4−4 後背の敵
夜はフィンストン男爵を再び監視する。
あれ、手紙を見ている。
何々…ファントム卿からの手紙…
エフ様とか言っていたのはファントム某だったのか。
そして、フィンストン男爵とファントム卿は度々会える仲ではないのか?
手紙の指示は、
ゴードン領内裏組織がゴードン領内破壊分子と手を組んで活動するから、
手助けをする様に、詳細は人伝に連絡する…
つまり破壊活動の連絡は、
ファントム卿から何らかの裏組織へ伝わり、
王都のフィンストン男爵からフィンストン領に伝わり、
そしてゴードン領内の裏組織またはゴードン領内の何らかの勢力に伝わり、
破壊活動をすると。
普通に考えれば、ゴードン侯爵領の危機に王都から援軍を出し、
その隙に王都で再度反乱が、というシナリオだろうか。
だからまだハミルトン領の鎮圧に騎士団が派兵されている間に
ゴードン領への攻撃が必要だった、というところか。
一番問題なのはゴードン領内に破壊分子が存在し、
ゴードン領の上層部はその存在をそこまで重要視していない事だ。
明日はゴードン領の裏組織を調べないといけないか。
翌日の午後、フィンストン領には寄らずにゴードン領へ急ぐ。
城の会議室では領内の通行規制と兵力の再配置について議論している。
「しかし、通行規制で物流が停滞すれば商業が停滞し、物価が上がる。
軍事に予算を振らねばならない今の物価上昇は領の財政悪化に繋がる。
最低限にすべきだ!」
裏を知っている目で見ると、反乱分子寄りに見えるんだけど…
ただし、全般的に物価が上がる通行規制は反対の意見が多い。
一方…
「我が地域は領外と接しているからもっと駐留部隊を増やしてくれないと、
何かあった時に対応出来ない!」
「うちの地域はグレンヴィル部隊が今の封鎖を突破したら襲われる可能性がある。
駐留部隊を増やして欲しい。」
前線寄りの地域は兵力を欲しがり、後方寄りの地域は通行規制を嫌がる。
どっちも通れば何かあった時に防衛出来る訳がない。
当然会議は紛糾する。
「それでは、不満のある方は改善要望を提出しておいて下さい。
明日の会議で検討結果を報告します。」
退出する人達は口々に今の首脳陣に不満を述べている。
「閣下がいないと何も出来ないのか。」
「一度跡継ぎを考え直した方が良いのではないか。」
「次男のジェフリー様に今から指揮を取ってもらった方が良いのでは…」
「分家のノーマン様に手伝ってもらっては…」
…グレアムは充分態度の大きい男だよ!?
それより年下の方がもっと態度が大きいって事?
無理でしょ。14才でもいっぱいいっぱいなんだから。
でも分家のいとこの方が謙虚で良い奴かもしれないね。
…というかどう見ても反乱分子が嫌な雰囲気作ってるよね。
グレアムに騎士らしき男と文官らしき男がそれぞれ声をかける。
「兵力配置にはどうしたって文句が出る。
要望を検討はするが、基本は現状で構わないだろう。」
「通行規制で反感を買うのは分かっていた事です。
それでもやると決めたのだから、意見に多少配慮した修正程度で良い筈です。」
「分かっている。反感を買ったからと言って安易に計画を変えるのは良くないから。」
とは言え、目に見えて落ち込んでるなぁ。
覇気がないとグレアムじゃなくクレソンなんて呼ばれるぞ。
食べごたえがない。
元々食べてもまずそうだけど。
せっかくゴードン領の領都に来ているのだから、
商会を探してみるか…
大店の並ぶ辺りにボウ商会はなし。
普通の商店街には…あった。ボウ商会支店。
大きな倉庫に小さなお店…
倉庫に武器はないけど小麦はあるなぁ。
保存食とかはなし。つまり、あくまで小麦売買だけか。
まあ小麦が一番の戦略物資だけどね。
ここの領都はさすがに大きいが、
北東方面の都市が商業都市に見える。
領都はむしろ防衛拠点だから出入りを制限している。
ここには余所者をあまり入れない様にしているんだ。
だから、こちらより商業都市の裏組織を見た方が良いかもしれない。
向こうに行ってみよう。
うん、商業都市は城がない分、商家が多く、
大店も多い。
そして大きな倉庫に小さなお店…
ボウ商会がやはりある。
普通に帳簿を付けている人と、店番をしている人がいる。
御用聞きから帰ってきたらしい人が入ってきて、
帳簿を付けている人と商談について話をしている。
時間的に裏組織と連絡をつける事はないのではないか。
裏組織が活動が盛んになる時間に来ないと分からないなぁ…
冬の夜の山は本気で寒いから、夜の移動は避けたいけど、
一度裏組織を見極めないと活動が掴めない。
はぁ。一度帰ろう。