3−14 反乱計画
ゴードン邸も大分騒がしい。
にも関わらず応接室を借りられている。
こういう部屋は寄子との作戦会議とかに使ったほうが良いんじゃないか?
まあ部下でも何でもない私なので、お客さん扱いとも言えるが。
さて、昨日ハミルトン公が何やら取り出していたのは
蓋付き鍵付きの本棚だった。
上段の端から眺めては簡単なメモを書いていく。
…これだな。昨日見た表紙だ。
公爵領から王都への街道図が折りたたんである。
移動の日数と兵力に合わせた補給量…
今日の日付が移動開始日として書かれているけど…
あれか、昨日のうちに伝書鳩でも飛ばしたのか。
まあ、憶測はいい。お利口さんがやってくれればいいんだ。
さて、どこまで書き写そうか…
うん、超簡略化して書こう。
50ページもある書類を全部書き写してたら日が暮れる。
新しいメモが書いてある周囲だけ真面目に写そう。
この日程通りに移動したら、多分風とか潮とか月齢が有利になるのか…
この国には海がないから多分月齢、新月の日が決行なんじゃないかな。
まあ反乱側も見通しが悪いから大変だけど。
本棚の中段にも昨日出し入れしてた書類がある筈。
順番にメモを簡単に取って…これだ。
げ、王宮見取り図…まずい、グレアムに許可を貰わないと写しなんか
取れない。
侍女のジョディーにグレアムを呼んでもらう。
「どうした!」
「えーと、まず昨日メイトラム家に届いていた
ゴースト卿からの手紙の写しがこれ。」
何々、と読むグレアム。
「…馬鹿野郎!最初に言え!」
「それは兎も角、昨日マクギール子爵が手紙に書いてた内容がこれ、
送ってた一覧がこれ。」
急いで読むグレアム。
「これも最初に報告すべき事だろう!
お前、緊張感がないのか!」
「もう最近、こんなのばっかりだから緊張感なんてないよ。
で、今さっき写したのがこれ。」
ハミルトン領から王都への進軍スケジュールを見せられて
完全に興奮した馬状態のグレアム。
「すぐ王宮へ行ってくる!」
「待て待て、一番相談したい事が残ってる!」
「一体何だ!」
「ハミルトン公の本棚に王宮の見取り図があったんだよ。
また作戦計画が書いてあるかもしれないけど、
貴族令嬢如きの判断で見る事は出来ないでしょ。
上に判断を仰いでよ。
後から口封じはなしの前提で聞いて。」
頭を抱えてしまったグレアム。
どう考えても最重要書類で早急に写しを取るべきだが、
ただの写しで計画が書いてなかったら確かに口封じされかねない。
「ちょっと確認して、新規の書き込みだけメモしてみろ。」
「ちょっと待ってね。」
…
「これ駄目な奴だ。隠し通路を通って侵入となってる。」
「ちょっと待て、父上に判断を仰ぐ。」
「私、地図が読めない女だからもう忘れた、と一言付け加えて。」
「なるべく好意的な判断を頼んではみる。」
「絶対好意的な判断にして!」
「俺にはどうにもならん。」
「役立たず!」
という事で、いつぞやの茶会で一度だけ顔を見たゴードン侯爵家当主、
エドワード・ゴードン候が入室してくる。
「挨拶は不要だ。
君は王家の協力者として捜査しているという扱いだ。
まず昨日グレアムに話した事以降に分かった事を説明してくれ。」
「メイトラム家にはゴースト卿なる人物からの手紙で王都近郊まで
派兵する様に指示がありました。
マクギール家からは
反乱勢力に宛てたと思われる手紙が多数送られた模様です。
以上は昨晩の情報です。
本日の情報としてはハミルトン領から王都への進軍スケジュールが見つかり、
本日出発になっています。
情報伝達の問題は検討が必要と思われます。
最後に、ハミルトン公の書斎に王宮の見取り図が置いてあり、
隠し通路と思われる侵入ルートが書いてありますが、
これの写しを取って良いのか判断が出来ずに先ほどグレアム様に
相談したところです。」
内容はグレアムが相談した筈だ。
私に他意があるかどうかを見る為、
あとゴードン候が考える時間が必要だから私に報告させたんだろう。
それでも10秒以上、ゴードン候は沈思黙考していた。
「写しを取ってくれ。
但し、その写しはすぐ我々が王宮に持って行く。
決してそれ以外の写しは作らない様に。
ここで待たせてもらう。写しを作ってくれ。」
ひー…グレアムより数倍怖い顔に見られながら写しを取るって、
手が震えちゃうよ…
「書き込みのあるページだけ写しました。」
「それで良い。見せてくれ。」
…
「ありがとう、重要情報が手に入って良かった。
これから私とグレアムが王宮に行って判断を仰ぐ。
グレアムが回答を持ってくるまでここで調査を続けてくれ。」
「はい。分かりました。」
絞首台の前で仕事をさせるなんて酷いんだけど、
まあ上位貴族なんてこんなもんだ。
もうひとつハミルトン公が昨日見ていた書類を本棚の下段に見つけた。
王都郊外の軍駐屯地の見取り図と作戦計画と思われる書き込み…
駐屯地の中心部分は書かなくて良いね。
この本棚の書類一覧のメモが完成した頃、
グレアムが戻ってきた。
そろそろ時間だから帰って良いとの事。
もっとも軍駐屯地襲撃計画を持ってグレアムはすぐ王宮へ戻っていった。
私の帰りの馬車には前後2騎ずつ護衛が付いた。
護衛か監視かよく分からないけど。
タイトルが決まりませんでした。