4−6 刺客
王都の物流事情はあまり改善されていないらしい。
母が昼食に文句を言い出している。
「野菜が傷んでいるじゃない!
代えて頂戴!」
父も兄も長姉も文句は言わない。
物流が滞っていて食材はそもそも入手が難しくなりつつあり、
物価が上がっているからあまりえり好み出来ない事は分かっているんだ。
そんな事も分かっていないのか、この母は。
…あれ、つまり反乱が収まらないと一部の商家が儲かる訳だ。
そっちも調べた方が良いのかな…
ファントム卿か…
ハミルトン公爵と手紙のやり取りが出来る人物。
指示を仰ぐ立場ではなく逆に提案すらする人物。小物の訳がない。
その関係者がハミルトン公の血判状貴族からの寝返り組と同一なのか、
また別組なのかはどうやって調べれば良いのだろう…
ファントム卿の正体すら分からないのではどうしようも無いけど、
ゴードン家の状態を無視してフィンストン男爵を監視し続ける訳にもいかない。
昼食後にジャンプを続けてゴードン領の商業都市のボウ商会を監視する。
御用聞き担当は事務所で何か書いている。
こいつが顔を出していた裏組織はどうしているだろう。
裏組織の事務所には顔を隠した男がいる。
どうやら午後に会う約束だったらしい。
よかった。毎晩夜に山経由で来てたら寒さで体調を崩すよ。
そこにボウ商会の御用聞き担当がやってくる。
「名乗りは不要だ。
聞きたい事を言ってくれれば答える。」
「まず、王都の状況と反乱全体の推移を知りたい。」
「王都は戒厳令が出ている。
外部との出入りは厳しく制限されているから、
民間で喧伝する王都に関する情報は全てデマだ。
現状、王家が王都を管理しているが、
反乱鎮圧は出来ていない。
王都外ではハミルトン公とグラハム公の戦闘が続いている。
勝負はついていない。」
戒厳令はもう解除されているよ。
反乱鎮圧が出来ていない、の意味は
ファントム卿が蠢動している、という意味なら
鎮圧が出来ていないとも言えるけど。
王弟のグラハム公主体の軍はハミルトン公爵領の鎮圧に出向いているが
まだ完全制圧は出来ていないらしい。
つまり、戒厳令の話以外は嘘とは言い切れないけど、
反乱側が知りたい情報としては正確じゃない。
「分かった。
後、そちらはこちらに何か出来る事があるのか?」
「まあ、刺客くらいは出せるが、レベルは期待しないでくれ。
後、ここの相場で小麦は多少都合出来る。
ただし、ちゃんと売買契約を結んでだ。」
「小麦はどこを経由して売買出来るんだ?」
「この街のボウ商会と商談してくれ。」
「刺客の件はいつ用意出来る?」
「3日は欲しいな。」
「分かった。明日また話せるか?」
「早い方が良いだろう。明日だな。」
「じゃあ、明日また来る。」
後はコール家の話を聞く必要があるね。
そのコール家での会話だが…
「刺客を出してもらえるなら至急出してもらおう。
それに続いて二の矢としてこちらの刺客を出す。」
「その旨、明日伝えます。小麦の方はいかがしましょうか?」
「うちの備蓄として買う。
それをグレンヴィルに転売して利益を出せば良い。」
「相手は怒りませんかね?
「ゴードン家が完全に無くなっては困るからな。
こちらとしてはあちらの侵略は最終的に失敗して欲しい。
だから無料で何か与える必要は無い。」
「分かりました。では、明日はその様に致します。」
「頼むぞ。」
…今のゴードン家で暗殺出来そうなのはグレアムくらいじゃないか。
なるほどゴードン公とグレアムの関係は良さそうだから、
この反乱の始末で跡継ぎが揺らぐとは思えない。
それならいっそ消してしまえばお家騒動に持ち込める。
…態度が悪い事はあるけど、基本は真面目な14才の少年を
簡単に殺せるんだ?
こいつらには手加減は無用で良いね。
翌日の昼にはコール家の者とボウ商会の者の密談が再度あった。
刺客は3日後に出すとの事。
3日後の夜にはまた来ないといけないのか…
寒いのに…
まあ、人命がかかっているからね。
コール家からグレンヴィル家に情報が行く筈だ。
グレンヴィル家の領主館にも調査に行く必要がある。
会議室では切羽詰まった顔の子爵が口角泡を飛ばしている。
「あちらが増強される前に夜襲をかけるんだ!
糧食を少しでも奪えばこちらの兵もひと息つける。」
「冬季の夜襲は一際兵に厳しいものになりますが…」
「座して死を待つわけにはいかん!
積極策で常に主導権を握らねば、寡兵なわれわれが勝てる訳が無い!」
陪臣の中で一際ゴツい中年男が応える。
「了解致しました。
始めてしまっている以上、上が足踏みしていれば兵が迷いましょう。
今夜、急いで兵を起こします。」
「頼んだぞ!」
こうして領主館から数騎が前線に向かった。
見積もりが甘く文字数が少なかったので、
明日の分から少し移しました。
明日の投稿が風前の灯火です。
書く内容は決まっているんだけど。