4−8 刺客の行方
さて、ボウ商会、つまりフィンストン男爵側は
どの様にゴードン家に対する刺客を用意するのか。
常にゴードン領内にゴードン家に対する刺客を用意しておくのは
危険だろうから、フィンストン領から出て来るのではないか。
午前中にフィンストン男爵の王都の館を監視するが、
夜襲失敗の報などまだ届く訳が無い。
男爵も何か一般的な書類仕事を続けていた。
午後にフィンストン男爵領近辺に行き、
ボウ商会を監視する。
あまり動きはないなぁ…
もっと領地の境界近くの町とかも見ておくべきだったなぁ…
境界近くの町も見てみるが、
田舎町でボウ商会の支店もなさそうだ。
仕方がないのでゴードン領へ移動しようとしたところ…
山腹の中継点で幹線道方向を見ると、
むしろ幹線道でない田舎道の方に気配を感じる。
色気のない幌馬車が進んでいるが、
荷物を運ぶなら幹線道を通った方が道が整備されているだけ
速度が出る筈なんだよね…
うん、人相の悪い連中が8人も乗っている。
そして横長の箱を積んでもいる。
あれだと両手剣くらい隠せそうじゃないか?
見通しの良い地面を魔法の中継点に定め、
そこから視界を動かして箱の中に視線を移動する…
片手剣、両手剣、腕に付ける様な小さな盾が入っている。
多分、フィンストンーゴードン境界近くに刺客は待機していて、
今回の場合、ゴードン領内の連絡員の移動に半日、
今日の朝一番にフィンストンへ移動して、
午前中に準備をした刺客達が今移動しているんだ。
今日中にゴードン領に入り、明日の夕方には商業都市あたりに到着、
一泊して明後日の晩までに領都に入り襲撃、で予定の3日という訳だ。
地元裏組織の人間が道案内をするなら、
下調べ等怪しい動きをする必要も無い。
出来れば裏組織共々襲撃前に発覚する様にしたいんだけど…
刺客を乗せた馬車はゴードン領の田舎町に入り、
宿ではなく商家に泊まる様だ。
領地境近くの町にはお互いの領地の商人同志の交流があるんだろう。
田舎町の近くは林だらけだ。
一度帰って夜にまた来よう。
寒い…田舎町の近くの林なんて冬の夜には寒いに決まってる。
とりあえず連中の泊まっている商家の中を調べる。
臭ーい。酒臭い。
明日深酒して明後日に残ると困るから、
場合によっては今夜が最期の酒盛りだ。
家人と顔つきは怖いが知性を感じる目つきの二人が
酔っ払い達をベッドに放り込んでいる。
この二人がその後、この家の主人らしき人物と打ち合わせをしていた。
「明日、商都で一泊して明後日の晩に強行する。
逃走はこちらを通るか北に進むか分からんが、
こちらを通る事になった場合は隠れ家の用意を頼む。」
「はい、農家の納屋を利用出来る様に話を付けてあります。」
「空振りになったら済まんな。」
「なに、上から常に用意せよと言われております。
都のやんごとなき方ににらまれる訳にはいきません故。」
「まあ、下っ端は自分の見える範囲で働くしかないがな。」
「手の届かぬ範囲を望んでも痛い目に会うだけですからね。」
「痛い目どころか首が飛ぶからな。」
…?
やんごとなき方とはファントム卿の事なのか?
え?
王家または王家に近い人物が絡んでる?
ゴードン侯爵家に対する破壊活動なのに?
…不味いじゃないか。
男爵家やら侯爵家の分家の家来あたりの陰謀ならたかが知れてるが、
そんな上が動いてるんなら、
もっと手練れの破壊工作員がどこかに潜んでいるんじゃないか?
急いで商業都市に移動するが、
既に飲み屋の客は少なくなり、
用心棒組織の動きも少なくなっている。
冬の深夜まで遊び歩いている人間などいないから。
下手すると裏通りで寝込んで凍死するからね。
ああ、明日はもっと本気で怪しい集団を調べないと。
翌日の午後、商業都市を見て回る。
といっても能力で見ているだけだが。
一応、商業都市に外部から入るには検問があるんだよね。
あの商人が付き添うのか?
それともボウ商会か商業都市の裏組織が手引をするのだろうか。
武器を持ち込むんだから。
件の幌馬車は南下して商業都市に入ろうとしている。
検問所では騎士は待機しているだけで、
馬車の検査をするのは役人だ。
御者の隣に昨日はいなかった男が座っている。
少し離れたところにいた役人が不自然に移動し、
その馬車に近づく。
御者の隣の男は役人にこっそり巾着に入った重いものを渡す。
全国銘菓、袖の下だ。
役人は馬車の中を見ようとしないで通そうとしている…
多分、ここが分かれ目だ。
騎士も破壊工作の仲間なら意味が無いかもしれないが、
ここで騒ぎを起こせないと
手練れの者の手配で破壊工作が成功してしまうのではないか…
えーい、やっちまえ!
馬車の手前、待機している騎士寄りの方に音を届ける事にする。
思いっきり低く大きな声で、
「賄賂だ!
不正をしているぞ!」
と音を届けた。
ああ、移動しないと。
この声を聞いた者がいたら、ここが捜索される。
1マイル北東へ移動し、再度検問所を見る。
良かった、騒ぎになっている。
騎士達の怒声が飛んでいる。
「逃すな!
曲者だ!」
「逃げた役人も追え!」
検問所は蜂の巣を突いた状態になった。
検問所は一時閉鎖され、
逃走した馬車と役人の情報が領都にも通報された。
えーい、やっちゃえ、は私の気持ちでもあります。
最初はもっと穏当に暗躍させるつもりだったんですが。