5−6 探し人はどこに
乙殿下は失敗を認めて、違う経路での調査を進める事にした。
光魔法と言えば教会である。
教会では聖魔法と言うが。
公爵家経由で王家にも申し入れがあり、
王都の大聖堂で大司教と会うセッティングがされた。
ここでエディが釘を刺した。
「教会には巨大生物に関して王家は情報を持たないと
連絡してあります。
教会関係者に巨大蛾の調査を行っている事は
漏らさないで頂きたい。」
「分かっております。
闇魔法を持つとも言われている姮蛾の話をするのは
我が国にとっても教会との関係を悪化させ兼ねないので、
そこは告げずに話を致します。」
とは言え、エディとしては前回の件でこの殿下が
王位争いをしている割に自制心に欠ける人物ではないか
と疑っていた。
もう一本釘を刺す必要があると考えた。
「人物を探すのは理解しますが、
第2王子とは会わない方が良いと強くお勧めしますよ。」
「何か問題でも?」
「王家の仕事と距離を置いて科学院で自分の城に籠もっていらっしゃる。
そういう癖のある人物ですので、
事前に問題が発生する可能性がある事をお伝えしております。」
「分かりました。」
一応忠告はしたが、エディとしてはこの少年はきっと第2王子と会って
上手く踊らされる事だろう、と思っていた。
忠告はしたのだから、その責任は貴方が取るんですよ、
と心のなかで告げた。
大聖堂での乙殿下とヴィンセント・ドラモンド大司教の会見は
比較的問題のないものだった。
殿下は教会を褒めて口を割らせようと思ったからだ。
「私は北方の片田舎から出てきております。
南の国の大司教の功徳溢れるお姿を拝見して、
この国に来た甲斐があったと感じております。」
「何を仰る。
長い歴史を持つお国から参られた殿下とお会い出来て、
私の方こそ光栄ですよ。」
「まず出来ますればこの大聖堂にて最も神の御威光を感じられる
お部屋なり絵画なりを拝見させて頂ければ幸いです。」
「後ほど司教に案内させましょう。」
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。」
闇に属する魔獣の調査にやって来ておいて教会に愛想を振りまくのも、
面の皮が厚いと言えよう。
「他にも、もしよろしければ神の御業を代行なさる
聖魔法師の方々のお力を拝見出来れば、
国に戻った時に良い土産話となりましょう。
こちらの教会の最も優れた魔法師の方のお名前と
そのお力をお教え頂けないでしょうか。」
「私も若い頃は一・二を争ったものですが、
流石に老いては若い者に任せる様にしております。
今なら副司教のフィリップ・ジョンストンが随一でしょうね。」
「その方は治癒の力が優れていらっしゃるのですか?」
「フィリップは浄化に優れておりますな。
治癒全般だと修道院長のサリー・フレイザーですな。
殿下は何かお体に問題でもおありですか?」
「いえ、今は問題ありませんが、
留学期間中には何があるか分かりません。
その際にはお力をお借りしたいと考えまして。」
「その様な時には是非、教会の力を殿下のために使わせて頂きたい。
遠慮なく仰って下さい。」
「あまりお世話になってはお国の患者の方にご迷惑がかかりますので、
市井の治療師では手に余る様な時には是非お力をお貸し頂きたいですね。」
こうして乙殿下は教会の聖魔法師の情報を得たが、
王家側が隠している魔獣を羽化させる様な魔法師は
教会とは違う組織に属しているだろう事は明らかだった。
王国は魔獣とは無関係という姿勢を教会に示している以上、
教会の魔法師が魔獣の事を知っている訳がない。
そうなると、彼と別グループと思われる第2王子と会って話をする
必要がありそうだ。
エディ達が光魔法師を隠している以上、
第3者視点を通じて突破口を見つけるしかない。
というか、あの愛想の無い女がやはり何かを知っていると思われた。
他国の王位継承権のある人間に愛想の無い態度で接する女…
思い出すといらつきを隠せなかった。
そう、エディが危惧した通り、
この少年は王位を争うには少々幼かった。
人の上に立つと言う事は、
言うことを聞かない人物も忍耐強く使う事が必要とされる。
そういう経験はこの少年にはまだ無かった。
明日は明るい雰囲気になる筈なんですが。