国から連れてきた護衛の騎士や研究者達が調べたところ、

科学院の生物研究者から繋ぎを入れるのが良さそうだと思われた。

但し、科学院の生物研究者は巨大蛾の繭から正体を調査する様に

エディ達から指示された者達で、

当然、彼等には魔法師については箝口令が敷かれていた。

そしてクンルン王国の研究者との話題については

逐一報告する様に指示されていたので、

乙殿下が第2王子と会いたがっている事は事前に知られていた。

王家側としては既に忠告は与えているので、

どうしても会いたいと言うならそれを阻止するつもりは無かった。


 スチュワート王国の第2王子フレドリックは魔法学院卒業後、

科学院にて人工の光の研究を立ち上げていた。

光魔法があり、火を使わずに光を作る事が出来る為、

これを道具で再現出来ないかと考えたのだ。

勿論、直ぐに成果が出る筈もなかった。

彼は土魔法師で光魔法の素養がなく、光魔法の研究自体が進まないからだ。

そういう訳で与えられた予算を横領して裏組織に流し、

個人で使える工作員を確保していた。

また、研究資料を購入する為、商人とも親しくなり、

蛇の道は蛇な商人とも繋ぎが取れていた。

光魔法師については王家に報告されてしまう魔法院ではなく、

教会に協力を仰いでいた。

これは王家の裏の情報を入手し、場合によっては王家を揺さぶり、

教会の影響力を強化したい教会の思惑とも合致していた。

こうして、乙殿下と会う前に、

フレドリック殿下は彼の狙いを教会から聞いて把握していた。


 科学院の光学研究棟にて二人の会談が行われた。

「ようこそ科学院へ。クンルン王国の高貴な方とお会いできて嬉しいですよ。」

「こちらこそフレドリック殿下とお会いできて光栄です。」

フレドリックはまず無難な話題を振った。

「こちらの気候はいかがですか。

 乙殿下のお体にお変わりがなければ良いのですが。」

「冬に参りましたので、寒い事には変わりが無いのですが、

 体の芯まで冷える様な日が少なく、過ごしやすいと感じております。」

「食事等は難儀していないでしょうか。

 お口に合わない物は無理をなさらない方がお体の為には良いと思いますが。」

「食事は問題ありません。我が国だと地方により妙な食材も味付けもありますから、

 それに比べれば常識の範囲です。」

「それは良かった。ところで…」

そろそろ本題に入らせよう、とフレドリックは話を振ることにした。

「私の様な王家と距離を置いている者に話を聞きに来られるとは、

 何かお困りですかな?

 大した事は出来ませんが、相談がおありならいくらでも時間を作りますよ。」

「寛容なお言葉を頂き、ありがとうございます。

 実は、力の強い光魔法師をご存知でしたらご紹介をお願いしたいのです。」

「ふむ…聖魔法師、ではなく光魔法師、と仰るからには、

 治癒関係の相談事ではないと言う事ですか?」

「はい…これは内密にお願いしたいのですが、

 お国の中で魔獣の目撃証言がありまして、

 強い光魔法師がいるのではないか、と考えました。

 それでその魔法師に魔獣の目撃証言と、

 どの様に対処したかを伺いたく、各部署に光魔法師を紹介して頂いたのですが、

 それらしき人物が見つからないのです。

 そういう訳で殿下にお願いに参った次第です。」

ふうん、とフレドリックは作り笑いをした。

クンルン王国の研究者が何某かを調査しているのは伝え聞いていた。

だから急遽留学が決まった乙殿下は隠れ蓑に過ぎないと考えていた。

それなのに精力的に各部署の人間に会って成果を上げようとするのは、

国内では牽制しあって成果を上げづらいから、

外国に派遣されて周囲の掣肘がない環境で成果を上げて

王位争いをリードしたいという浅知恵だろう。

誰が敵かも分からない外国で激しく踊れば、足を踏み外すのが落ちだと想像出来ないのだ。

せいぜい楽しく踊れば良いさ。

「ふむ、それで乙殿下は今まで話に上がった光魔法師の中には該当者がいないと

 お考えで?」

「はい。何より現場にいたとは思えないのです。」

魔獣の事は目撃証言、とよく知らないという言い方をしながら、

一方で現場が特定されている…語るに落ちたな。

やはり魔獣とはセンベロ子爵が仕込んでいた闇の魔獣で、

それの研究をスチュアート王国とクンルン王国で共同してやっているが、

この小僧が先走って自分の手柄にしたがっているんだ。

飛んでいってしまったと聞いているから特定は出来まいが、

闇の魔獣に対して光魔法で対抗して追い払った事が分かった。

過ぎた事だがまあ良い情報が手に入ったと言えるだろう。

王国の大事件は後継者である第1王子の経歴に傷が付かない様に、

第3王子が走り回って処理している。

貧乏くじを引かされているのに気づかない奴も馬鹿だが、

それなりに評価されて得意になっている奴の顔を見るのも癪だ。

奴の手下にダメージを与えてやるか、と考えた。

「それで、乙殿下としては全く目星が付かないのでしょうか?

 何か気になる人物がおられるのではないのですか?」

「…残念ながら、確証を持てる程には情報が無くて。」

良いんだよ。外れてても。あいつにダメージが与えられれば。

「確証は無くても気にかかる人物はいるのでは?」

「…本当に気になる程度なら…」

もう、誰を疑っているか明らかなら、そいつを確保すれば良いだろ?

「一度、拘束して聞き取りを行ってみてはいかがでしょうか?」

「ですが、確証が無くて…」

「あなたは殿下なのですから、不敬罪ででも拘束してしまえば良いのです。

 強気に出ればスチュアート王国側も無難な対応しか出来ません。

 相手は上位貴族という訳でも無いのでしょう?」

「平民の格好をしていましたから…」

「後はご決断をするのみです。

 私も光魔法の研究をしております。

 用済みになった後にでも渡して頂けると嬉しいのですが、

 もしお国に連れて帰るというならそれも良いでしょう。」

「そうですね…少し考えさせて下さい。」

「ええ、殿下の問題ですから。

 納得するまでお考えになるのが良いと思いますよ。」


 こうして、乙殿下は科学院から帰っていった。

フレドリックからすれば愚かな小僧としか感じなかった。

欲で動く人間は、欲を刺激する様にフォローしてやれば勝手に足を踏み外す。

私には会わない様に忠告を受けていた筈なのに

欲に釣られて行動するからこうして破滅の道に進まされる。

そもそも、外国に派遣される事自体を罠と考えなければいけない筈なのに。

しょせん、あの年頃は考えが足りない奴ばかりだ。

第3王子の様にね。

 あらすじの「遂に王子様が!」というのは

フレドリック王子の事でした。

あらすじ詐欺って訳じゃないんですよ!


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