5−1 魔獣の研究
スチュアート王国とクンルン王国とは国交があり、
王都の官庁街に総領事館がある。
巨大蛾の噂を聞いたクンルン王国スチュアート王国内総領事が
スチュアート王国内務大臣に質問をしたのは反乱勃発前だった。
内務大臣から経緯を聞いた総領事が
これを本国側に連絡したところ、
生物学者を派遣したいとクンルン王国側から連絡があった。
ただし、スチュアート王国側も巨大蛾については公にしておらず、
この研究者達の派遣に何らかの名目が必要となった。
そうして、クンルン王国の王族の一人、
乙がスチュアート王国の魔法学院に留学する事になった。
乙は現在12才であるので入学は半年後であるが、
その準備として研究者が同行する事になった、
という名目で研究者と乙がやってくる事になった。
スチュアート王国内の反乱が鎮圧された事により、
彼等が漸くやって来る事になった。
乙と研究者の長がスチュアート王国国王ロバートに
入国の挨拶にやって来た。
「国王陛下にご挨拶出来る事、光栄の至りです。」
「うむ、よく参られた。
名目とは言え留学される以上は我が国にて
良く学び、また良き思い出を作られる事を望んでいるよ。」
「陛下の寛容なお言葉に感謝すると共に、
我が部下達が姮蛾について有効な研究結果を報告出来る様、
督励させて頂きます。」
「そちらの方は専門家に任せるしかないので、
じっくりと研究してもらいたい。
こちらも出来るだけ協力させてもらおう。」
「よろしくお願いします。」
研究資料としては上水道貯水池から回収された巨大繭が提供され、
一部を切り出して個別に研究する事になった。
姮蛾は魔獣とされているが、
何分、クンルン王国でも実物を研究した事が無い伝説の生物である。
本来なら脱皮した表皮等が欲しかったが、
繭の中には表皮の小さな破片しか残っていなかった為、
繭の研究が主体とならざるを得なかった。
「冬の真っ只中に羽化するというのも不思議な事ですが、
何か要因があったのでしょうか?」
「屋内の貯水池内に繭を作ったらしいんだが、
これが水面まで落下して繭が発覚したそうだ。
水を抜いて溺死を避けたとの事だが、
中で動いているので光魔法で誘導して
羽化させたらしい。
そうすると北方へ飛んでいったとか。」
「スチュアート王国の北方と言えば商業国家リグリアでしょうか…」
「あの売れるものなら人間でも売る国か!
あちらで捕まって売り物にでもされなければ良いが…」
「なぜあちらに飛んでいったのでしょうね?
クンルンにではなく。」
「元々我らの国でも姮蛾は伝説の魔獣だ。
生息地がもっと離れた場所であった可能性はあるし、
現在の生息地も北の方なのかもしれない。」
「現在もどこかに生息しているのでしょうか?」
「繭があったという事はどこかで生息しているのだろう。
スチュアート王国でも見知らぬ生き物という事だから、
誰かが持ち込んだと考えるのが筋だが…」
「まあ、そもそも姮蛾らしい、と言われているだけですから、
まず何物かを調べる必要がありますね。」
「まあ、そうだな。
だが、伝説の魔獣を破壊工作に使うというのも酷い話だな。」
「破壊工作を行った者はそんな伝説など知らないかもしれませんね。」
「正体など知らぬが上水道を汚染させる為に利用したと言う訳か…
研究者からしたら許しがたい所業だな。」
「とりあえず繭だけでも残って研究に供する事が出来るのは幸運でしたね。」
「スチュアート王国にとっても上水道が汚染されなかった事は幸運だったな。」
「幸運だったんですかね?」
「どういう意味だ?」
「うまく光魔法で羽化させた、とありますが、
魔獣に影響を与える程の魔力って、凄くないですか?」
「何とも言えんな。
ただの呼び水だったのかもしれないし。」
「呼び水にせよ、その魔法師は何か知っていたから羽化させられた
のではないでしょうか?
そのあたり、その魔法師に聞き取りが出来ないですかね?」
「そうだな、申し入れてみる必要はあるが、
そんな場面で巨大生物を羽化させる様な光魔法師なんて彼等にとっても
切り札の魔法師だろうから、会うのは難しいかもしれないな。」
「どちらにしても現場に居合わせた人の話は聞きたいですね。」
「そうだな、聞き取りは研究の基本だから、
申し入れはしてみよう。」
総領事と内務大臣の事、書いてて何書いているか分からなくなりそうでした。
妙な言い回しに見えたらすみません。