1−3 日曜の遭遇
日曜の午後には家を抜け出し平民街に出かける。町娘の格好をして。
どうせ誰かから私に声がかかる事は無い。
洋品店で小物を見ていると、通りに物々しい気配を感じる。
2・3人の前後を数人が護衛の様に付き従っている。
見るからに貴族のお忍びだ。
気配を消せないものかねぇ…
まあ、逆に気配を感じさせることで良からぬ輩が近づくのを防いでいるのかな。
男ばかりの様だから、今いる女向けの洋品店になぞ入ってこないだろう。
通り過ぎるのを待ってから店を出る。
ところが、図書館へ向かう途上の屋台でそいつらが何か飲んでいる。
なにやってるんだよ、おぼっちゃま。
こいつ、グレアム・ゴードンだ。
まあ、前回は挨拶すらしなかったから私の事など覚えていないだろう。
素知らぬ顔で通り過ぎようとすると…
「おい、そこの女。」
こっちは目線も合わせていないのにおい、と言って通じると思うなよ。
聞こえないふりで通り過ぎようとすると、
護衛が前に立ちはだかる。どこのゴロツキだよ、こいつら。
「何か御用でしょうか?」
「若がお呼びだ。」
若…嫌な響きだなぁ。
グレアムが話しかける。
「この前見たよな?どうしてこんな所でそんな格好をしている?」
「通りすがりの端女でございます。
何か失礼がありましたらお目溢し下さいます様、お願いします。」
「俺の事を知っているからその様な態度を取るのだろう?」
何言ってんだよ、どう見たって貴族のお忍びじゃないか。
「その様なお姿では貴族と見え見えでございますれば。」
「ほう、どこがだ?」
「まず御髪が整っている。
次に顔が毎日洗っている様に小綺麗です。
そして服が平民にしては上等で新品でございます。」
護衛の気配もばればれなんだが、そこは小娘には分からないフリをしてやろう。
「それでその様な姿をしているのか。」
「貧しい身なればこれで精一杯でございます。」
これ以上服に使うと、蓄えが出来ないんだ。
グレアムもそうだが、隣の少年がじっとこちらを見ている。
品定めしないでよ。
おぼっちゃまやらその連れやらには相応しい女がいくらでもいるだろうに。
「名前を聞こうか。」
「リンジーにございます。」
後ろ二文字だけ名乗って差し上げましょう。
だいたい、態度がお貴族様なんだよね。
お忍びならそれらしく大人しく出来ないもんかねぇ。
「それで、何をしているんだ?
女の一人歩きは不用心だろう。」
あんた達みたいなのが話しかけてくるからね。
でもこんな子供に普通は話しかけないんだよ。
「休息日なれば町を歩く許しも出ただけにございます。
特に用などございません。」
「ほう、それなら…」そこで隣の少年が声をかけた。
「グレイ」
グレアムの偽名はグレイか。
少年とグレアムはアイコンタクトをしている。
BLかなぁ。
少年が話しかけてくる。
「ごめんね、邪魔をして。
この人はちょっと態度が悪いから、気になったならごめんね。」
「そんな事はありませんよ。それでは失礼します。」
ささっとこの集団から離れる。
何かケチがついたなぁ…
さっさと図書館に行こう。
図書館では女官試験用のテキストを手にして開いた机に座る。
僅かな時間だけど態度の悪いやつの相手をしたので疲れたなぁ。
テキストから要点を書きつけ用の紙束に書いていく。
ふぁぁあ。眠い。
…
……
………
とんとん、と肩を突かれているのに気づく。
ふぁあ?
グレアムと少年が机の隣に立っている。
やばっ、付けられたか。
グレアムがさっきの調子で話しかける。
「何やってんだよ?」
勉強…してた筈だけど寝てたかねぇ。
今日は厄日だ。もう帰ろう。
ぱたん、とテキストを閉じて書きつけをカバンに仕舞う。
「おい!」
グレアムが不機嫌そうに話しかけるが無視だ。
粘着男の相手をする女などいないと知れ。
テキストを本棚に返してそのまま図書館を出る。
だけど、距離をおいて連中が付いてくる。
まあ、撒き方などいくらでもあるけど…
む、別枠が付いてくる。
貴族の護衛が付けている女をどうにかしようなんて、馬鹿な連中だなぁ…
気配も読めないのか。
とキャサリンは思うが、キャサリンの場合は気配を読んでいる訳ではない。
見ていない方向も能力で見えるだけだ。
となると、うまく誘い込んでグレアム達に捕まえさせて、
どさくさに紛れて逃げるのが良いか。
という訳で、グレアム達がそこそこの距離で追いつける様な速度で歩く。
で、ここを曲がると…
「いない!?」
「女はどこだ!?」
「こっちだよ。」
3人の男達は、8ft程の高さの壁に座るキャサリンを見つける。
「行き止まりに追い詰めて何するつもり?
こんな年端のいかない女に手を出そうなんて、
もてない男は嫌だねぇ。」
「手前!」
「降りてこい!」
「嫌だよ。ばいばーい。」
キャサリンは壁の向こう側に倒れる様に消えていく。
行き止まりの先には門があるが、閉鎖されている。
「畜生!」
「顔を見られた!乗り越えて追いかけるぞ!」
そこにグレアム達が到着した。
「何をしている!」
キャサリンを追いかけていた男達はグレアム達に気付いていなかったから
驚いている。
「何だ手前等は!」
「お前らを騎士団詰め所に連れて行ってやる善意の市民だよ。」
平民のワルと侯爵家の護衛では勝負にならない。
男達は取り押さえられたが…
「女はどこにいった!?」
「壁の向こうに行っちまったよ。」
侯爵家とは言え、持ち主の分からない敷地に無断で入る訳にはいかない。
「無茶をする女だな…」
グレアムはぼやくが、
隣の少年は難しい顔をして壁を見つめていた。
連休なので撮りためたネット小説系アニメをいくつか見ました。
劣等生は相変わらずのレベルですが、飛び膝蹴りは寸止め出来るんだ、
と不思議に思いました。飛行魔法の応用かなぁ。
鑑定貴族(タイトル忘れた)は能力を隠しているのに
能力を使った結果を堂々と話しているのは、
ちょっと強引かな、と思いました。
あ、なんか降ってきた…唾!?